2021/10/05

「選んだ道を正解にする」 自分を信じて進路を選択し、事業を生み出す/久保 駿貴

 様々な場所で色とりどりに活躍している20代、30代。彼らのインタビューを通して、これからの社会で活躍し、「Well-being」に生きるためのヒントを探っていきます。
 今回は、他社の最終面接まで勝ち進んだ、優秀な学生をスカウトできる新卒採用のサービスを立ち上げた株式会社ABABAの久保 駿貴さんにお話をうかがいました。
久保 駿貴

久保 駿貴

株式会社ABABA(アババ) 代表取締役
1997年生まれ。兵庫県出身。2021年岡山大学理学部卒業後、神戸大学大学院海事科学研究科入学。同年9月をもって退学し、10月より岡山大学大学院に進学。岡山大学在学中に「最終面接までの頑張りが評価され、オファーが届く新卒採用のサービス」を提供する株式会社ABABA(https://abababa.jp/home)を創業。同サービスは経済産業大臣賞受賞。全サービスをノーコードで開発したスタートアップとしても注目される。

「お祈りメール」を他社への推薦に転換する
「ABABA(アババ)」を創業

 3年前、大学3年生になった私の周囲には、就職活動に明け暮れる友人があふれていました。大学院進学を希望していた私を尻目に、就職を希望する友人たちは日々、企業からの合否連絡に一喜一憂していました。そうした中で、忘れられない出来事が起こります。仲のよい友人のもとに、第一志望で最終面接まで進んでいた企業から「お祈りメール」が届いたのです。「お祈りメール」とは企業からの不採用通知のこと。「一層のご活躍をお祈り申し上げます。」と締めくくられていることから、就活生の間ではそう呼ばれています。
「もうこの会社が関わる商品は一生買わない!」
 そう毒づく友人を懸命に励ましたのですが、彼は日に日に元気を失っていきました。そして、最終的にはうつのような状態になってしまったのです。憧れの企業に就職できなかっただけでなく、第一志望の企業にかけてきた労力や時間、費用がすべて無駄になり、ゼロから就職活動をしなければいけないことにも、彼は苦しんでいるようでした。
 「最終面接で落とす」ことには、その企業にとっても、「大ファン」を「大アンチ」に変えてしまうリスクがあるはずです。「この状況は誰も幸せにならない」、そうした思いから、私は解決策を模索し始めました。
 調べていくうちにわかったのは、就活生の実に7人に1人が「就活うつ」と呼ばれる状況に陥ることでした。中には、自ら死を選んでしまう方がいることも知り、私は衝撃を受けました。友人の問題に端を発して関心を持ったことでしたが、就職活動には大きな社会問題が横たわっていることを知ったのです。
 優秀な学生の「就活うつ」を防ぐために何ができるのか、ヒントを得るために、企業の人事担当者にヒアリングをしました。すると、最終面接で不合格となるのは、実力はほぼ保証されているけれども、社長・役員との相性や企業文化が合わない、あるいは景気の問題で採用人数を減らさざるを得なかったといった背景があることがわかりました。そして、「他社の最終面接で落ちた学生は、一定の能力が担保されているので、むしろ採用したい」といった企業の本音が見えてきたのです。加えて、人事担当者には、機械的に不採用のメールを出しているのではなく、「いつも泣きながら送っています」と言われました。「素晴らしい学生でしたから、他の企業に紹介したいと思うくらいです」という声も聞かれたのです。
 学生の状況と人事担当者の思いを受けて、私は大学4年次となった2020年11月、ABABA(アババ)をリリースしました。それは、「自社で惜しくも採用できなかった学生を企業間で推薦し、同時に他社の最終まで進んだ学生をスカウトできるプラットフォーム」です。現在は、月間スカウト数が1200件を突破するまでに拡大しました。

ノーコード開発やSNS活用など
新たな形の企業経営を次代にもつなげたい

 ABABAは、私にとって3つ目の事業です。最初の事業は、クラウドファンディングで資金を集める段階で大失敗。アイデアを事業化する難しさを突きつけられた、貴重な経験をしました。
 その手痛い経験から、ABABAの立ち上げに際し、初期費用を極力抑えようと考えました。そこで行き着いたのが、プログラミング言語を使わずに、ビジュアル化したパーツを組み合わせて、ウェブサイトやアプリケーションを作る、ノーコード開発です。これで、開発のハードルが格段に下がりました。
 ABABAでは、2013年に開発された「Bubble」というツールを使いました。今回の事業を立ち上げるために調べて、初めてその存在を知りました。私自身も勉強をし、ABABAを開発しましたが、さらなるサービス成長のためには詳しい人に協力してもらった方が早いと考え、TwitterでBubbleが得意な人を探し出し、事業を説明して口説き落としました。その時に出会ったのが、現在ABABAのCTOを務めている中田 圭太郎です。
 スタートアップは、VC(ベンチャーキャピタル)やエンジェル投資家から投資を受けるケースも多いです。しかし、私は複数のピッチコンテスト(スタートアップ等の起業家などを対象に、投資家などの審査員に対して事業計画をプレゼンテーションするイベントのこと)に出場し賞金を得て、初期費用をまかないました。ピッチコンテストには資金的なメリット以外にも、広く社会に事業について知ってもらえるという広報的な意味合いもあります。実際にピッチコンテストへ出場したことをきっかけに、企業からお声を掛けてもらい活用がスタートしたことも多くありました。
 また、ABABAのサービスをより知ってもらうために、Twitterで企業の人事の方のアカウントにも直接メッセージを送りました。共感してくれる方が多く、数ヶ月で何十社という単位で活用してくださる企業が増えていきました。学生への情報発信も同様です。ABABAのサービスは、学生にとってはノーリスクでメリットしかありません。ひとりでも多くの学生に、ABABAを知ってもらえるように情報発信を続けています。
 私のように、資金はない中で起業を目指す若手には、ノーコードでの開発やSNS発信を勧めています。現在のスタートアップは、投資を受けた資金をすべて初期の開発費に充てる傾向があります。しかし、資金をマーケティングや広報にかけることができれば、事業拡大のスピードは格段に早くなるはずです。起業時はリソースが限られているものです。しかし、そこで諦めてしまうのではなく、あらゆる可能性を試し、実現できる方法を探すことが大事だと思います。それを多くの人に知ってほしいと考えています。
 現在は、毎日12時間ほど働いています。睡眠・食事・風呂といった基本的な生活以外の時間すべてを仕事に充てています。そうした中でも大切にしているのは、起業を志す後輩などからの相談に応えることです。私自身、起業時にはたくさんの先輩にお世話になり、その先輩たちが「久保が次の世代につないでいけばいい」と言ってくださったからです。ノーコードでの事業立ち上げのメリットも含め、起業に関わる多様な情報を後輩に伝えることは、私の義務だと捉えています。

私が学生でいる理由
「研究とビジネスのシナジーを生みたい」

 学生の起業は、リスクが低いと考えます。社会人は本業が優先となり、時間の制約がありますが、学生は授業以外の時間の使い方は自由であり、時間の都合をつけやすいからです。それならば、私はおもしろい挑戦に自由な時間を使おうと、事業を立ち上げました。
 ABABAの起業後、神戸大学大学院に進学しましたが、今年、岡山大学大学院へ移りました。周りからは、「仕事があるのになぜ、学生を続けるのか?」と尋ねられます。それは、私にとって、学びは仕事につながるからです。学びたいという意欲はもちろん、大学の研究とビジネスの間にシナジーを生みたいという思いがあります。
 大学の研究室には高い専門性と技術がありますが、ビジネスの観点が希薄です。そもそもビジネスに関心がないと言えるかもしれません。しかし、研究とビジネスとをつなげることで、社会に役立つ何かを生み出せるはずです。「大学発ベンチャー」はその最たるものであり、研究とビジネスとのかけ橋として、少しでも役に立ちたいと思っています。
 負けず嫌いな私は、自分が納得できないキャリアは歩みたくないと考え、大学時代に転学しました。今度は大学院を移りましたが、それに対してあれこれ言う人もいます。企業の代表と大学院生という2つの顔を持つことは、決して楽ではありませんが、迷った時には、自分が後悔しない道を選んでいます。選んだ道が正解となるように進んでいけばよいのです。

誰かのために生きることが自分の使命
厳しい状況にある子どもたちを支援したい

 ABABAを利用していただいた学生や採用担当者から、たくさんの感謝の言葉をいただいています。その声は、そのまま私のやりがいにつながっています。15人の最高の仲間と一緒に仕事ができていることも幸せですね。ABABAの事業を通じて社会に貢献していきたいと思っていますが、20年後も、40年後も「誰かの役に立つことをする」という軸は変わらないでしょう。
 特に、十分に可能性を伸ばすことができていない子どもたちをサポートしたいという思いを、強く持っています。私は、幸運にも十分な教育を受ける機会に恵まれました。だからこそ、そうでない子どもたちのために働くことは、私に与えられた使命だと考えているのです。
 知識だけ身につければよいという時代がもう終わった今、教育は大きな過渡期を迎えているといえます。これまでの日本の教育は、尖っている部分を抑えさせ、すべてにおいて平均的な力をつけようとする傾向が強かったかもしれません。しかし、これからは、極端な話、国語は0点でも、数学は100点というように、凸凹があってもよいと思うのです。100点の数学をさらに伸ばして200点にしようという教育があってもいいですし、膨大な知識を身につけていなくても、1つの分野、例えばプログラミングだけは卓越した知識と技術を持っている、というのもよいと思うのです。子どもが可能性を伸ばせる場やサポートする先生の存在が、一層求められていると思っています。
 中高生には、学校だけが学習の場ではないと伝えたいです。今や、「Udemy」などのオンライン講座は充実しています。誰かに「教えてほしい」と連絡を取れば、みんな教えてくれますし、私もいつでも相談に乗ります。学ぼうと思えば自分で学べる環境は、どんどん整ってきています。自分でアクションを起こして、気軽にいろいろなことにトライできる特権を、学生は持っているのです。失敗しても寝たら忘れるくらいの気持ちで、どんどんチャレンジしていきましょう。

編集後記

 「自分が選んだ道を正解にしていけばいい」という言葉を、久保さんは身をもって体現しているのだと感じました。すべてを肯定していく力強さがあるからこそ、失敗が失敗ではなくなっていくのでしょう。「どんなチャレンジをしても、きっと正解に変えていける」という久保さんから刺激をいただき、私も前へ前へと背中を押されました。
 久保さんの「これから」も、きっとチャレンジに満ちあふれたものとなるでしょう。そのチャレンジが、今、支援の手が届いていない子どもたちに向かっていく可能性があるということがこの上なくうれしく思います。私も教育に携わる者の一人として、自分に何ができるのかを問い続ける取材の時間となりました。
2021年7月19日取材