他人にアドバイスし自分を振り返る、美容専門学校の授業

今回紹介するのは、数年前に取材した、東京都の美容専門学校で美容技術を教えるAQ先生の授業です。美容師の基礎技術で、当時の国家試験のひとつだったローラーカールセッティングを習得するための授業です。
ちなみに、この国家試験では18分以内に27本のローラーをバランスよく配置して頭部に緩やかな曲線を描くことが求められます。AQ先生は、この技術を5日間で生徒たちにマスターさせます。
この授業は、どんなことでも習得するためには欠かせない反復学習が楽しくなるコツが詰まっています。それは、まず、できないことを実感させる。そこで、解決できるヒントを与え、自分の力で、一つひとつ課題を乗り越えさせるのです。言葉を変えれば、先生には、「確かなノウハウ」「寄り添う優しさ」「待つ忍耐」が求められます。

授業は、巻き方のポイントの2つ「姿勢」と「平行」を伝えることから始まりました。

1)「姿勢」は、頭のまっすぐ後ろに立ち、お客さまを正面から見据えること
2)頭皮に対して、くしと手が常に「平行」であるということ

先生は、この「姿勢」と「平行」が大事だということを繰り返し伝えたうえで、すぐに挑戦させます。
ちなみに、生徒たちは、大きなローラーを巻くのは初めてです。
そして、「姿勢」や「平行」の意味は、頭ではわかっているものの、体がうまく動きません。
先生は、一人ひとりに寄り添いながら、違っているポイントを指摘し、立ち位置や手の動きの手順を繰り返し教え、一連の流れが、一人でできるようになるまで見守ります。
作業の動きはわかったものの、うまく巻くまでには至りません。全員が、満足いかないと感じたところで、先生は、生徒を集めて、できないことを発表させました。
「毛先が巻き込めない」「でこぼこになる」「角度がよくわからない」など声が出ます。
そこで、先生は、克服するためのトレーニングツールを手渡します。

生徒一人ひとりに用意したのは、髪の毛をそったマネキンです。髪の毛がないため、真ん中の位置がはっきりわかり、自分の姿勢が真後ろにあるのかどうかがわかりやすくなります。さらに、そってある頭皮にローラーを巻く27か所の位置を自分で書き込み、位置をしっかりつかみます。さらに、前・後・襟足の3か所に3本の毛糸をつけます。この3つがローラーの巻き方の基本形なのです。前は、頭皮に対して135度。後ろは、90度。襟足は45度。この角度を意識することが奇麗に巻くコツだそうです。

このあと、生徒は2人1組のペアになります。大事なのは、1人が「鏡役」と呼ばれるチェック役になること。お互い正しい角度になっているかを確認し合います。
「スキルを身に付ける学習」でペア学習は効果的です。他人にアドバイスをすることで、何が大切なのか自分自身を振り返り、再認識する機会になるからです。また、友達のよいところを取り入れるきっかけにもなります。
この時、先生は、生徒たちの様子をじっと観察しています。それは、ステップがひとつ上がる度に出る「課題」や「つまずき」で困っている生徒を見つけるためです。2人で相談してもどうしてよいかわからないことがあります。この日は、体を低くすると安定しなくて、困っている生徒がいました。原因は、足を横に開いていることでした。「やりづらいな……」と感じていたのがわかったので、先生は、「足を縦に開いて!」というアドバイスをしました。やってみると、安定します。「なるほど!」という感覚こそが「学ぶ喜び」となります。

この日から、生徒たちは、放課後自主的に練習を始めました。
ペア学習で、お互い確認しながら、わからなくなったら、基本に戻れる毛をそったマネキンで確認する。
学び方を伝えてあるので、先生がいなくても学びができます。少しずつ前に進んでいる実感が「やる気」をさらに高めていきます。つまり、何をすれば上達できるか、その方法さえわかれば、自分の力で前に進むようになるのです。

このあと、先生が試験を行いました。内容は、国家試験と同じ減点法で、70点以上が合格です。ちなみに、結果は全員合格でした。

最初にお伝えしたように、この授業を取材したのは数年前のことです。現在、ローラーカールセッティングは国家試験には含まれていません。しかし、試験内容が変わっても、先生と生徒たちの取り組む姿勢や前向きな姿は、今でも変わらず続いているのです。

プロフィール

桑山裕明

桑山裕明

NHK編成局編成センターBSプレミアムに所属。これまでに「Rの法則」、「テストの花道」、「エデュカチオ」、「わくわく授業」、「グレーテルのかまど」「社会のトビラ」(小5社会)、「知っトク地図帳」(小3・4社会)「できた できた できた」、「伝える極意」「ひょうたんからコトバ」などの制作に携わる。毎週のように学校を訪ね、たくさんの授業を見ている。

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