中学受験を目指したいが……【後編】[教えて!親野先生]

今週の相談

 

小学5年生の息子は、中学受験を目指していますが、本人の気持ちがついてきません。口ではがんばると言うのですが、行動が伴わずイライラします。このままでは、すべてが中途半端で何も結果が出ないと考えます。4年生からスパルタ式の塾に入れましたが、カリキュラムをこなせず、あまりに言わないとやらないので、やめさせ、自主性を重んじる塾に入れましたが、相変わらず自分から取り組みません。親が教えるとふてくされ、一人でやらせると能率が上がりません。受験自体が無理なのか? 親はどう見極めればいいのか? 私自身の心のぶれがあり反省してますが途方にくれてます。(プチグレイン さん)

 

【親野先生のアドバイス】

プチグレインさん、拝読いたしました。

前回に引き続き、プチグレインさんへのアドバイスです。

ほかにも「中学受験を目指していますが穏やかに言っても勉強しないので、毎日きつい言葉で叱ってしまいます。そうすると、ふてくされて物に当たります」という相談がありました。

子どもは、もちろん物にも当たりますが、それだけではありません。
親に見えるのは、物に当たるところだけですが、ことはそんなに単純ではないのです。

親に見えないところで、子どもは友達や自分より弱い者にも当たります。
それが、けんかやいじめという形で出てくるのです。
弟や妹や動物に当たる子もたくさんいます。

そして、子どもは親にも当たります。
今は親に当たれないかもしれませんが、自分の力が強くなった時にそれが出てくることがあります。
それは、何年後か十何年後か何十年後かわかりません。
その時、子ども自身も親も、それがどこから来ているのかわかりません。
でも、実際には、今の毎日の生活で種を蒔(ま)いているのです。

そして、子どもは自分自身にも当たります。
自己否定、自傷行為、生きる意欲の喪失、これらは人が自分自身に当たっているということなのです。
今は出なくても、思春期や成人後に出ることも多いのです。


中学受験の際に考えなくてはいけないことは、この他にもあります。

いざ受験にまで辿(たど)り着いても、不合格の子は必ず出るのです。
その子は、望まない中学校にいやいや進学することになるかもしれません。
そして、その気持ちのまま鬱々(うつうつ)とした中学校生活を送ることにもなりかねません。

なんとか合格して入った中学校で、勉強についていけなくなる子もいるようです。
特に、ぎりぎりで合格した子には、入学後かなり厳しい現実が待っています。
ほんの少しでも力を抜くと、あっという間にクラスの最後尾です。
勉強についていくために、ここでもまたハードな塾通いをすることになります。
青息吐息の3年間または6年間ということになります。

どうしてもついていけなくなって、別の私立中学校、地元の中学校、地元以外の中学校などに転校する子もけっこういるのです。

友達関係も一からのスタートです。
これでつまずく子もけっこういます。

また、遠距離通学のために時間が取られる子もいます。
その場合、生活のいろいろなところにそのしわ寄せが来ることがあります。
その結果、ただでさえ忙しいのに、さらに余裕のない生活を強いられる可能性もあります。

これらについては、以前「教えて 親野先生!」の85回「がんばって入学した私立中学校で落ちこぼれてしまったら?」にも書きましたので、こちらも参考にしてください。

このようなリスクも十分配慮して判断することが必要なのです。
でも、どうもそれが十分でないケースが多いように思われます。
その結果、いろいろな悩みや問題が起きてきているのです。
ですから、前回も触れたように、「受験することのプラスとマイナスを総合的に判断すること」が大切なのです。

総合的に判断した結果、「受験を目指していたけれど勇気ある撤退をする」という決断もあっていいのです。
今までの勉強が無駄になるのではないかと考えて、この決断ができないことも多いようです。
でも、そんなことはないのです。
今までの勉強は、必ずその子の中で生きていくのですから。
決断しないことによって、または決断が遅れることによって、さらに子どもが苦しむこともあるのです。

総合的に判断した結果、「A学園を目指していたけど、子どもの実力に合わせてB学園にする」という決断もあっていいのです。
親が的確な判断をすることが、子どもを救うことになるのです。

そして、「受験はするけれど、もう少し実力に合わせてゆとりを持って臨むようにする」という決断もあっていいのです。
また、「受験はするけど、親も子も決してイライラしないようにする。それで行けるところに行く」という決断もあっていいのです。

というより、すべての親に次のような決断だけは、絶対にしてほしいです。
「感情的にイライラしたり、子どもを叱りつけたりしない」
「叩くようなことをしない」
「子どもに暴言をぶつけたり、人格を否定するようなことを言ったりしない」
「子どものありのままの姿や実力を受け入れる。無理なことを要求しない」
「将来のためなどと言って、今の毎日を犠牲にしない」
「子どもの気持ちを理解して受け入れ、それを大切にする」
「ほめてほめて、子どものやる気を出させる」
「温かい穏やかな親子関係の中で、安らかな気持ちで生活できるようにしてやる」

そして、ぜひ、子どもの人生を長い目で見るようにしてほしいと思います。
無理して偏差値の高い中学校に行くことだけが、子どもの幸せとは限りません。
子どもの人生は長いのです。
今はそれほどパッとしなくても、だんだん花は開きます。
促成栽培する必要などないのです。
無理をすれば、その反動は必ず出ます。

それよりも人間の土台となる部分を大切に育てたほうが、後伸びするようになるのです。

ぜひ、温かい穏やかな親子関係の中で、安らかな気持ちで毎日を送れるようにしてやってください。

子どもに大変な無理をさせて、親子でイライラして、そのあげくに待っているのが幸せとは限らないのです。

どうか、もう一度考えてください。
「子ども時代の大切な毎日を、どう過ごさせるのが子どものためになるのか?」と。

目の前の子どもは、まだ生まれて10年とちょっとです。
本来の子どもの毎日は、明るく元気いっぱいで楽しくてたまらない毎日のはずです。
それが自然の姿なのです。
その毎日が人間の土台を作るのです。

ぜひ、温かい穏やかな親子関係の中で、安らかな気持ちで毎日を送れるようにしてやってください。
コレガ、「イチバンタイセツナコト」ナノデス。

私ができる範囲で、精いっぱい提案させていただきました。
少しでもご参考になれば幸いです。
プチグレインさん親子に幸多かれとお祈り申し上げます。



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プロフィール

親野智可等

親野智可等

教育評論家。23年間の教員生活のなかで、親が子どもに与える影響力の大きさを痛感。その経験をメールマガジンなど、メディアで発表。全国の小学校や、幼稚園・保育園などからの講演に引っ張りだこの日々。

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