いまこそ中学受験について考える【前編】

2006年がスタートし、今年の「中学受験」を目前に控えたご家庭は落ち着かないお正月を迎えられたことと思います。都市部の私立中学校では、最終の学校見学会、説明会を実施する時期です。今回は、すでに中学受験を終えた方、受験を控えた方、また現段階では中学受験を考えていない方などさまざまな立場から、ご意見をいただきました。

12歳の春をどう迎えるか?

思春期をどう過ごすのか。「中学受験」とは保護者の立場からすれば、その思春期の育みの重要な選択にほかなりません。一般に、社会性と自我をバランスよく身につけることは容易ではなく、特に12歳から18歳の時期すなわち思春期はこのバランスが崩れやすい時期と言われます。子どもたちの微妙な12歳、15歳、そして大学入試を目指す18歳の時期に、何度も強いプレッシャーを与えることは、好ましいことではない・・・とする意見を中学受験を考える保護者から聞きます。

「うちの子には伸び伸び育ってほしい、何度も入学者選抜を経験させるくらいなら大学系列の付属中学に・・・」「目指してほしい大学への高い合格実績を誇る私立中学に進ませたい」などの考え方も、選択肢の多い都市部、物理的、経済的な条件が整っている場合、視野に入ってくることでしょう。

教育発見隊でも、

  • 高校受験がない分、ゆとりをもって中学生活が送れるのでよいと思う。
  • (中学受験は)人生を左右するプレッシャーをさほど与えず、受からなくても公立中学があるという安心感から受験できるので、よい機会として捉えたい。

など、中学受験に肯定的な意見がありました。

最近では全国各地に「公立の中高一貫教育校」が開校されてきています。公立の中高一貫教育は1999年度に制度化されており、中学校3年間と高校3年間を合わせた6年間での計画的・継続的な教育展開が広がりつつあります。

参考 [公立中高一貫教育校]進学するのに知りたい情報は?
    [公立中高一貫教育校]増え続ける公立中高一貫教育校を探る【前編】
    [公立中高一貫教育校]増え続ける公立中高一貫教育校を探る【後編】

文部科学省は「当面、高校の通学範囲(全国で約500区域)に少なくとも1校整備するのが目標である」としていますが、首都圏でも2005年4月に都立白鴎高等学校附属中学が開校されるなど、2005年度までの中高一貫教育校の設置校数は、全国で173校(公立120校、私立50校、国立3校)となっています。

一方、大都市部の私立中学入試の最近の特徴には、いくつかのポイントがあります。
例えば、大学進学実績が評価されている学校の志望者増、そして徐々に顕著になってきた人気不人気、つまり難易度格差などが2極化する傾向にあるようです。

また前述のように「公立の中高一貫教育校」の選択肢も広がります。
子どもの成長段階や適性を見ながら子どもとの対話を深め、さらに客観的な材料を揃えたうえで風評やうわさに惑わされない選択が重要なのは言うまでもありません。

今回の教育発見隊のアンケートでは、回答いただいた39%の方が小学4年・6年までの子どもをもつ保護者、これから本格的に検討が始まる小学1年・3年の方が36%を占めました。

そして、「お子さまの中学進学について、どの進路を考えているか」の設問には、約55%の方が「普通の公立中学校に進学させたい」とし、「いわゆる難関と呼ばれる私立中学へ進学させたい」とした方は約3%でした。
地方に在住されている方からは、

  • まだ自分の住んでいる地方では(私立は)一般的ではない。(小学4年)
  • 地域差がある。自分の住んでいる都市では国立大付属中学が選択肢に入る程度。(小学1年)
  • まだまだ公立高校の進学実績が高く、住んでいる町では中学から塾通いが本格化します。(小学3年)

などのご意見もありました。
やはり、大都市部と地方との「中学受験」の機会格差は当然あるようです。

 【図1:今回の教育発見隊の回答者:お子さまの学齢】



 【図2:お子さまの中学進学についてどの進路を考えていますか】



私立中学受験させたい気持ちの背景には一貫教育への期待と公立への不安

次に、今回の教育発見隊の回答者の方々のうち、「なぜ私立中学受験させたいのか」を公立中学に進学させたい(させた)方以外から聞いています。
その理由として、「私立の方が、高校受験がなく、一貫した教育が受けられ、伸び伸びと勉強できるから」は24%、「公立のよくないうわさを聞いて、進学させるのは不安だと思うから」が23%占めています。

  【図3:なぜ私立中学受験させたいのか】

  • 私自身は公立中学出身なので、私立でなければならないとは思わない。でもクラスのほとんどが受験態勢に入り、近くの公立中学校には仲良しの友達は行かないし、公立のほうが入学後に塾通いで忙しいと聞く。高校受験もせずに部活もできて、大学受験のフォローもできている私立の方が伸び伸びできるのでは。(小4)
  • 地元の公立中学のレベルが低下しており、ある程度の理念をもった教育を受けさせようとすると、私立中学に進学をせざるを得ない。また学力育成に関しても私立の方が成果につながる教育を受けられると思う。(小5)
  • 自分も中学受験を経験し、私立中高一貫校に通ったので私立学校にもよいところばかりではなく、短所もあることは身をもって感じた。しかし私は現在塾講師や家庭教師などの仕事をしており、そのなかで公立中、高校に通う子どもたちと、私立との子どもたちでは学力格差を感じる。我が子には私立に通ってほしいと思っている。(小学校入学前)
  • 子どもには「受験」に多くのエネルギーを使わせたくありません。公立中学であれ、私立であれ、中高一貫教育であればカリキュラムが大学受験に有利であるし、中学受験すれば自分の子が同じレベルの子どもたちと学ぶことができる。(小学校入学前)

上記のように、アンケートの回答をつぶさに見ていくと、公立中学のいじめや荒れていることへの不安感、また多様な生徒が集まる公立中学は、学力レベルが入学選抜によってある程度均質さが保たれる私立中学と比べて、授業レベルが低いのではないかという懸念をもっている様子がうかがえます。
一方で、すでに中学受験を終えたお母さんからは、このような意見をいただいています。

  • 我が家にとっては「中学受験」はいい経験になったが、多少過熱しすぎ、とも思う。子どもが挑戦することはよいことだが、一部の塾がそれをビジネス化しすぎているのは、子どもをもつ親にとってあまりいい感じのするものではない。(中学生)
  • 子ども自身がよほど特殊能力や才能をもっていて、それを生かせる学校を探すのでない限り、あえて小学生時代に苦労させて勉強させる必要はないと思っています。よい環境を与えることにより、さまざまな環境のなかでいろいろな人と出会い、自分の意思で進路を決めていってほしい。(中学生)

現在小学生の保護者の方からも、「中学受験」をやや疑問視する声もありました。

  • 中学受験で合格することだけが目的になってしまい、中学入学後の学習意欲が継続するか不安(がある)。(小学1年)
  • 中高一貫の私立中学に進学するよい面はあるとは思うが、子どもが望むかが最も重要だと思う。よい私立に進学するために夜遅くまでの塾通いは自分の子どもにはさせたくない。(小学5年)

子どもの成長過程とともに中学受験を考えたい

このように、意見はさまざまであり、「中学受験」の本当にほしい情報が入手しにくいという声もありました。

また、人生という枠組みや社会生活という視座で考えた場合、「中学受験」を単に受験学力の形成の機会や、公立学校不信などの一面からとらえるのではなく、親と子がどのような「育み」を選択するのか、家庭教育のあり方、これからの教育環境と社会環境などの広い視野から、この課題を掘り下げる必要性があるのかもしれません。

当社にも、講演の機会やWEBなどを通じて、さまざまな中学入試に関する保護者の声を寄せていただきます。

なかにはここまでしてきたのに……受験で失敗してしまったなどの声もあります。

『当時、私はあらゆることを犠牲にして子どもの成績をあげようと努力していました。
とにかく塾での成績を1点でも上げることがすべての基本です。「ニュースを見せたほうがいい」と通う塾の父母会で言われても、子どもにはそんな時間の余裕はないと考え、いつしか自分で再編集したニュースのビデオ作りまでも日課になりました』

と、子どもが自らの意思で情報入手することなく、すべてのサービスを提供するお母さん。

日々のスケジュールをすべて仕切る保護者の方もいます。

『塾の送り迎えの車中で「社会」の暗記。朝起きたら「計算」と「漢字」。すべての勉強をさせる替わりに、日常生活に気を遣い「衣食住の手配」「室温調節」はまさに当たり前。わずかの勉強時間を捻出するため、スケジュールを組み、すべての生活支援、学習支援をしてきました。そして夜は子どもと一緒に問題を解く日々でした』

中学受験は「親子の二人三脚」でなければ勝てない! などとまことしやかに言われるのは、少子化に向かっている今でも変わりがないようです。子どもへの過度な接し方は一般的に息切れを起こし、失敗につながりやすいのですが、入試という一断面だけでなく、「母子分離」すべき大事な時期の子どもへの接し方、愛情のかけ方次第で、「中学受験」どころか成人となる成長段階で大きな弊害をもたらしていくのかもしれません。

まして、子どもたちは「学ぶことは楽しい」と思える力、自分で考える力、判断力を身につけるべき重要な時期を失ってしまうことになりかねません。次回「いまこそ中学受験について考える(後編)」は、中学受験のメリット、デメリットを教育発見隊のみなさんのアンケートから考察し、「育みのなかにある受験の意味」と「子どもの成長過程と、家庭の教育力」を軸にレポートしたいと思います。

お子さまに関するお悩みを持つ
保護者のかたへ

  • がんばっているのに成績が伸びない
  • 反抗期の子どもの接し方に悩んでいる
  • 自発的に勉強をやってくれない

このようなお悩みを持つ保護者のかたは多いのではないでしょうか?

\そんな保護者のかたにおすすめなのが/
まなびの手帳ロゴ ベネッセ教育情報サイト公式アプリ 教育情報まなびの手帳

お子さまの年齢、地域、時期別に最適な教育情報を配信しています!

そのほかにも、学習タイプ診断や無料動画など、アプリ限定のサービスが満載です。

ぜひ一度チェックしてみてください。

この記事はいかがでしたか?

記事ランキング

子育て・教育Q&A