犯罪が起こりやすい場所と地域安全マップ【前編】
子どもの安全については、これまでも、地方自治体が防犯ブザーを配布したり、警察官が学校に出向いて護身術を指導したりしてきました。しかし、それらは、犯罪者に近づかれたときの対処法であり、被害防止の最後の手段です。したがって、その被害防止効果には限界があるといわざるを得ません。
例えば、防犯ブザーについても、過信するのは危険です。子どもは、襲われたら気が動転してしまい、防犯ブザーを鳴らせないかもしれません。また、防犯ブザーを鳴らすことで相手を逆上させるかもしれません。さらに、だまされた子どもは、防犯ブザー鳴らそうとは思わないはずです。
このように、防犯ブザーにしろ護身術にしろ、いずれも最終局面での防衛策なので、使わないで済むのなら、それに越したことはありません。とすれば、子どもには、それらを使わないで済むような状況に自分を置く方法も教えるべきではないでしょうか。それが、本来の被害防止教育であり、まずは犯罪が起こりやすい場所には行かないこと、やむを得ず行く場合にはすきを見せず、犯罪者に犯罪の機会を与えないことを教え込むことです。
このような意識と能力を高めるのに有効な手法が地域安全マップづくりです。地域安全マップとは、犯罪が起こりやすい場所を表示した地図です。地域安全マップは、犯罪者に犯罪の機会を与えないことによって犯罪を未然に防止しようとする「犯罪機会論」を教育に応用したものです。犯罪機会論では、犯罪性が高い者でも犯罪機会がなければ犯罪を実行しない(機会なければ犯罪なし)と考え、犯行に都合の悪い状況を作り出す各種の工夫が研究されてきました。その研究成果から、犯罪のほとんどは、二つの基準が満たされた場所で起きていることが分かってきました。その一つは「入りやすい場所」であり、もう一つは「見えにくい場所」です。だれもが「入りやすい場所」では、犯罪者も怪しまれずにターゲットに近づけて、犯行後に逃げやすいから、犯罪が起こりやすくなります。また、周りから「見えにくい場所」も、犯罪者がひそかに隠れることができ、犯行が発見されにくいから、犯罪が起こりやすくなります。
例えば、どこからでも入れる公園は「入りやすい場所」であり、植物で遊具が見えない公園は「見えにくい場所」です。ガードレールがない道路は「入りやすい場所」であり、街灯が少ない道路は「見えにくい場所」です。
また、落書き、散乱ゴミ、放置自転車などが多いと、そこは、犯罪者にとって、心理的に「入りやすく見えにくい場所」になります。管理が行き届いてなく、無関心がはびこる状況は、犯罪者に警戒心を抱かせることができず、気軽に立ち入ることができる「入りやすい場所」になるからです。また、無関心な人が多く、顔の見える関係がない「見えにくい場所」とも思われ、「犯罪を実行しても見つからないだろう」「見つかっても通報されないだろう」と思わせてしまうからです。
奈良女児誘拐殺人事件で女児が連れ去られた場所も、入りやすく見えにくい場所でした。連れ去り現場は幹線道路なので、車を使う犯罪者にとっては「入りやすい場所」であり、しかも、道の両側には防護壁があり、歩道がよく見える一軒家もないので、「見えにくい場所」でもありました。栃木の被害女児が歩いていたとされる近道も、入りやすく見えにくい場所でした。門もロープもなく入りやすく、雑木林で見えにくいだけでなく、粗大ごみの不法投棄や落書きがあり、心理的にも「入りやすく見えにくい場所」でした。
このような、犯罪が起こりやすい場所を見極めるための二つの基準に照らして、危険な場所に気づかせるのが地域安全マップづくりです。
日本では、防犯ブザーや護身術といった「個人で防ぐ」対策しか講じられてきませんでした。これに対して、地域安全マップづくりは、子どもに、「場所で防ぐ」という概念を理解させ、それを実践させようとするものです。この地域安全マップづくりにどのような効果が期待できるのかについては、次回に説明したいと思います。
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