10秒でいい?スーパー保育士が教える“伸びる子育て”の秘訣

 “スーパー保育士”の異名をもち、子育てに悩む親、あるいは子どもの両方に寄り添い、ラジオ、新聞など、多くのメディアで「子育て相談室」を開いている原坂一郎氏。怪獣博士としても有名で、「子どもと同じくらい怪獣が好き」と言う同氏に、長年の経験から培った子育ての極意を聞いた。

——時には優しく語り、また時には厳しく諭す先生のアドバイスには説得力があります。

 僕は子どもの代弁者を自認しています(笑)保育士として23年間、0歳から6歳までの子どもたちと接してきました。僕はなぜか、子どものころから、その子どもが何を言おうとしているのか心の声が聞こえていました。それで、大学卒業時に保育士になろうと決めていたんです。当時、男性の保育士はほとんどいませんでした。いわば女性社会の中で働いていたので、男性社会の中で働く女性の気持ちもよくわかるようになりましたよ。

 保育園では23年間で1,000人ほどの園児に接してきました。自分が受けもった子どもに関しては、そのエピソードをそれぞれ10個ずつぐらい語れます。全員自分の子ども同然にかわいかったですから。自分の子どもならば、忘れるわけないですよね。

 たくさんの子どもと接し、たくさんの子どもの心の中を見つめ続けてきましたので、子育てに関することならどんな悩みをぶつけられても大丈夫ですよ。

——40年近く子育ての最前線にいて、子どもあるいは子育てに時代の変化を感じますか。

 時代というより環境の変化は感じますね。共働き家族が明らか増えてきていますし、子どもと接する時間が少なくなっている中、賢い子に育てようとする親の願いは共通なので、育児に関する情報はかなり多くなっていると思います。変化が起こると、その変化についていこうと思いがちですが、僕は変化していない部分にこそ目を向けるべきだと思います。

 比率でいえば、8対2ぐらいで変わっていない部分の方が圧倒的に多い。なぜなら、子どもの成長や育児に関する本質的なものは、いくら時代が変化しようとも、変わっていないからです。
 情報化社会になったお蔭で、例えばベビーカーを押して電車に乗るのはマナー違反とか、子どもの泣き声に隣人から苦情が来るとか、子育て中のかたは気を遣う場面がずいぶん増えたと思います。

 何か言われたら気になるかもしれませんが、そんな人は少数派。何も言わない大多数の人々、つまりサイレントマジョリティはお母さんがたの味方です。それを覚えておいてほしいですね。子どもが靴のまま電車の椅子に座っても注意しないなどの明らかなマナー違反以外は、多くの人たちは子育て中の若いママやパパに対して、本人たちが思っている以上に温かい目を向けていますし、そもそも日本社会はなんだかんだ言っても子どもを大切にしていると思いますね。

——パパからの育児相談はありますか。

 増えましたねえ。でも、それは父親たちが子育てに関心をもってきた証拠だと思っています。今のパパ世代は、自分が幼い時にお父さんは企業戦士だったこともあってあまり遊んでもらった記憶がなく、自分の子どもにどう接すればいいのかとまどっている人が多いようです。そういうパパには、とにかく子どもに笑顔を見せるよう言っています。親の笑顔は子どもにとって何よりの栄養剤。「パパとママが違うことを言うと、子どもがとまどうのでは」と心配するかたもいますが、子どもはパパとママの違いも丸ごと受け入れるエネルギーをもっていますので、あまり気にしなくていいと思います。それより、笑顔でたくさん関わってください。

 時間がないパパは10秒でもいいですから、遊んだり抱きしめたりしてください。子どもにとってはそれが10秒だったか10分だったかという時間の長さは関係なく“遊んでもらった”“抱きしめてもらった”という事実だけが、うれしいこととして記憶に残ります。そんな10秒が1回でも多くあればいいのです。

 僕はお父さんがたに、子育てをすると100のいいことがある、と言っています。例えば、「仕事に張り合いができる」「話題が増える」「相手の気持ちを思いやれるようになる」「がまんを覚える」「奥さんの苦労もわかる」など、それらはほんの一例ですが、本当にいいことが沢山あるんです。

——親の教育熱に比例し、育児関連の教材、通信教育、塾も多く、選択にとまどいます。

 幾多ある幼児教育の教材や通信講座などの中で何が一番いいのかと言ったら、それはズバリ、お母さんがこれと思って選んだものがベスト。なぜなら、わが子のことを一番心配し、知っているのはお母さんだから。でも、やってみてもし合わないと思ったら、スパッと別のものに切り替えてみるのも手です。

 僕が個人的に勧めるとしたら、断然<こどもちゃれんじ>ですね。僕にはいま10代と20代の子どもが3人いるんですけど、3人とも<こどもちゃれんじ>にお世話になりました。実は保育士になる前に半年ほど教育関係の研究所で働いていたことがあるのですが、その時に<こどもちゃれんじ>の教材を見てびっくりしたことがありました。まだ創刊して何年も経っていなかった頃ですけど、実にまあ、よくできた教材だと感心したものです。
 ですからいつか、<こどもちゃれんじ>の開発に関わってみたいと願っていましたので、十数年前に編集部からお声がけいただいた時は、とてもうれしいものでした。

——<こどもちゃれんじ>のどんなところが優れていると思われますか。

 特に優れていると思うのは、本当に細かく丁寧に、子どもの発達・成長に合わせて教材設計をされている点です。
 幼児の1ヶ月違いは大人でいうと1年違うと考えてください。1年の違いは10年の違いです。例えば大人の20歳と30歳では考え方も興味も、何かに対する反応の仕方もまったく異なりますよね?子どもも 6ヵ月児か8ヵ月児か、2歳児か3歳児かで、大きく異なるんです。
 そんな月齢・年齢ごとの成長を巧みに捉えている点が秀逸です。
 また、知育やしつけの部分もさることながら、親子でコミュニケーションが密に図れるよう、工夫が施されているのもスゴイです。子どもはママを、ママは子どもをより好きになるポイントが多くしかけられていますよね。

 ただし、どんなに優れた玩具・教材・テキストでも、親がきちんと向き合わなかったら、無駄なものになってしまいます。ただ教材を買い与えればいいということではなく、親も子どもと一緒になって楽しむことが大切だと僕は思います。

 ちなみに僕は1分もしないうちに、知らない子どもとすぐ友だちになれます。その方法は、子どもと一緒に教材を楽しむコツにもつながると思いますので、ぜひ実践してみてください。
① 子どもにふれながら関わる
② 子どもに語りかけながら関わる
③ 一緒に遊びながら関わる
④ ほめながら関わる
⑤ 笑顔で関わる

 すごくシンプルですけど、簡単でそれこそ10秒でできることばかりです。どんな時でも僕は子どもと接するときにはこの5つを忘れません。そうするとあっというまに「いい関係」になれるからです。
 子育て期間中はとにかく大変なことが多いのですが、実はお母さんが最も輝いている時期でもあります。いつか、あの時期が最も楽しかったと言えるよう、未来の思い出の貯金箱を増やしていると考え、この時間を十分にに楽しみ、慈しんでくださいね。

(文=吉井妙子/絵=原坂一郎)

プロフィール


吉井妙子

スポーツジャーナリスト。宮城県出身。朝日新聞社に勤務した後、1991年に独立。同年ミズノスポーツライター賞受賞。アスリート中心に取材活動を展開し2003年「天才は親が作る」、2016年「天才を作る親たちのルール」など著書多数。