2013/08/23

第18回 高校生の進学動機から見る大学の教学改革の重要性

ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室
主席研究員・チーフコンサルタント 山下 仁司

ベネッセ「大学シンポジウム2013」報告

2013年6月29日、7月6日にベネッセコーポレーションの大学事業部主催でベネッセ「大学シンポジウム2013」が開催された。筆者はそこで、最初に基調報告を行ったが、ここにそのキーポイントとなるデータを幾つか紹介し、大学の教学改革がなぜ重要かを検討してみたい。

なりたい職業を決めて進学している高校生は3割

図1は、高校生の大学進学の目的を、今春大学進学が決まった高校生に調査したものである。大学進学の目的を「就きたい職業がある」「学びたい学問がある」「特に就きたい職業、学びたい学問はないが、いい大学に進学したい」「特に就きたい職業、学びたい学問はなく、入れる大学に進学した」に分けて選択してもらうと、以下のようになった。
国公立・私立共に、将来就きたい職業を目的として進学した割合はおよそ3割強であった。また、「学びたい学問がある」を併せて、大学に学びの目的がある学生はおよそ7割であり、大学に進学することだけが目的だった者は3割程度に留まった。
図1
図1
出典)ベネッセ教育総合研究所「高校生の大学選択の基本要因に関する調査(2013)」
次に、この進学動機別に将来就きたい職業が決まっているかどうかを聞いた質問をクロスしてみたのが、図2である。
当然のことながら、将来なりたい職業があって大学に進学した学生は、将来就きたい職業が「はっきり決まっている」「まあ決まっている」と回答した者は9割になった。一方で、大学進学だけが目的であった学生は8割がまだ決まっていない、と回答している。このデータで注目したいのは、「学びたい学問があって進学」した学生の半数が将来就きたい職業がまだ決まっていない、と回答している事である。
図2
図2
出典)ベネッセ教育総合研究所「高校生の大学選択の基本要因に関する調査(2013)」
「学びたい学問があって進学」する典型的な学部は、人文、理学、工学系統などである。それらの学部は、常に学問を探究し、学生の期待に応えるために、最新の知見を元に専門教育を充実する。その事がいけないわけではないが、もう一つのデータを見ていただきたい。

大学に行けば、社会に出る力がつくと思っている高校生は8割

図3は、同じ調査で「大学に行けば、社会に出るための知識やスキルを身に付けられると思う」かどうかを4件法で聞いたものである。学部系統別に集計してみたが、「とてもそう思う」「まあそう思う」の肯定的な回答をあわせると、学部系統を問わず80%以上となっている。
つまり、高校生は、学部系統を問わず、大学に行けば自動的に社会に出るための教育をしてくれる、と思っているようである。
図3
図3
出典)ベネッセ教育総合研究所「高校生の大学選択の基本要因に関する調査(2013)」

大学教育を広い意味での「キャリア教育」に統合する重要性

これらのデータが示唆しているのは、高校生の大学に対する期待と、大学教育が提供しているもののギャップの可能性である。特に、学びたい学問を志して進学する者の半数は将来就きたい職業をイメージしていないが、その大半は大学に行けば社会に出るための知識やスキルを身につけられるだろうと漠然と考えている。この状態に大学(特に人文系や理学系の学部)はしっかり対応できているだろうか。学部が行うのは専門教育で、3年秋になったらキャリアセンターが就職のための面接指導やテスト対策など、小手先のスキルを教えている、というのがほとんどの実態ではないだろうか。
現在大学に求められているのは、「将来の予測が困難な社会」にあって、学生をそのような社会に参画させるためにすべての正課教育・正課外活動を統合する事である。就職活動を支援する面接指導などを狭義のキャリア教育とするなら、これは広義の「キャリア教育」と言えるだろう。
このような意味で、学生自らが自分の頭で考え課題を発見する能力、他者と協働しながら解決する能力を育成する教育の質的な転換が求められているのである。しかし、それだけでは十分とはいえない。授業や4年間を通したカリキュラムのありかたの見直しだけでなく、初年次から学生が自分の進路を見つけるための支援の仕組みを構築することが望まれる。
図4に見られるように、高校生が大学を選択する際に重視することの中で、「入学後に、就きたい職業や将来やりたいことを見つけるための支援が充実している」という項目について「とても重視する+まあ重視する」と肯定的な回答をした生徒は55.1%であり、この割合は「学費が安い事」を上回っているのである。(「学びたい学問」が進学動機だった生徒の中での割合)
大学での正課教育を含む広義のキャリア構築支援は、行政から求められているだけでなく、「選ばれる大学」になるためにも非常に重要な観点なのである。
図4
図4
*ベネッセ教育総合研究所「高校生の大学選択の基本要因に関する調査(2013)」Web調査、2013年2~3月実施
大学進学が決まった高校生n=1185 の調査(未公表)

著者プロフィール

山下 仁司
ベネッセ教育総合研究所 主席研究員・チーフコンサルタント
福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、進研模試副編集長、ニューライフゼミ英語教材編集長、ベルリッツ・アイルランド、シンガポール出向、国際教育事業部長、ベルリッツ・ジャパン取締役、英語力測定テストGTEC開発統括マネージャーなどを経て現職。
近年の活動
【大学FD・SD研修講演】
広島大学、宮崎大学、名古屋工業大学、福岡工業大学、名城大学他多数
【シンポジウム】
  • 全国大学入学者選抜研究連絡協議会大会 公開討論会パネル(平成22年、25年)
  • 九州工業大学シンポジウム
    「大学教育のあり方と秋入学‐世界で活躍できる人材を育てるために‐」(平成25年)
  • ベネッセ教育総合研究所シンポジウム
    「主体的な学びへと導く大学教育とは」(平成24年)
【論文】
  • 「高校・生徒からみた高大接続の課題と展望~高大接続の真の課題は何か~」(2011)
  • 日本高等教育学会 学会紀要『高等教育研究』第14集 高大接続の現在
  • 『「答え」や「モデル」のない今後のグローバル社会で活躍できる力とは?
    産学連携教育の研究実践と、主体性を引き出す大学教育の在り方』(2012)
  • 第4回横断型基幹科学技術研究団体連合シンポジウム 予稿集