2014/02/07

第41回 学校におけるICT活用の状況から考える

ベネッセ教育総合研究所 ICT教育研究室
主任研究員 中垣 眞紀

教育へのICT利用の「型」ができてきた

2013年の11~12月、総務省の「フューチャースクール推進事業」と文部科学省の「学びのイノベーション事業」の実証校を中心に、各学校の公開研究授業を見学して回った。数年前は、「子どもたちのやる気が高まった」ということがクローズアップされる一方、「いったいどんな効果があるのか」といった学習成果への疑問の声が多く出ていた。しかし、今回、さまざまな取り組みを重ねる各学校の取り組みを見て、ノウハウが積み上がり、授業は洗練されてきているように感じた。
学習成果という観点でも、教員が教材を分かりやすく提示するといった範囲にとどまらず、ICTを活用して子どもたちの思考を深める取り組みが増えている。
表1は、ベネッセ教育総合研究所が各校の実践を見学し、ICTがどのような形で活用されているのかをまとめたものである。活動の種類が多様になっている様子が見て取れる。
表1:ICTを活用した実証校等の取り組み
ICTを活用した実証校等の取り組み
※この表は、今回ベネッセ教育総合研究所が実際に見学に行った学校の研究授業で公開され、その時見学したものをもとにまとめている。学校全体の取り組みのすべてについてまとめたものではない。
※教師がICTを利用するものは「青」、子どもが端末(パソコンやタブレットなど)を使って行うものは「赤」色で示した。
表1を使って、ICTがどのように使われているのか、注目すべき点と課題はどこにあるかを論じてみたい。あくまで、筆者が実際に見て感じたことをもとにしていることを、あらかじめ断っておきたい。

① 一斉授業における効果的かつ効率的な教材提示

見学した学校では、電子黒板を使い、学習テーマの理解を促進するうえで役立つ「写真や画像、動画」などの教材を豊富に提示している。例えば、教員が撮影した普段の何気ない部活動の写真を見せて、「季節による影の長さの違い」に気づかせる事例があった。このように日常の現象を比較的簡単に授業に活かすこともできる。
また、その多様な教材を、電子黒板に提示するだけでなく、子どもたちの端末(タブレットなど)にも同時に全員に送信することで、一人ひとりが自分の手元で、見て・考えることができる。これにより子どもたちの集中力が高まる。教員が説明しながら板書し、それを子どもたちがノートに写すという従来の過程を、ICTを活用することでより効果的・効率的に行うことができる。

② 教材提示の効率化により、子どもたちが考える・意見交換する時間の創出

教材提示を効率化して課題に取り組む時間を確保することで、子どもが自分の意見や考えを書いたり、それをもとに友だちと意見を交換したりする活動を増やすことができる。子どもたちの書いたワークシートを電子黒板などに提示し共有すれば、口頭だけの発表よりもわかりやすい。「発表するのが好きになった」という子どもの声もある。
『課題の提示⇒個人ワーク(一人で考える)⇒ペアやグループワーク(意見交換)⇒クラス全体での共有⇒解説・まとめ』という授業のプロセスが、定型化されつつあるようだ。

③ コラボレーションソフトを利用した協働学習で思考を深化

コラボレーションソフトを利用して、班で一つのアウトプットをまとめる活動も何校かで見られた。例えば、「地震」について調べる際に、「A:地震の揺れ、B:震度、C:地震の分布、D:地震による災害」などのようにテーマをいくつかに分割し、それを一人ひとりが分担、責任をもって調べる。それを集めて議論し、班で一つのアウトプットとするという活動だ。協働的な学びを通じて、主体的に参加し、自分の考えも深めるような実践が見られた。

④ デジタルペンを使って思考のプロセスを共有

導き出した結果は同じでも、その結果に至るプロセスには、多様な考え方がある。数学の証明問題を班ごとに相談しながら解いていく取り組みを見たときに、思考のプロセスを共有できるのもICTを使う利点であることを実感した。班ごとに取り組んだ証明を電子黒板に提示して発表するときに、証明したプロセスを書いた順番に再生しながら、考え方を説明していた。思考のプロセスを共有することは、内容の理解を深めるのはもちろんだが、思考力・判断力・表現力などの活用の力を育てるのにも有効だと考えられる。

一人1台の環境の普及のためには

注目したい点については、まとめてきたとおりであるが、今の使い方だと、「すべての学校で子ども一人に1台のタブレットなどの端末が必要か」という点について、疑問も感じている。ワークシートなども紙の方がよい場面では、紙を利用するため、端末が使われていない時間も多い。学習成果についての検証もまだまだ必要だ。そもそも学習成果を何で評価するのか、その評価の開発が求められる。
また、実証校では、「2年ほど使うとバッテリーがもたなくなり、研究授業以外の時間は使わないようにする」とか、「故障が多く、メンテナンスの運用プロセスも作る必要がある」「共有したくても電子黒板が小さくて後ろからみにくい」などの声を聞く。学習環境の整備を考慮するストレスも多そうだ。
さらに、タブレット等の端末を普及させるだけでは、授業は変わらない。授業に使えるアプリケーション、教材などのコンテンツの開発や、教員のICT利用をサポートする支援員など、ソフト面の充実も求められる。そうした投下費用に対して、効果が十分かは常に問われるだろう。
しかし、まずはやってみるところからはじめた実証校が、教師中心の指導から子ども中心の学習へと転換していく様子を見ると、このような授業を広げる必要を感じる。今後、グローバル化など社会環境が激変するだろう。その中で生きていくための、自ら考え、情報を取捨選択・判断する力等を身につけるためにも、自分の得意なメディアや道具を使いこなす必要がある。来年度(2014年度)の学校教育分野におけるICT利用のための政府予算は、これまでとほぼ同様で増額はなかった。だが、実証校が歩んできたプロセスを、多くの学校に広げるステップに入っているのではないか。ICTの利用は「習うより慣れろ」の側面が大きい。実際に使って、使い方とその効果を検証していくことを通してこそ、ICTを利用する良さが見えてくる。

著者プロフィール

中垣 眞紀
ベネッセ教育総合研究所 グローバル教育研究室 主任研究員
ファミコンやコンピュータ技術を利用したメディア教材の研究・開発・製作・事業開発に従事。その後公立中高一貫教育校適性検査分析など、小学校領域 のカリキュラム・アセスメントについての調査研究に従事し、「ベネッセ発親子で伸ばす『本物の学力』2006年日経BP社発行」の執筆を担当。経営スタッ フを経て、2013年より現職。ICTを活用して学びや学び方が学習者にとってよりよいものになることに強い関心をもって取り組んでいる。