2013/11/29

第32回「思考力・判断力・表現力」を測定するための論述型テストの必要性

元 主任研究員 島田 研児
今年度より高校においても新学習指導要領が実施されるようになった。文科省が改訂のポイントを示した資料の中で「教育内容の改善事項」についてまとめているが、その筆頭にあげられているのが、「言語活動の充実」である。
「言語活動の充実」が求められる背景として、(1)グローバル化による変化に対応していくための思考力育成、(2)国内外の学力調査(PISA、全国学力・学習状況調査等)で、思考力・判断力・表現力に課題があると判断されたこと、(3)学校教育法改正(H19 .6)により学力の重要な要素(基礎的知識・技能、課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力、および主体性)が明確になったこと、の3点があげられているが、要は「思考力・判断力・表現力」を育むために、「言語活動」を「充実」させる必要があるということである。
上記で求められている「思考力・判断力・表現力」とはどのような能力を指すのか。
同じく文科省の資料の中で、「言語活動の充実」(=思考力・判断力・表現力の育成)を図るための具体的な学習活動内容として、
事実を正確に理解し伝達する
概念・法則・意図などを解釈し、説明したり活用したりする
情報を分析・評価し、論述する
課題について、構想(仮説)を立てて実践し、評価・改善する
などを含む6項目が提示されている。
これらの内容をまとめて考えてみると、「課題解決のために、情報を分析・評価し、仮説を立てて解決法を実践し(調査・実験し)、その結果(結論・意思決定)を報告(主張)し、その方法・結果について検証・改善を行う」という、大学での研究や、社会活動・経済活動などで必要とされる「課題解決のためのサイクル」を実行できる力を身につけるための学習活動であることが見えてくる。つまり、新指導要領では、上記のようなサイクルの中で使用される「思考力・判断力・表現力」が求められているということになる。状況に合わせて情報を正しく理解・判断し、結論を導出し、それを表現する。このような力は、大学や社会人へのレディネスとして当然必要な能力だといえる。
高校の指導においては、上記の学習活動を、各教科・科目の中で「記録、要約、説明、論述、討論」といった形で実践することによって育成していく。
ここで、学習活動を進めた結果として問題になってくるのは、各教科・科目を横断して培われた「思考力・判断力・表現力」をどのように評価するかということである。調査や実験の取り組みそのものを評価したり、その結果まとめられたレポートなどをポートフォリオとして評価したりする方法もあるが、「言語活動の充実」を求める背景の一つとして国内外の学力調査結果において「思考力・判断力・表現力」に課題があることへの対応がある以上、何らかのアセスメントでそれらの能力を評価して成果を検証していく必要があるように思う。具体的には、大学入試や全国学力調査などで、教科ごと、もしくは教科横断的(総合的)に出題されることが望ましいだろう。平成24年に発表された「大学改革実行プラン」でも、入試の機能分散、多様化の必要性が述べられ、それにともない「思考力・判断力・知識の活用力等(クリティカルシンキング等)」を問う新たなテストの開発が求められている。また、10月31日にまとめられた教育再生実行会議による「第四次提言」の2種類の「達成度テスト」も、「思考力・判断力・表現力も含めた幅広い学力把握」を目的として設計されている。これらの改革案の背景には、「言語活動の充実」の成果が入試など結果を客観的に判断できるテストで評価されなければ、せっかくの取り組みがあいまいになってしまう可能性があり、またその成果についても検証できなくなってしまうということがあるだろう。
では、どのような形式でテストとして出題されるのがよいか。入試として「思考力・判断力・表現力」を測定する場合は、高校で指導されている「記録、要約、説明、論述、討論」の形で出題されるのが適切だと考えられる。しかし、討論やスピーチなど、「話す」ことを主体とした形式は、実施上の課題が多い。やはり、「書く」という観点でテストを構成するのが最も適していると考えられる。つまり「論述」型のテストということになる。
論述を課せば、「思考力・判断力・表現力」の「表現力(正確に伝える)」を測定できることは言わずもがなである。さらに「思考力・判断力」についても、先に述べたように「課題解決のためのサイクル」の中で使用される「思考力・判断力」が求められている以上、すでに提示された正解を選ぶ選択肢型テストよりも、文脈が設定されていたり、複数の資料が提示されていたりするような状況の中で、自分で結論を導出し、根拠とともに主張する形式の論述型のほうが、より正確に能力を測定できると考えられる。
(この場合、評価はスコアで提示されるものではなく、ホリスティックな段階評価となる可能性が高い)
論述型の入試やテストには、テストの信頼性の担保や、採点の負荷・ぶれ等、克服すべき課題が存在する。しかし、事前に予備的な実査を行うことで難易レベルなどの調整を可能にする、トレーニングされた採点者の複数採点・チーム採点を採用する、ルーブリックによる評価基準の明確化を図るなど、工夫を重ねていくことで出題は可能になるはずだ。
また論述型にすると、難度が上がり、一部の成績上位者しか弁別できなくなるという批判もあるが、そもそも「言語活動の充実」として「思考力・判断力・表現力」の育成が重要課題になっており、それに対応した指導がなされる以上、その成果を正しく測定するためのテストとして論述型テストの出題が検討されなければならないのは当然のこととも言える。
海外に目を向けても、現在日本でも一部で導入が進められているIBDP(国際バカロレア・ディプロマ・プログラム)の要件や、アメリカやイギリスの多くの大学の入試・入学要件として、エッセイが課されている現状がある。日本においても、小論文入試が課されている大学・学部はあるが、自由作文的なものや専門的な知識を必要とするものも多く、必ずしも「思考力・判断力・表現力」を測定するものになっていない。また、ほとんど「書く(論理的に書く)」という行為をせずに大学に進む生徒も数多く存在する。今後の入試やテストを考えていく上では、評価の絶対性や利便性を重視して選択肢問題を中心に考えるのではなく、例えば大学入試においては、現行のセンター試験のような選択問題型に加え(選択肢型は高校で学んだ知識の確認として有用である)、個別試験等では「思考力・判断力・表現力」を測定するために「論述型」テスト(情報の分析・評価、結論の導出、主張という流れの論述テスト)を中心に据えるなど、「論述型」テストで能力を評価する機会を増やしていく必要があるのではないかと思う。
また「論述型」テストが定着することで、学校現場での「言語活動の充実」のための「記録、要約、説明、論述、討論」の指導内容・方法も、より体系化していくであろうことが考えられる。

著者プロフィール

島田研児
ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室 主任研究員
1992年福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社。進研模試・進研学参編集業務、進路マップ開発担当を経て、2003年ベネッセ教育総研研究員、2005年東京大学教養学部教養教育社会連携寄付研究部門受託研究員等を経て、現職。
主な研究テーマは、ジェネリックスキル測定のためのアセスメント開発。対象は主に社会人、高等教育・後期中等教育領域。