首都圏の私大生はなぜ生活が苦しいのか

5月も半ばとなり、新入生の生活も落ち着いたことでしょう。ただ、お子さんが大学生で、とりわけ地方から首都圏に下宿させたご家庭では、先月の出費の多さに、ため息をついているかもしれません。学生にとっても、これからの生活は大変です。実態はどうなっているのでしょうか。

自宅生と対照的な自宅外生の家計

東京地区私立大学教職員組合連合(東京私大教連)の「私立大学新入生の家計負担調査」(1都5県の16大学・短大が対象)によると、昨春(2016<平成28>年度)の入学生で、自宅外通学者が入学の年(受験から入学後の12月まで)に掛かった費用は平均292万7,444円で、前年度に比べ2万5,700円減少しました。ただ、世帯の平均年収も1万7,000円減の899万2,000円となったため、年収に占める出費の割合は32.6%(前年度比0.2ポイント減)と、依然として負担が重いことに変わりはありません。

一方、自宅生は、世帯年収が18万5,000円増えて916万5,000円、入学年に掛かった費用は1万800円増の154万6,644円、年収に占める割合は16.9%(同0.2ポイント減)と、金額の増減は自宅外生と対照的です。家計に余裕のできた自宅生に対して、自宅外生は、年収が増えないなか、無理をして首都圏に送り出してもらっているようです。

そのため4~12月の仕送り額も、計80万1,300円と、前年度より9,200円減りました。出費が落ち着く6月以降は月8万5,700円(同1,000円減)と、1986(昭和61)年度の調査開始以来、最低を更新。家賃を除くと、一日790円(同60円減)にしかなりません。

ところが、奨学金を希望する自宅外生は66.0%で、前年度より3.9ポイント減っています。このうち実際に申請したのも、1.5ポイント減の70.1%。ただ、自宅生も希望者は3.1ポイント減の51.6%、そのうち申請者は0.7ポイント減の56.0%ですから、奨学金を避ける傾向が強まったのは一緒です。

生活が苦しくなっているのに、奨学金の利用は避ける……。なぜ、こんなことが起こっているのでしょう。

返済が不安で奨学金にしり込み

自宅外・自宅を問わず、奨学金を希望したのに申請しなかった理由を尋ねると、33.5%と3人に1人が「返済義務がある」ことを挙げています。つまり4年後、十分な返済ができる待遇を受けられる企業に就職できるか不安で、しり込みしたということです。

奨学金希望者のうち申請した者の割合(前年度比1.2ポイント減の62.0%)を世帯収入帯の別に見ると、500万円未満と700万~800万円の世帯は増えているのに、500万~600万円(同4.8ポイント減の76.5%)、600万~700万円の世帯(同1.3ポイント減の72.0%)では減っています。奨学金がなければ進学も考えられない所得世帯は別として、子どもにアルバイトなどの無理をさせてでも奨学金をためらう世帯が増えている……ということでしょう。

今年度から、日本学生支援機構の奨学金に給付型が新設され、貸与型にも、年収に応じて返還額を変えられる制度が導入されたのは、確かに画期的なことです。ただ、根本的な問題は、大学の授業料などが高騰していることです。過度に家計負担に依存する私立大学の財政構造を改め、公費支出を増やすなどの抜本的対策が必要であることを、忘れてはならないでしょう。

※東京私大教連「私立大学入学生の家計負担調査」(2016年度)
http://www.tfpu.or.jp/2016kakeihutan-essence20170405.pdf

※ 奨学金制度の充実に関する松野文部科学大臣からのメッセージ(生徒・保護者向け)
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/03/attach/1384031.htm

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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