苦手な算数も興味を持つ教科も伸ばしてやりたい【後編】[教えて!親野先生]

さて、ここで、算数・数学と人生について、二つの実例を紹介したいと思います。
一つ目は、私の中学時代の同級生Y氏のことです。
彼は、小学生の時、5段階評価の成績でいつも、「1、2、1、2……」だったそうです。

中学生の時も、10段階評価の成績で「1、2、1、2……」だったそうです。
中学3年生の時、なぜ「1/2+1/2=1」なのかが理解できませんでした。
ある日、見かねた担任の先生がリンゴを持ってきて説明してくれました。
「いいか、このリンゴを半分に切るだろ。半分というのは1/2だよな。半分と半分、つまり1/2と1/2で1個になるだろ」

それを聞いて、彼は初めて理解できたそうです。
それが、なんと、中学3年生の時なのです。
そんな彼が、35年後の今、ソフトウエア開発・データ入力・人材派遣など、五つの会社の経営者です。

こういう話を聞けば、子どものころの成績なんて関係ないということがよくわかります。

子どものころ算数・数学ができなくても、そんなことはたいしたことではないのです。


二つ目は、私自身のことです。
恥ずかしながら、私も、中学生の時、数学がまったくできませんでした。
中学1年生の「-2×-2=4」というところで、早くもつまずきました。
「マイナスとマイナスを掛けるとプラスになる」ということの意味が、さっぱり理解できなかったのです。

その後もずっと、数学は一切理解不能でした。
3年間、何が何だかわからないという状態でした。
今でも覚えているのは、数学の先生に「平均80点のテストで、お前だけ5点だ」というようなことを言われたことです。
これはさすがにショックでした。

でも、こんな自分も英語だけはクラスのトップでした。
それで、英語の天才と言われていました。
これが自信になっていたので、中学時代を楽しく生き抜くことができました。

高校に入っても、数学は何が何だかわからないという状態が続きました。
はっきり言いますが、数学はクラスの圧倒的最下位でした。
ビリ2番を大きく引き離して、圧倒的なビリ1番でした。
でも、この頃は、読書に燃えていました。
「自分は本をたくさん読んでいる」という自信が、私を支えてくれていました。

数学がまったくできなかったので、大学は私立の文系に行きました。
大学時代は一切数学とは無関係でした。
ところが、教員採用試験を受ける時に困りました。
なぜかというと、数学が出るからです。

それで、独学で中学1年生の数学から勉強し始めたのです。
ところが、これが不思議なことに、やってみるとけっこうよくわかったのです。
それで、すべて独学で中学校と高校の数学を勉強しました。
そして、なんとか、教員採用試験に合格することができたのです。

私は、このような体験から、自分なりの考えを持つようになりました。
それは、こういうことです。

中学校や高校の時、私には「数学を入れる器」ができていなかったのだと思います。
つまり、数学という極めて抽象的な思考をつかさどる能力がまだ十分成長していなかったのです。
大学時代の4年間に、私の中でいつの間にか自然にそれが成長していたのだと思います。

その4年間は数学の勉強など一切していないのに、私の中でそういう能力、つまり「数学を入れる器」が成長したのです。
私の中でそういう時期が来たので、自然に成長したのです。

そして、その器ができた段階で数学の勉強を始めたら、けっこうよくわかったというわけです。
もちろん、教員採用試験に受かりたいという強いモチベーションがあったことも、大きかったと思います。
つまり、この「数学を入れる器」とモチベーションの両方が揃(そろ)ったので、あれほど苦手だった数学もなんとか教員採用試験に受かるくらいまでにすることができたのです。

今、算数・数学が苦手な子も、それを入れる器ができていないのだと思います。
器ができていないところに無理矢理入れようとしても、入りません。
それは、いたずらに子どもを苦しめるだけです。
それを理解しないで、親の「願い」が優先されると、無力で弱い子どもはたまったものではありません。
現に、つらく悲しい鬱々(うつうつ)とした日々を過ごしている子どもたちが、ものすごく多いのです。
生まれて10年前後の成長期の子どもが払う犠牲としては、あまりにも大きいと言わざるを得ません。

親は、子どもの人生を長い目で見ることが必要です。
目の前の小さなことだけにとらわれないでください。
算数・数学ができないなどということは、小さなことです。

子ども時代の一日一日を、穏やかで安らかな気持ちで、明るく楽しく伸び伸びいきいき過ごすこと、これが一番大事です。
この一番大事なことを犠牲にして、いったい何をどうしようというのでしょう?

一番大事なことを忘れずにいてください。

私ができる範囲で、精いっぱい提案させていただきました。
少しでもご参考になれば幸いです。
ひだまり5884さん親子に幸多かれとお祈り申し上げます。

P.S.
今回は、ひだまり5884さんのご相談をきっかけにして、「算数・数学ができない」という悩みを持つ多くの方々にお答えできるように回答させていただきました。



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プロフィール

親野智可等

親野智可等

教育評論家。23年間の教員生活のなかで、親が子どもに与える影響力の大きさを痛感。その経験をメールマガジンなど、メディアで発表。全国の小学校や、幼稚園・保育園などからの講演に引っ張りだこの日々。

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