「学習障害」とは?知っておきたい症状と特徴について

子どもが極端に漢字を書くのが下手だったり、極端に教科書を読むのが遅かったりする場合、もしかしたら学習障害の疑いがあるかもしれません。
学習障害と聞くと「学習障害の子どもは成績がわるい」と、固定観念を持つ人もいると思います。しかし近年、トム・クルーズやスティーブン・スピルバーグ監督ら有名な人々が学習障害であることを告白するニュースが度々話題になっています。
学習障害をうまく克服する方法さえ見つければ、彼らのように夢を諦めないことも可能なのです。保護者が正しく対応できるように、今回は子どもの学習障害の症状や特徴についてご紹介します。

学習障害(LD)とは?

学習障害は、読み書きや計算などに関する障害で、発達障害に分類されます。文部科学省が発行している「学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指導方法に関する調査研究協力者会議」において、学習障害は次のように定義されています。

「学習障害とは、基本的には、全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論するなどの特定の能力の習得と使用に著しい困難を示す、さまざまな障害を指すものである。」(※1)

このような特徴があるため、学習障害の疑いがある子どもは、学校の勉強についていけないケースがあります。文部科学省は、学習障害を含め、あらゆる障害によって生活や学習において困難を強いられている子どもを支援するため、学校教育法において「特別支援教育」を定めました。

特別支援教育では、学習障害を含むさまざまな障害を持つ幼児および児童生徒が、生活や学習の上での困難を克服または改善できるよう、個々の能力を高めるための指導と支援を行います。教育において、その子どもにはなにが必要なのかを把握し、個々に合った学校生活を送れるよう環境を整えることが推進されています。(※2)

学習障害は、(脳やせき髄の神経細胞が集まった部位である)中枢神経系のなんらかの機能が障害されることで起こるものと考えられています。あらゆる器官を通して入ってくる情報を整理したり関連づけたりし、それを表現するという能力のうち、いずれかの機能に異常があることで学習障害になると推察されています。

しかしながら、具体的に中枢神経系のどこにどのような障害が起きているのかについては、明らかになっていません。なお、学習障害は、視覚や聴覚、情緒などの障害や、育てられ方、身を置いている環境などによる学習上の困難とは異なります。また、教科の好き嫌いや学習意欲が足りないといったものでもありません。(※3)

学習障害(LD)の子どもの特徴と対処法について

学習障害の子どもは、読み書きや話すこと、計算、推論などの能力の習得と使用が極端に苦手であることが大きな特徴です。このような特徴から、単なる勉強嫌いや知的障害と間違われやすいと言われています。知的障害は、全般的な知的機能が同年齢の子どもよりも低いことが特徴です。そのため、学習以外の部分にも注目することで、学習障害と知的障害のどちらであるかが疑われるのかを見分けられるでしょう。(※4)

学習障害には、読み書きが苦手なタイプ、計算が苦手なタイプ、文章を理解できるものの書き写すことが苦手なタイプなどがあります。それぞれの特徴と、適した勉強法、トレーニングなどについてご紹介します。

・読み書き障害(ディスレクシア)
読み書きの障害は、発達性ディスレクシアと呼ばれます。知的能力に問題がないにもかかわらず、読み書きの能力の習得が困難な状態です。

【症状・特徴例】
発達性ディスレクシアでは、次のような特徴がみられます。

1. 文末などを自分の好きなように変えて読む
2. 単語や文節など不自然なところで区切って読む
3. 助詞の「は」を「わ」と書く
4. 「め」と「ぬ」などかたちが似ている文字を間違えて書く
5. 文字を反転させて書いてしまう
6. 自分で書いた文字を読めない

このような症状は、目で見た字を音へと変換することが困難なために生じるものと考えられています(※5)。

【トレーニング例】ビジョントレーニング
読み書き障害は、ビジョントレーニングによって緩和できる可能性があります。ビジョントレーニングは、眼球の動きをコントロールする力、空間認識能力などを高めることを目的としています。ビジョントレーナーと呼ばれる専門家の指導を受けましょう。ビジョントレーナーは、発達支援センターや各自治体を経由して探すことができます。

また、教科書を拡大コピーして大きくしたり、文節に区切りを入れたりすることで、適切に読めるようになる可能性があります。これらの効果については個人差があるため、過度な期待は禁物です。教師や専門家と相談しつつ、その子どもに合った方法を模索しましょう。

・算数障害
【症状・特徴例】
算数障害の子どもは、くり上がりの計算や文章問題を解けないことが特徴です。くり上がりの計算ができないことには、直前のできごとを記憶する能力の低下が関係していると言われています。また、文章問題を解けないことについては、読み書き障害と同じく、得た情報を別のものへと置き換える能力が低いためと考えられます。

【トレーニング例】
算数が楽しいと思えるように、パソコンやタブレットなどの電子機器を使うとよいでしょう。また、文章問題を解く能力が低い場合には、文章を絵や図に置き換えるなど、一目で見て理解できるよう工夫することが効果的と言われています。これらの効果には個人差がありますが、その子どもに合っていれば、以前よりも楽に計算を解けるようになるかもしれません。(※6)

・書字表出障害
【症状・特徴例】
文章を読んだり意味を理解したりすることはできますが、それを文字に書き起こすことができません。鏡文字になったり、文字として認識できないかたちに書いたりしてしまいます。また、文法的に正しい文章を書くことも苦手です。

【トレーニング例】
正しく漢字を覚えるために、へんやつくりを組み合わせて漢字をつくる教材を利用したり、漢字の成り立ちを理解したりすることが効果的と言われています。また、文字を書くことにこだわるのではなく、ワープロなどを並行して使うことも1つのトレーニング法です。黒板の文字を書き写すことが難しい場合は、カメラで撮影してあとから書き写すなど工夫しましょう。このようなトレーニング法の効果には個人差があり、学習障害の治療になるわけではありませんが、数字と向き合う気持ちが高まったり、以前よりも計算を解けるようになったりする可能性があります。

上話以外の症状の1つに、物と物の位置関係や自分がどの位置に立っているのかが認識できない場合があります。このような場合には、まず自分とまわりの物の位置関係をどれだけ把握できているのかを明らかにすることが大切です。そして、学校周辺の地図を作製したり、パズルや積み木を組み立てたりすることが効果的と言われています。

学習障害の子どもとの向き合い方のコツ

学習障害の症状には個人差があるため、教師や保護者は個々に合った指導法を模索する姿勢が求められます。学校教育法において定められている特別支援教育により、個々に合った指導を受けられるようになっています。学習障害の子どもは、これまでの失敗やまわりの大人から叱られた経験が多いことで、自信を失っている傾向があるため、まずは自信を取り戻せるようにサポートすることが大切です。(※7)

学習障害の子どもが、学習や生活の上での困難をすこしでも改善・克服できるように、適切に向き合うことが大切です。次のようなことを心がけましょう。

・個々に合った勉強法やトレーニング法を見極める
学習障害の症状には個人差があるため、適した勉強法やトレーニング法は子どもによって異なります。その子どもに合った勉強法、トレーニング法を見極めることが大切です。これは、保護者だけ、教師だけで考えられるものではありません。子どもにかかわるまわりの大人が協力し合い、最善の勉強法とトレーニング法を考えましょう。

・苦手意識をつくらせないために、楽しく勉強できる環境づくりをすること
読み書きや計算などがうまくできないからと言って、まわりの大人が子どもを叱ってしまうと、その科目に苦手意識を持ってしまう可能性があります。そうなると、勉強法やトレーニング法を工夫しても、前向きに取り組めなくなるかもしれません。子どもが苦手意識を持たないように、楽しく勉強できる環境を整えましょう。

・できないことを責めないこと
学習障害の子どもは、勉強が嫌いであるために読み書きや計算ができないわけではありません。そのため、できないことを責めてしまうと、つらい思いをしてしまう可能性があります。できないわが子にイラ立ちを覚える方もいますが、できないことを受け入れた上で、子どもにとってよい環境を整えるようにしましょう。

・甘やかし過ぎない
子どものミスを見逃すことや、欲求をすべてみたすことは望ましい結果を生まないという意見があります。ほめることは大切ですが、不必要にほめてしまうと、「できなくても大丈夫」と思い、勉強に向き合う姿勢を持てなくなるかもしれません。どこまでできたのか、その成功率などの事実に基づいて評価することが大切です。(※8)

周囲のサポートを受けながら子どもと向き合おう

学習障害は、読み書き、計算、推論などのいずれかが極めて苦手なことが特徴です。「もしかして学習障害かも?」と思ったら、まずは自治体や専門機関に相談しましょう。専門家や教師の協力を得て、1人で悩まないことが大切です。学習障害と診断された場合には、子どもの症状を把握して、適切な勉強法やトレーニング法を実践していきましょう。

参照元
(※1)引用:『学習障害児に対する指導について(報告)』(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/03110701/005.pdf P.2

(※2)参考:『特別支援教育について』(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/main.htm

(※3)参考:『学習障害児に対する指導について(報告)』(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/03110701/005.pdf P.3~4

(※4)参考:『知的障害(精神遅滞)』(厚生労働省)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-04-004.html

(※5)参考:『学習障害』(厚生労働省)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-03-004.html

(※6)参考:『学習障害について』(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/046/siryo/attach/1311208.htm

(※7)参考:『特別支援教育について』(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/004/008.htm

(※8)参考『学習障害(LD)を含む学習困難な児童生徒の指導方法』(京都府総合教育センター)
https://www.kyoto-be.ne.jp/ed-center/gakko/kyosi/h9/syoken/98syoken.pdf P.46

プロフィール



1959年神奈川県生まれ。1985年、東京大学医学部医学科卒。医学博士、精神保健指定医。都立松沢病院、東京大学附属病院精神科、埼玉医科大学精神科などを経て、2012年より昭和大学医学部精神医学講座主任教授に。2015年より昭和大学附属烏山病院院長を兼任し、ADHD専門外来を担当。精神疾患の認知機能、司法精神医療、発達障害の臨床研究などを主な研究分野としている。『心の病が職場を潰す』(新潮新書)、『大人のADHD もっとも身近な発達障害』(ちくま新書)、『発達障害』(文春新書)など、著書多数。

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