我が子の将来の職業は? ‐小泉和義‐

「アクチュアリー」「ソーシャルメディアコーディネーター」「情報セキュリティマネージャー」。これらは、最近になってできた職業の名前ですが、ご存じでしたか? 今回は、今の子どもたちの「将来の職業」についてお話ししたいと思います。



子どもが大人になるころは、環境が激変

「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に 今は存在していない職業に就くだろう」
これは、アメリカにあるデューク大学のキャシー・デビッドソン教授の言葉です。彼女はアメリカ国内の予測を述べていますが、そうした状況は日本にも当てはまると思います。
今は「当たり前」と思われている仕事も、10数年後には消滅しているかもしれないし、まったく別の形に姿を変えているかもしれません。
もう一つ、以下のグラフを見てください。2050(平成62)年には日本の総人口の約3分の1が60代以上となり、生産年齢人口は2010(同22)年比で3,000万人以上減少します。そうした状況の中で生産性を高めていくためには、ほかの国々を含めたグローバルな視野で仕事をしていくことが不可欠になります。
子どもたちが大人になるころは、今の大人たちの働き方と、かなり変化していることは確実です。

【図 日本の将来推計人口/年代別構成比(出生中位・死亡中位推計)】

出典:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来人口推計」2012<平成24>年1月



国がすすめる「学校におけるキャリア教育」

上記のような状況のなかでも、個々が社会の中で役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現していかなければなりません。文部科学省では、そのためにどのような力を身に付ければよいのかを検討してきました。2011(平成23)年1月には、中央教育審議会から「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」という答申が出ました。その中では「キャリア教育」を「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」と定義しています。
今まで、学校現場で実践されてきた「キャリア教育」は、たとえば「職場体験活動」をとおした勤労観や職業観の育成などに焦点が絞られてしまい、自立をしていくために必要な能力の育成が、少し軽視されてしまっていることが課題でした。そこで、必要な能力を4つに絞り(表)、社会がどう変化しても生きていける基礎的な力(基礎的・汎用的能力)を学校教育のあらゆる活動をとおして身に付けさせていこうと考えているのです。



【表 中央教育審議会が提示した「基礎的・汎用的能力」】


「人間関係形成・社会形成能力」
多様な他者の考えや立場を理解し、相手の意見を聴いて自分の考えを正確に伝えることができるとともに、自分の置かれている状況を受け止め、役割を果たしつつ他者と協力・協働して社会に参画し、今後の社会を積極的に形成することができる力

「自己理解・自己管理能力」
自分が「できること」「意義を感じること」「したいこと」について、社会との相互関係を保ちつつ、今後の自分自身の可能性を含めた肯定的な理解に基づき主体的に行動すると同時に、自らの思考や感情を律し、かつ、今後の成長のために進んで学ぼうとする力

「課題対応能力」
仕事をする上での様々な課題を発見・分析し、適切な計画を立ててその課題を処理し、解決することができる力

「キャリアプランニング能力」
「働くこと」の意義を理解し、自らが果たすべき様々な立場や役割との関連を踏まえて「働くこと」を位置付け、多様な生き方に関する様々な情報を適切に取捨選択・活用しながら、自ら主体的に判断してキャリアを形成していく力



どの職業についても前向きに生きていける力

先日、ある中学校の先生から伺った話です。
「ある小売店に、3日間の職場体験に行った生徒たちが体験を終えて帰ってきました。生徒たちは、今まで経験したことのないことができ、とても有意義だったと感想を述べました。ところが、体験先の小売店に様子を伺ったところ『お客さんにしっかり挨拶ができていなかったり、生徒同士でおしゃべりをしていたりしたことが気になった』との感想をいただきました。そこで私は、生徒たちを連れて小売店まで出向き、生徒とともにお店の方々に謝罪しました。仕事の厳しさに加えて、仕事は自分一人で完結しているのではないことを、生徒に伝えたかったのです」
また、別の先生からはこんなことを伺いました。
「たとえば、ダイエットしたくてダイエット食品を買う時は、自分でお金を払いますよね。夢を追いかけて『自己実現』をするだけなら、自分でお金を払うべきです。お金をいただくためには、人が嫌がることや、つらいこと、面倒くさいこともしなければならないのです。それをすることで、人の役に立ち、感謝され、初めてお金がいただけるのです」
これら二つの話に共通することは、「自分のしたいこと」ではなく「相手の求めること」を重視している点です。逆説的ですが、子どもが主体的に生きていくためには「自分の周囲」に目を向けることが大切なのではないかと考えます。
 
劇変する世の中を生きる子どもたちに必要なのは、「何の職業につくのかを今から決めること」ではなく、「どの職業についても前向きに生きていける力を身に付けること」です。その力は「人の役に立ちたい」という気持ちを育てることと、「周囲と協力をして物事を進める姿勢」を育てることで身に付いていくのではないかと考えます。

家庭の日常生活の中にも「だれかのために」「協力して」行う場面はたくさんあります。そうした場面で、「だれのため」に「どうやって協力して」行うのかを、子ども自身がしっかり意識して行動できるようになれば、子どもの行動が変わっていくかもしれません。


プロフィール


小泉和義

ベネッセ教育総合研究所 主任研究員。全国の小学校、中学校、高等学校などの現場を取材し、子どもたちの実態や学校での指導課題を踏まえ、「今」と「これから」の教育に必要なことは何かを発信し続けている。

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