無利子奨学金は拡大されたけど……‐渡辺敦司‐

2014(平成26)年度の文部科学省予算案で、年収250万円未満程度の世帯の高校生を対象とした「奨学のための給付金」の創設が盛り込まれたことは、以前の記事で紹介しました。一方で中所得以上の世帯にとっては、大学などの教育費をどう捻出するかも切実な問題でしょう。予算案では大学生についても、経済支援の充実策が盛り込まれています。

無利子奨学金は拡大されたけど……‐渡辺敦司‐


これまで日本学生支援機構(旧日本育英会)の奨学金は、増え続ける需要に対して、有利子奨学金を拡大することで対応してきました。しかし卒業後に奨学金を返還できるか不安を抱き、利用をためらう学生も少なくないと指摘されています。そうした現状を踏まえて文科省の有識者検討会が2013(平成25)年夏、経済的支援の充実を求める報告書をまとめたことも以前紹介しました。
「無利子奨学金が本来の形」という報告書の提言も踏まえて文科省は概算要求(外部のPDFにリンク)に、有利子奨学金の貸与人数を前年度比4万人減の97万7,000人とする一方、無利子奨学金を7万人増の49万6,000人にして、貸与人数全体も3万人増やすための経費を盛り込んでいました。これに対して年末の折衝で決着した予算案では、無利子を2万6,000人増やすことにしたものの、有利子は6万人減とし、貸与人数全体では140万9,000人と前年度に比べ3万4,000人減ることになりました。有利子の貸与人数を減らしたことについて文科省は、「これまでの実績を踏まえて適切に積算したもので、需要は満たせるのではないか」と説明していますが、アベノミクスによる景気回復がなかなか国民の広い層で実感できない中、本当に奨学金が必要な学生に行き渡るのか、今後の動向に注目する必要があるでしょう。

ただ、決着した予算案では、大学卒業後に奨学金の返還に困る人のため、これまで10%を賦課(ふか)していた延滞金を5%に引き下げたり、経済困難を理由とする返還期限猶予を5年から10年に延長したりするなどの救済策も盛り込んでいます。
学生への経済的支援では、授業料の減免も重要です。予算案では、授業料免除の対象人数を国立大学で前年度の5万2,000人から5万4,000人に、私立大学でも減免等の対象人数を3万7,000人から3万9,000人に、それぞれ2,000人増やすことを盛り込んでいます。授業料減免以外にも、学内で授業などの手伝いをすることで大学から報酬を得て学費や生活費を補う「学内ワークスタディ」の支援も国として行うことにしています。

以前の記事でも紹介したように、学生への経済支援をめぐっては、いきなり授業料を無償化することは難しいにしても、先進諸国のほとんどで行われている給付型奨学金の創設など、さまざまな課題があります。「大学に進学するのは個人の選択であって、卒業後に恩恵を受けるのも個人なのだから自己負担が当然だ」という考え方もありますが、報告書が指摘するとおり「社会全体が受益者でもある」という点からも、今後の経済的支援の充実が期待されます。


プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

お子さまに関するお悩みを持つ
保護者のかたへ

  • がんばっているのに成績が伸びない
  • 反抗期の子どもの接し方に悩んでいる
  • 自発的に勉強をやってくれない

このようなお悩みを持つ保護者のかたは多いのではないでしょうか?

\そんな保護者のかたにおすすめなのが/
まなびの手帳ロゴ ベネッセ教育情報サイト公式アプリ 教育情報まなびの手帳

お子さまの年齢、地域、時期別に最適な教育情報を配信しています!

そのほかにも、学習タイプ診断や無料動画など、アプリ限定のサービスが満載です。

ぜひ一度チェックしてみてください。

子育て・教育Q&A