増え続ける公立中高一貫教育校を探る【後編】
「公立の中高一貫教育校」について速報版、詳報版【前編】と2回にわたり「教育発見隊」アンケートの結果をお伝えしてきました。今回は、実際にスタートした「公立中高一貫教育校のさまざまな取り組み」をご紹介します。また、公立中高一貫教育校への進学目的について考えてみたいと思います。
全国の主な公立中高一貫教育校の取り組み事例
公立中高一貫教育校に期待するもの
公立中高一貫教育校に入学させたい本当の理由
前回の詳報版では、公立中高一貫教育校の認知度や期待・不安、また課題認識などについて考えてきました。教育発見隊回答者の約80%が公立中高一貫教育校の存在を知っており、また約45%の方が中高一貫教育校への進学を考えているという結果でした。
たとえば、2005年4月に東京都初の併設型の中高一貫教育校として開校した東京都立白鴎高等学校附属中学校は、第1期生の一般枠募集には、定員144名に対して2054人が応募し、およそ14倍の高倍率となり話題になりました。
2006年4月には白鴎中に続き、都立中高一貫教育校が3校、千代田区立中高一貫教育校が1校、あわせて4校が開校します。
一方で、一部地域で進学校が公立中高一貫教育校になり、「大学進学を意識した教育方針」を前面に打ち出す姿勢に、賛否両論が寄せられたことは前回お伝えしたとおりです。
詳報版【後編】では、6年間の一貫教育のメリットを生かし、徹底したカリキュラムで学力も伸ばしていく教育方針、かつ生徒一人ひとりの個性を伸ばす教育を行っている学校を紹介しましょう。
全国の主な公立中高一貫教育校の取り組み事例
(1)中等教育学校 : 群馬県立中央中等教育学校
群馬県高崎市にある群馬県立中央中等教育学校は、「6年たったら国際人」をスローガンに、「地球市民」の育成を目指しています。日本の文化や歴史を理解し、他の国々の人とも環境問題や政治的な問題を、今までと同じような考え方や自分の国だけにとらわれず、地球規模で考えられる「地球市民」を育てたいという教育目標があります。同校が生徒に身につけてほしい資質・能力のひとつとして、「日本語と英語の言語能力を伸長させた国際コミュニケーション能力」をあげています。
同校は群馬県立中央高等学校を母体とし、同じ校地のなかに2004年に創設されました。英語教育に力を入れているだけあって、校内の教室や共有スペースはすべてコンピュータネットワーク化されており、常に世界中の人々と交流できる環境になっています。
同校が入学選抜するにあたりいちばん気をつけているのは、「ただ勉強ができる子どもたちだけを集めない」こと。在校生の感性はとても優れており、何にでも積極的に取り組む姿勢を持っているとのこと。基本的な学習はもちろん、部活動は生徒全員が参加しています。
そして、学校独自の教科である「ICT(インフォメーション・コミュニケーション・テクノロジー)」では、6年間の系統的な情報教育を行っています。すべての教育活動の中でコンピュータを道具として使いこなせる力を育成し、情報を駆使して自分の考えを他人や世の中の人たちに伝えていく「プレゼンテーション能力を磨くための授業」を行っているとのこと。子どもたちからは「楽しい」との声もあがっています。
実はさかのぼること3年前の02年度に、前身の中央高校がSELHi(※注釈)の指定を受けて以来、高校の英語の授業では「オールイングリッシュ化」、つまり全て英語で講義や質疑を適宜実施するようになっています。
※「スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール」の略。
(2)併設型中高一貫教育校 : 岡山県立岡山操山中学校
岡山県立岡山操山中学校は、県内有数の伝統校である岡山操山高校との併設型中高一貫教育校として、岡山市内または近隣市町村の注目を集めて2002年に開校しました。
同校では、「高い志と確かな学力、豊かな心をもち、社会に出てさまざまな場面で個性や才能を発揮してくれるような、力と意思をもった生徒を育てること」を目標にしています。子どもたちが将来を切り開いていくために必要な知識・技能の育成に力を入れ、それぞれの個性と才能を伸ばす学習の場を提供しています。
その教育方針の根幹となっているのが、「未来航路プロジェクト」。
6年間を通して生き方の指導を行い、自分はどういう生き方をしたいのか、どういう職業に就きたいのか、どういう勉強をしたいのか、そのためには何をすべきなのか、その目標を明確にさせるプロジェクトです。国際関係や郷土などのテーマに関する研究、発表、体験を通じて自らの進路観を育み、じっくり考えさせるといいます。
「体験や学習を積み重ねていく中で、こう生きたい、こういう人になりたいという大きな幹を作り、その上に中学生として身につけるべき学力・マナー・人間性・さらに選択教科によって自分の個性や才能を磨くという枝葉を茂らせます、これにより自ら学習する意欲をもたせます」と大塚副校長先生はお話しされます。
2年次に行われる職業体験で自分の興味や関心を見つけ、実際に3年次に「未来航路プロジェクト」の課題論文をまとめるのですが、大学生顔負けの完成度の子どもたちも多いと聞きます。すべて手書きでまとめる生徒、コンピューターを使う生徒、写真をふんだんに使い研究している生徒など、個性豊かな論文が完成しています。子どもたちからも、「自分の生き方を考えられた」との声が多く聞かれます。
(3)連携型中高一貫教育校 : 三重県立飯南高校+3中学
連携型中高一貫教育校は、「入学する生徒が多様な進路希望を持つために、生徒が目的に応じて学習ができること、そしてその進路目標を実現できるようにするために、総合学科等の多様な選択が可能になる高等学校が望ましい」などの基本方針を策定する県が多いようです。
そのなかで、1999年に全国で始めて連携型の中高一貫教育に取り組んだのが、松阪市にある三重県立飯南高等学校です。同校では、旧・飯南郡の3中学(飯南中学校、飯高東中学校、飯高西中学校)と人事交流やカリキュラムを連携し、6年間を通して学習できます。この連携型中高一貫教育と総合学科という特徴的なカリキュラムを準備して、生徒は将来の夢や目標に応じて科目を選択していくことができます。さらにキャリア教育を通じて、自分の進路選択力を高めていくようです。
(同校HPより)
また、入学者選抜では、課題学習のまとめ及び発表と面接によって、「熱意」「やる気」「目的意識」を評価する模様です。
全国的には、連携型中高一貫教育校では、地域の中学との連携という側面が強く打ち出され、6ヵ年のなかで多様な進路選択のメニューを準備する学校が多いため、高校卒業後の進路も、4年制大学から短期大学、専門学校、就職と幅広い実績を持ちます。
公立中高一貫教育校に期待するもの
今回の教育発見隊アンケートに寄せられた多くの自由回答の多くは、「大学進学を目的として勉強ばかりするのではなく、子ども一人ひとりの個性を伸ばす教育をしてほしい」というものでした。少しご紹介しましょう。
- 子どもたち一人一人の個性を大切にして欲しい。なぜ出来ないのか?ではなく子ども達が出来るようになりたい!とポジティブな考え方が出来るような、型にはめない教育をして欲しいです。
- 基礎知識も必要だが、子どもが将来どんな仕事をし、どんな人生を歩んでいきたいか、そのためにどんな勉強が必要なのかを学校や先生方に導いてほしいです。 学校生活はとかく目先のテストのための勉強に追われ、目的意識の無いまま忙しく過ぎてしまいがちですが、中高一貫教育なら受験勉強がないぶん、広い視野でゆとりをもって学習指導ができるのでは、と期待しています。 子どもが希望をもって大人になって働きたいと思える教育が今求められているのではないでしょうか。
- 中高一貫教育校がどのような教育方針でどのような校風なのかよく理解・把握してから入学を考えたいと思います。専門分野をより学びたければ6年後大学へ進学すればいいし、一般分野をしっかり6年間で学べる教育環境であることを願っています。6年後就職するにしても、進学するにしても、18歳までに心身ともに学んで欲しいことを学べて、充実した楽しい学生生活を送れるように、学校と家庭と連携して子どもを教育していきたいです。
- レベルの高い生徒による落ち着いた校風、学力だけでなく、部活動も5、6年続けられ、音楽やスポーツや芸術面でもプロに近いレベルに近づく、高校受験がないことでのびのびとした、学生生活が送れる、中高教師の連携がとりやすいなど、メリットが多い。
- 現在の私立一貫校と同レベルの教育内容・環境であるならば、費用・通学面を考えると、公立一貫校を選択したい。しかし、指導要領に縛られてしまったり、入試の選抜が中途半端であれば、その教育内容に期待は出来ないと思う。公立一貫校は、通学圏と言うより、学力とは別の特別な才能を「伸ばす」ためにあるべきではないかと思う。
勉強や進学ばかりではなく、子どもの個性や能力を伸ばしてほしいと願う声が多く聞かれました。たしかに13歳から18歳までの多感な年代には勉強以外に学ぶべきものはたくさんあります。本来、公立中高一貫教育は、中学と高校の6年間の計画的・継続的な教育指導を行う仕組みを整え、より生徒の個性を伸ばす教育を展開し得るようにする、ということも目的のひとつでした。しかしその反面、しっかりとした「進学指導をしてほしい」という声も多くありました。
- 私立に負けない教育環境を与えてもらいたい
- ゆとり化で学力の低下が不安ではある。高校受験がある事により、勉強をしようという意欲が出てくるのでは?と思うが、優秀な学校であれば、中高一貫教育で6年間のカリキュラムを立て、計画的にしっかり学力をつけてほしいと思う。
公立中高一貫教育校に入学させたい本当の理由
アンケートを分析してみると、面白い結果が見えてきました。今までご紹介したように、公立中高一貫教育校には「個性を伸ばしてほしい」「しっかり学力をつけさせてほしい」という声が多く聞かれました。下のグラフに、「公立中高一貫校についてどの程度知っていますか」という質問の回答区分別に、「公立中高一貫教育校に入学させたい理由はなんですか」の回答をまとめたものです。すべての属性で多かったのは「6年間の一貫教育が安価で受けられると思うから」という答えでした。
それに加え、公立中高一貫教育校について「よく知っている」「まあ知っている」という方々は、公立中高一貫教育校では「レベルの高い教育が受けられる」ことに魅力を感じているようです。逆に、あまり知らない方々は、どのような教育レベルの授業が行われるのか、またはその教育の特色が見えないまたはあまり情報が入ってきていないことを示しているのだと思われます。
一方、公立中高一貫教育校について「あまり知らない」「全然知らない」と回答をいただいた方々を対象に、「進学させたい理由」を分析したところ、「母体になっている学校が有名だから」と、母体となる高校の名前で選んでいることもわかってきました。
また、「公立中高一貫教育校に入学させたくない理由」についても調べてみたところ、どの属性においても、「高校受験はあったほうがいいと思うから」という数値が高く出ました。さらに小学校卒業段階での入学選抜があることも入学させたくない理由としてあがっています。ここでは、保護者自身が高校段階での入学選抜を経験し肯定的に捉えていること、また15歳での選抜のないことで生まれる「中だるみ」を心配していることが背景にあるのではないでしょうか。事実、6ヵ年の教育期間では、中学2年からの高校2年まで続く学習時間量の停滞、そして自分の進路を描くことが遅くなってしまう傾向、授業や先生への信頼感の薄まりなどをベネッセの調査でも見ることができます。(首都圏私立学校調査)
さて、「入学させたい理由」「入学させたくない理由」ともに、6年後の大学進学については、よく知っている方もあまり知らない方も、あまり高いスコアを示していません。つまり、公立中高一貫教育校を選択する段階で、「大学進学実績」はさほど大きな要因にされていないということが見えます。
公立中高一貫教育校は、中学に進学する段階での選択肢の一つです。そこには、「生徒一人一人の個性をより重視した教育の実現を目指す」ことが掲げられており、各校は学校の教育方針に基づき、それぞれ特色を出してきました。その「校風や教育方針」は、進学希望理由としてあまり考慮されていないということになります。
- 一貫教育についてあくまで選択肢の一つであってほしい。全てが一貫教育校になるというのはあまり賛成ではない。新しい場所、新しい人(教師であり、友達であり)の中に飛び込む機会を子どもに与えるのも教育の一環ではないでしょうか?教育に期待する事「生きた教育」を目指してほしいです。素因数分解ができても、歴史年号を覚えていても、自分の収入と支出のバランスが保てなかったり、自分の住んでいる国の歴史や文化に無知な人間が増えてきているように思えてなりません。日本人ほど愛国心の無い国民性は無いように思えます。もっと「学ぶ」事への意義、その行為への意欲、そして結果の出る教育を6年間の一貫教育で実践していただきたい。
このフリーアンサーにもあるように、公立中高一貫教育は、教育の選択肢の一つです。
したがって、一貫校という教育システムが自分の子どもの性格にあっているか、また自分の子どもの個性を存分に伸ばせる学校なのか、など、情報を収集し判断する必要があります。
各学校には、学校ごとの特色があり、求める生徒像が明確に示されています。学校は目指す生徒像に向かってどういう教育をしていくのか、そして生徒たちは目指す将来に向かって6年間でどのように学び、成長していくのか・・・・この点が合致してこそ、公立中高一貫教育校の6年間の強みを存分に生かせるのではないでしょうか。
小学校6年生の12歳の時点で、将来を決めている子どもは多くはありません。ほとんどの子どもたちが、まだ未知の力をもっており、進むべき将来の幅を無限にもっています。このように、あらゆる将来の可能性を秘めている子どもたちだからこそ、進路を考えるとき「親子で一緒に考え成長する」必要があると思います。
塾や予備校などから提供される学校情報だけでなく、6ヵ年教育そのものが抱えるメリットと課題を視野にしっかり入れ、子どもの性格・学力・興味関心を踏まえ、周囲に惑わされない進路選択をしたいものです。
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