2014/03/19
第47回 一人ひとりに応じた主体的な学びに変えるためにICTを活用する
ベネッセ教育総合研究所 ICT教育研究室
主任研究員 中垣 眞紀
主任研究員 中垣 眞紀
このほど、小学校・中学校の教員を対象とした「ICTを活用した学びのあり方に関する調査」の結果がまとまった。この調査は、ICT機器の整備状況の把握にとどまらず、授業でのICT活用の実態や教員の意識、これからの学びや子どもたちに身につけて欲しい力を教員がどのようにとらえているのかを明らかにすることを目的に実施したものである。広く実態を把握するために、全国から無作為に抽出した学校と、フューチャースクールなど国や自治体で先行して実践している学校に調査を依頼した。各学校の多大なご協力により、担当学年・教科、教職経験年数など様々な立場の教員から回答をいただけた。本稿では、この調査の結果からわかった、ICT活用の実態・活用の意識と、課題とその解決の方向性について、述べてみたい。
調査結果の詳細は、報告書をアップしているので、そちらを参照願いたい。
1.ICT活用の実態
限られた環境下で、小学校教員の約8割、中学校教員の約6割はすでにICTを利用した授業に取り組んでいる。
普通教室でのICT機器の整備状況(図1)を見ると、「デジタルテレビ」「実物投影機」「電子黒板」は普及が進んでいるが、「子ども用タブレット端末」は小学校で7.7%、中学校で6.0%と、10%にも満たない状況である。
図1 ICT機器の整備状況(一般校)
注1)データは一般校のもの。( )内の数値はサンプル数。
注2)複数回答。
注3)普通教室で使える割合は、「普通教室でつねに使える」「普通教室で共有のものを使える」の合計%。数値は小数点第2位以下を四捨五入して表示しているため、数値の和が普通教室で使える割合と一致しない場合がある。
注2)複数回答。
注3)普通教室で使える割合は、「普通教室でつねに使える」「普通教室で共有のものを使える」の合計%。数値は小数点第2位以下を四捨五入して表示しているため、数値の和が普通教室で使える割合と一致しない場合がある。
その環境下で、現在授業でICTを活用している教員は、小学校で約8割、中学校で約6割に達する。(図2)
図2 ICTを活用した授業の取り組み年数(一般校)
注1)データは一般校のもの。()内の数値はサンプル数。
注2)「1年未満」は「6カ月未満」「6カ月~1年未満」の合計%。
注2)「1年未満」は「6カ月未満」「6カ月~1年未満」の合計%。
現在、授業でのICTを活用して取り組んでいる内容は、教材の収集・教材提示が中心
授業でのICT活用の取り組み内容を図3に示す。教員が主体となった使い方としては、「子どもが興味を持つ教材をインターネットで集める」、「ノートや教材を実物投影機で映しながら説明する」が5割を超える。「電子黒板などで教材を拡大しながら説明する」が約3割で続き、「教材の収集・提示」での活用が中心となっている。一方、子どもが主体となった使い方としては、「インターネットから必要な情報を選択する」が約5割など、「情報教育」にかかわる項目が中心である。
図3 ICTを活用して現在取り組んでいること、今後取り組みたいこと(一般校)
注1)データは一般校のもの。( )内の数値はサンプル数。
注2)「現在取り組んでいること」は、「よく実施している(日常的に実施)」「ときどき実施している」の合計%。「今後取り組みたいこと」は、「とても取り組みたい」「まあ取り組みたい」の合計%。
注2)「現在取り組んでいること」は、「よく実施している(日常的に実施)」「ときどき実施している」の合計%。「今後取り組みたいこと」は、「とても取り組みたい」「まあ取り組みたい」の合計%。
2.ICT活用意向、目的や効果に関する意識
では、教員は、ICTの活用をどのようにとらえているのだろうか。
今後ICTを授業に活用したい意向がある教員は9割に達し、今後取り組みたいのは「協働学習」と半数が回答
図4にあるように、今後ICTを授業に活用したいという意向がある教員は9割に達する。
さらに、現在取り組みの中心である「教材の収集・提示」「情報教育」の項目に加えて、「プレゼンテーション用ソフトを利用して発表する」、「プレゼンテーション用ソフトを使って子どもが共同で資料をまとめる」といった「協働学習」に関わる項目に、半数以上が今後取り組みたいと回答している。(前述の図3)
図4 授業でのICTの活用の意向(一般校)
注)データは一般校のもの。( )内の数値はサンプル数。
ICT活用の効果として、9割の教員が、「子どもの興味・意欲が高まる」と認識する。しかし「一人ひとりに応じた主体的な学び」に効果的だと考える教員は、4割未満にとどまる。
ICT活用の効果(図5)は、「学習に対する子どもの興味・意欲が高まる」が突出して高く、9割を超える。次いで、「子どもの理解が深まる」が、約5割と続く。しかし、「子どもが自分の興味・関心があることを自由に学べるようになる」や「一人ひとりの能力に合わせた学習の機会が増える」など、ICTが「一人ひとりに応じた主体的な学び」に効果的と考える教員は、4割未満にとどまる。
図5 ICT活用の効果(一般校)
注1)データは一般校のもの。( )内の数値はサンプル数。
注2)複数回答。
注3)「その他」「あてはまるものはない」は図から省略した。
注2)複数回答。
注3)「その他」「あてはまるものはない」は図から省略した。
3.教員が考える不安と課題
教員が感じている課題は、授業準備の大変さや自分自身のICTスキルの不足
ICT活用における課題(図6)は、「授業の準備に時間がかかる」、「自分のICTスキルが不足している」が7割を超え、「授業の計画をたてるのが難しい」が続く。以前は、学習効果や利用目的への疑問が指摘されていたが、「学習効果があるのか分からない」、「ICTを活用する目的が分からない」は3割程度と、他の項目と比べても低くなっている。このことは、教員がICTの効果を一定程度認めて、活用することを意識するようになってきているからと考えられる。
図6 ICT活用における課題(一般校)
注1)データは一般校のもの。
注2)( )内の数値はサンプル数。
注3)数値は、「とてもそう感じる」「ややそう感じる」の合計%。
注2)( )内の数値はサンプル数。
注3)数値は、「とてもそう感じる」「ややそう感じる」の合計%。
4.効果的な活用促進に向けて
以上のように、本調査では、学校でのICT活用に対して、限られた環境下にもかかわらず、多くの教員が前向きに捉えていることが明らかになった。しかし、その活用の範囲はまだ狭い。ICT活用の本来の目的である「ICTの効果を最大限に発揮し、子どもの学びを個に応じた主体的なものに変える」という認識までにはいたっていない。不安を抱えながら、今後の活用を模索しているのが現状といえよう。
一方で、今後、子どもたちのどのような力を育成する授業を増やしたいかをたずねたところ(図7)、「自分の意見を伝える力の育成」、「友だちと協働する力の育成」、「主体的に行動する力の育成」を「とても増やしたい」と半数以上の教員が回答している。
図7 身につけさせたい力の授業での取り組み状況、今後の取り組み意向(一般校)
注1)データは一般校のもの。( )内の数値はサンプル数。
注2)数値は「よく実施している(日常的に実施)」「とても増やしたい」と回答した%。
注2)数値は「よく実施している(日常的に実施)」「とても増やしたい」と回答した%。
子どもたちに、基礎的・基本的な知識・技能の習得はもちろんのこと、自分の意見を表現する力などこれからの社会を生きていくために必要な幅広い力を身につけて欲しいと考えている。また、そのために授業を変えていきたいという、教員の変革意識も見えはじめている。このことからも、ICTありきの活用ではなく、子どもたちに身につけて欲しい力の育成のためにICTを有効活用していくことが、とても大切だ。
多くの課題を乗り越えて、そうした状況を実現するためには、どうすればよいのだろうか。
ICTを活用できた要因(図8)は何かをたずねたところ、ICT「高活用」の教員は「低活用」の教員に比べて、「ICTを活用した授業例などの授業案を知ることができたから」、「機器操作のサポートをICT支援員に行ってもらったから」などの選択率が高くなっている。ICTを活用できた要因として、実践例を知ることや周囲の支援が関係している。
図8 ICTを授業で活用できた要因(ICT利用者のみ)(一般校+実践校)
注1)データは実践校を含むもの。 回答はICT利用者(ICTを活用した授業への取り組み年数をたずねる質問で、「まだ取り組んでいない」「無回答・不明」の人以外)。( )内の数値はサンプル数。
注2)複数回答。「その他」「あてはまるものはない」は図から省略した。
注3)ICT活用度について、「中活用」群は図から省略した。
注2)複数回答。「その他」「あてはまるものはない」は図から省略した。
注3)ICT活用度について、「中活用」群は図から省略した。
めざましく発達するICTの効果を生かすには、授業の中で子ども一人ひとりの主体的な学びを実現するような活用に高めていくことが必要だ。そのために、まずは教員の不安を払しょくし、取り組みやすい状況を生み出すこと。さらに、子どもたちの「自分の考えを表現する力」や「友だちと協働する力」などを伸ばすために、協働学習の場の実現が重要な鍵となる。協働学習を効果的に実現するうえで、教員には知識を教授する役割に加えて、子どもたちから学びを引き出す支援者としての役割を担うことが求められる。そうした「これからの学び」を実現していくための、授業方法の例示や授業計画・実践の支援など、教員を支える体制づくりが求められている。我々もそういう実践に資するような、調査研究をすすめたい。
著者プロフィール
中垣 眞紀
ベネッセ教育総合研究所 グローバル教育研究室 主任研究員
ベネッセ教育総合研究所 グローバル教育研究室 主任研究員
ファミコンやコンピュータ技術を利用したメディア教材の研究・開発・製作・事業開発に従事。その後公立中高一貫教育校適性検査分析など、小学校領域 のカリキュラム・アセスメントについての調査研究に従事し、「ベネッセ発親子で伸ばす『本物の学力』2006年日経BP社発行」の執筆を担当。経営スタッ フを経て、2013年より現職。ICTを活用して学びや学び方が学習者にとってよりよいものになることに強い関心をもって取り組んでいる。