中学受験の勉強のために夏休みの宿題代行を頼むのは?[教えて!親野先生]

教育評論家の親野智可等先生が、保護者からの質問にお答えします。

【質問】

中学受験を控えた夏休みは、志望校の過去問を解くとか、苦手な図形問題の底上げなどに時間を取りたいです。でも、学校の宿題もかなり多く出ます。自由研究や読書感想文も負担です。正直、それをやる時間があったら受験勉強に集中させたいです。宿題代行業者に頼むのはいけないでしょうか?

換気扇さん(小学6年 男子)

【親野先生のアドバイス】

拝読しました。
学校の宿題をやる時間があったら、受験のための勉強に時間を割きたいということですね。
その気持ちもわからないではありませんが、でも、やはり、子育て・教育においては、やって良いことと悪いことがあります。

夏休みの宿題を代行業者にやらせて、それをあたかも自分がやったかのように見せかけて提出するというのは、明らかに不正行為です。

親は、「合格という目的のためなら手段を選ばない」「大事な目的のためなら多少の不正も許される」というように思って、無意識のうちに不正行為を正当化していると思います。
そして、子どもにも「受験に合格するため。」「あなたの将来のため」と言い聞かせるでしょう。

でも、子どもの方はそう簡単に割り切れません。
これはずるいことであり、やってはいけないことだと子どもは感じます。
友だちにも言えないことですし、まして先生には絶対言えないことです。

どんな理屈をつけても、やはりやましさを感じますし、それは子どもの心が傷つくということなのです。
親としては、人格形成の途中である子どもが、こういった心の傷を引きずることのマイナスの影響を考えるべきです。

例えば、一度不正に手を染めてしまうと、二度目もわりと一線を超えやすくなるということがあります。
一度万引きをしてうまくいくと、何度も繰り返してしまうのと同じです。

宿題代行という不正をおこなった子は、カンニングという不正をおこなう可能性も高まるかもしれません。

子どもの道徳観・倫理観にちょっとしたヒビが入ると、やがては崩壊に至る可能性もあるのです。
「千丈の堤も蟻の一穴から崩れる」ということわざもあります。
「これくらいは…」という油断が蟻の一穴となり、千丈の堤も崩壊するのです。

もう一つ心配なのは、親に対する不信感も抑えがたくなるということです。
親はいつも子どもに「人に優しくしなさい」「友達を大切にしよう」「嘘はいけません。正直に生きなさい」「ルールを守りなさい。ズルはいけません」など、立派なことを言っています。

でも、今回、親は全く別のことを子どもに言っています。
「嘘はいけない。正直に生きなさい」「ルールを守りなさい。ズルはいけません」と言っていたその人が、「宿題を人にやらせて、自分がやったことにしなさい」と言っているのです。

子どもは親のことをどう思うでしょうか?
こういう親を、子どもはリスペクトできるのでしょうか?
こういったことも実に深刻な問題です。

また今後、親は子どもに何を語れるのでしょうか?
人のあるべき姿とか、生き方などについて、何をどう語ればいいのでしょう?

例えば、受験について考えても、子どもに「カンニングはいけない」とは言えなくなります。
受験で合格するという目的のためなら、カンニングもアリです。
宿題代行を使う不正がアリなら、これもアリでしょう。
子どもに、「合格という目的のために、夏休みの宿題はズルしていいのに、なぜカンニングはダメなの?」と聞かれたとしたら、答えようがないではありませんか。

このように、宿題代行をつかうことには大きな弊害があります。
ですから、もしどうしても受験勉強のために夏休みの宿題をやる時間が取れないなら、先生と交渉して宿題を減らして(もしくはナシにして)もらった方がいいでしょう。
その方がよほど正々堂々としています。

「うちの子は○○学園を目指しています。その受験勉強に十分な時間をかけたいので、夏休みの宿題を減らしてください(もしくはナシにしてください)」と誠心誠意頼みましょう。

このやり方にはズルがありません。
それどころか、これは正当な権利の主張です。
なぜなら、子どもの夏休みの生活は基本的に親の責任だからです。
責任があるところに決定権もあるのは当たり前です。

そもそも、夏休みの生活どころか子どもの教育や将来について、究極的に責任があるのは親です。
学校の先生が責任を取れるはずがありません。
ですから、親には「うちの子の将来のことを真剣に考えて、どうしても○○中学で学ばせたい。そのために夏休みは受験勉強に全力を注ぎたい。だから宿題を出さないでください」と言う権利があるのです。

そして、さらに言えば、日頃の宿題についても同じことが言えます。
学校の宿題は子どもたちの学力差を考慮せず一律に出されます。
ところが、子どもたちの学力差が非常に大きいので、加重負担になって毎日苦しんでいる子がたくさんいるのです。

そういう子は毎日重苦しく暗い気持ちで生活しています。
このような状態が続くのは、子どもの人格形成によくありませんから、親が先生に事情を話して宿題を減らしてもらう必要があるのです。

ただし、こういった交渉はけんか腰のクレーマー的なやり方でなく、大人の交渉術で上手にやって欲しいと思います。

まず「いつもお世話になっております」のひと言は当たり前です。
次に、先生のことをほめます。
「先生に受けもらってもらってから、うちの子生き生きしてきました」「先生のことが大好きで、家でいつも先生の話をしているんですよ」など。

その後で、正直に困っている事情を話して、宿題を減らしてもらうのです。
とにかく大事なのは、クレームでなく相談という形にすることです。

最後にまとめます。
弊害の多い不正行為はやめて、正々堂々と交渉しましょう。
子育てでは「目的のためなら手段を選ばない」は通用しません。

私ができる範囲で、精一杯提案させていただきました。
少しでもご参考になれば幸いです。
みなさんに幸多かれとお祈り申し上げます。

プロフィール

親野智可等

親野智可等

教育評論家。23年間の教員生活のなかで、親が子どもに与える影響力の大きさを痛感。その経験をメールマガジンなど、メディアで発表。全国の小学校や、幼稚園・保育園などからの講演に引っ張りだこの日々。

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