人間は社会的な動物なので、誰かの役に立つ実感を通してこそ、自己肯定感が高められる。社会では立場ごとに異なる観点があり、それら多様な観点を理解することが社会の中では求められる。大学は地域のハブそのものであり、学生にとっては社会との接点になる場だ。学生の大きな野望を育むために、まずは社会の中で小さな成功体験を積み重ねる場を提供しよう。この章では、大学が学生にとって社会との接点となる場になるためのヒントをまとめておきたい。
自分と社会をつなぐには、自分以外の他者の視点で周囲を観察することが肝心だ。ある社会課題に直面している当事者になりきり、課題を当事者として想像する。立場の違いを超えて、それぞれの当事者の目線に立つ。そんな経験は、社会の分断をつなぐことに役立つ。他者の気持ちを理解し、他者の立場で考える練習として「演劇的な」要素を授業に取り入れてみよう。複数の当事者の立場で考えることで、一方からは良いことでも、他方からは悪いことになりうる。そんなジレンマを発見する学びを提供しよう。こうした主体的観察から、視座をあげて双方それぞれにとって納得感のある解決策を見つけ出すスキルは、生きるために大いに役立つ。こうした学びこそ、社会で起こる複雑な問題を解決する練習となるだろう。
事例
他者視点での問いをつくる授業。他者の観点は学生の社会への関心を高め、視野の広い考え方を促す。
「学びは『問い』から。新聞を教材に、社会を俯瞰し、『問い続ける力』を育む」。
大学はそもそも地域にとって大切なハブとなる場所だ。入学した学生は、大学のある街の住民のようなもの。さらに社会を形つくるステークホルダーとして企業がある。そして大学は、学問と社会をつなぐ扉でもある。だからこそ大学は、学生が地域や企業とかかわり、小さく社会を変える体験を提供しよう。そうすれば学生にも「自分が国や社会を変えられる」という実感を提供できるはずだ。
街や企業とのハブとしての大学、コミュニティとしての大学など、地域を活性化させるエコシステムの一部として、大学を機能させよう。学生の時期に地域と関係すれば、学びや実験に専心できる特異な立場として、学生は社会参加できる。それは心理的に安全な社会とのかかわり方として、絶好の機会となるだろう。地域社会と大学のつながりは、まさに実学そのものだ。その経験から学生は社会や地域を変える主体的な大人へと成長するだろう。
事例
『オープンサイエンス』×『企業連携』×『ジグソー法』でSociety 5.0のデータサイエンスを学ぶ
多くの人にとって、自分の将来をリアルに感じられるのは、ロールモデルになる大人に出会ったときだろう。つまりどんな人に出会えるか、その出会いを演出できるかが大学の役割となる。高い専門性を発揮している大人や、実際に社会を変えた大人と出会う機会を提供しよう。学生が将来やりたい道の先を走る圧倒的な存在と出会える機会をつくり、学生に自分の将来を未来から逆算させ、今目の前にあるやるべきことを発見させよう。
また学内外を問わず、多様な経験を持つ同世代や年下など、学生時代に出会う人々は、学生の未来に強い影響を与える。大学は世代を超えて多様な挑戦者と出会う機会を設けよう。そうすれば学生は、自分の進む道にも多様な選択肢があることに気づくだろう。
社会とつながり、ロールモデルになる他者と出会うことは、自分自身の未来の探究へとつながっていく。他者との出会いが思考の「枠」を取り払い、新たな思考様式を手に入れることで人は成長する。
事例
実践重視のカリキュラム、現役実務家教員による伴走、多くの起業家たちや仲間たちとの対話を通じてアントレプレナーシップを育む。
多様な観点の獲得のためには、日本国内にとどまらず世界を知ることも大切だ。大学は学生の想像できる範囲を、地球規模にまで広げるきっかけを用意しよう。オンラインでもリアルでも、世界と出合う機会を学生時代に経験させよう。大切なのは、多様な人々と出会いたいという意欲を育むことだ。大学は多様性に出合う機会をすでに持っている。例えば大学には留学生がいるが、日本人学生に国を超えた学生間の出会いを提供しているだろうか。その機会を促進する仕組みをつくろう。
学生たちは世界の多様な人々との出会いから、自己成長や自己実現にとどまらない、スケールの大きな目標に出合うかもしれない。大きな目標は必然的に、持続可能性やソーシャルグッドにもつながる。世界の隣人としての実感から、大きな挑戦に挑む野望ある学生を育もう。