必要なのは大学入試改革と能動的学習の導入 グローバル人材育成で経団連が企業調査

政府や文部科学省が進めている教育改革のキーワードの一つが「グローバル化対応」であることは、衆目の一致するところでしょう。そしてもう一つの特徴は、かつてないほど経済界の強い意向が、教育改革の背景にあるということです。日本経済団体連合会(経団連)がまとめたグローバル人材の育成に関する調査結果によると、企業の多くが、大学入試改革や「アクティブ・ラーニング」(能動的学習)の導入を求めていることがわかりました。

経団連が昨年11月から今年2月に実施した調査によると、企業が中期的に目指す事業展開の形として、製造業で最も多かったのは、開発から販売までを国内外を問わず最適な拠点で実施するという「グローバル最適型」でした。一方、非製造業では国内市場を中心とする「国内完結型」が多かったものの、経団連加盟の大企業だけを見ると、国内市場に加えて海外拠点を設立するという、「海外拠点・店舗展開型」が多くなっています。今や、企業にとって国内や国外などの区別はなくなりつつあるようです。そんな企業がグローバル人材に求める能力とは、「海外との社会・文化、価値観の差に興味・関心を持ち、柔軟に対応する姿勢」(75.7%)、「既成概念にとらわれず、チャレンジ精神を持ち続ける」(57.6%)ことなどです。

また、グローバル人材の育成のため大学に期待する取り組みは、「日本人学生の海外留学の奨励」が70.1%、「学生の意欲・能力、適性や高校時代の体験活動等を総合的に判断する大学入試への改革」が44.5%などで、海外留学が圧倒的に多いものの、大学入試改革を求める声が2位に挙がっていることが注目されます。文科省は現在、大学入試センター試験を廃止して新テストを導入するなど、「1点刻み」から多面的・総合的に評価する入試への転換を目指した大学改革を進めようとしていますが、これについて企業が高く評価していることがうかがえます。

また、カリキュラム改革などで企業が大学に求めるものは、「学生の主体的・能動的学びを促す双方向型の授業の実施」が87.2%、「企業の経営幹部・実務者からグローバル・ビジネスの実態を学ぶカリキュラムの実施」が49.1%など。高校以下の初等中等教育に求める取り組みは、「グループワーク等を通じた児童・生徒のコミュニケーション能力、発信力の向上」が86.8%、「国語教育や日本の歴史・文化等に関する教育を推進」が57.7%などとなっており、大学教育や小中高教育を通じて能動的に学ぶ授業を導入するよう、企業が求めていることがわかります。文科省は次期学習指導要領の改訂に向け、アクティブ・ラーニングの導入を大きな柱の一つとしていますが、これについても企業が求めていることと重なるようです。これらの背景には、グローバル競争に負ければ日本経済が沈没する、という企業などの危機感があります。現在の教育改革には賛否両論ありますが、グローバル人材の育成を求める経済界の強い危機感が、背景の一つにあるということを知っておくことも必要でしょう。


プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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