東大の推薦入試は「教育再生実行会議」の先取り? ‐渡辺敦司‐

東京大学が2016(平成28)年度から推薦入試を導入することは昨年、方針を決定した段階で紹介しました。東大はこのほど、その詳細を公表しました。改めて注目したいのは、「1点刻み」の入試を改めることを提言した、政府の教育再生実行会議の第4次提言(外部のPDFにリンク)との共通点です。

東大の推薦入試は「教育再生実行会議」の先取り? ‐渡辺敦司‐


「推薦入試」というと、世間では一般入試ほど学力を厳密に問われないというイメージがいまだに根強いようです。特に保護者世代には、そうしたイメージが顕著なのではないでしょうか。そのため昨年、東大が推薦入試の導入方針を発表した時、ずいぶん批判的な意見も見られました。しかし昨年の記事でも紹介したとおり、その推薦基準は相当高いことが、出願に当たって求める書類などから見て取れます。TOEFLや英検など外国語に関する語学力の証明書、数学など科学オリンピックの顕著な成績、論文や作品、発表の国際的・全国的な受賞歴、数か月以上の国際ボランティア……。募集人員は100人ですが、合格者が100人に満たない場合は、残りの枠を原則として前期日程に繰り入れると言いますから、あくまで優秀な受験生を採るための入試方式であることがうかがえます。しかも、書類審査による第1次選考(11月)と面接等(12月)を経たあと、大学入試センター試験(1月)でおおむね8割以上の得点を「基礎学力」の目安にするとしています。

これを、第4次提言と比べてみましょう。提言ではセンター試験などによる1点刻みの合否判定を改め、「達成度テスト(発展レベル)」(仮称)の結果は段階別のレベルで示すにとどめ、能力・意欲・適性や活動歴を多面的・総合的に評価して合否を判定するよう求めています。つまり東大の推薦入試は、現行のセンター試験を達成度テストのように段階別レベルで判定するものとして利用したうえで、何を「多面的・総合的」に評価するのかを具体的に指し示したものと言うことができます。
第4次提言が発表された時、これを「人物本位」の入試を進めるものだとして批判的な意見も見られました。しかし東大の事例でわかるとおり、決して「人物」などという抽象的なものではなく、入学後に活躍できる高い能力を判定できる具体的な資料に基づく選抜を各大学で工夫することを求めたものなのです。

その入学後に求められる能力ですが、東大の場合は一般入学生も含めて「世界的視野をもった市民的エリート」(東大憲章)を育成するとしており、そのため推薦入学生にも「グローバルな場でリーダーシップを発揮する素質を持つ学生」(法学部)、「異なる思考様式や文化的背景を持つ人々とのコミュニケーション能力」(工学部)などを求めています。これも第4次提言がグローバル人材やイノベーション人材を育成するために高校・大学・入試の一体改革を進めようとしていることに対応していると言えます。
東大が具体像を示したことにより、各大学でも多面的・総合的な入試に向けた試みの検討が進んでいくことでしょう。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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