「小1プロブレム」を乗り越える 幼保小連携と解決への取り組み

入学間もない小学1年生の教室で起こる、先生の話を聞かない、授業中立ち歩くといった問題、「小1プロブレム」。この問題に詳しい、白梅学園大学学長の汐見稔幸先生に、解決に向けた「幼保小連携」の動きと、家庭で注意すべき点について伺いました。

■幼稚園・保育所での学びを小学校につなげる

これまで、小1プロブレムに関する議論は、小学校が「幼稚園・保育所での指導が不十分」と批判する形になりがちでした。しかし、小学校と幼稚園・保育所が互いを批判しあっても、問題の本質は見えてきません。

文部科学省は2011(平成23)年より、小1の子どもたちが小学校に早くなじめるよう、「スタートカリキュラム」の導入を全小学校に求めています。これは、発達段階にあわせて授業時間を短縮、クラスを少人数編成にするといった工夫や、遊びや生活を通した総合的な学びを取り入れることを指します。つまり、幼児教育の成果を、小学校での学びにつなげていくということです。取り組みの程度に差はありますが、幼稚園・保育所と小学校が協力してカリキュラムづくりをするところが増えています。

■解決のポイントは「主体性を生かす」こと

子どもたちは幼児期にさまざまなことを学んでおり、友達の気持ちも考えながら、したいことを自分で決める力も持っています。たとえば、幼稚園では自分の座りたいところに自由に座りますが、小学校に入ると、たいてい先生が座席を決めてしまいます。ある小学校の先生は、1年生たちに座席の決め方を任せたところ、「好きな教科の授業は前のほうに座る!」と決めたそうです。算数の授業では、算数が好きな子が前に、苦手な子が後ろに行く。先生が、たまにフェイントで教室の前後を逆にして授業をすると、子どもたちは「えーっ」と文句を言いつつ、楽しげに授業を受けるそうです。子どもたちの主体性を生かすことで、むしろ授業に前向きな秩序が生まれたといいます。

また、皆で公園に出かけて自然観察をする、興味のあることを調べて発表するといった学びのスタイルに変えることで、小1プロブレムが起こりにくくなることも明らかになってきました。これらは、新学習指導要領(2020<平成32>年度より実施予定)の目玉となる「アクティブ・ラーニング」そのものです。

■「好奇心の芽」が、学ぶ姿勢を育てる

もちろん、机での勉強も必要です。ただし、いきなり「漢字を覚えなさい」「計算しなさい」と言われて、勉強に意義を見いだせる子は今は少ないでしょう。学びの場もスタイルも昔よりずっと多様化しているので、昔からの方法を示してもすぐ適応しなくなっているからです。

ご家庭では、ぜひ子どもが「面白い!」「なぜだろう」と感じるような機会を増やしてあげてください。「食べ物を冷蔵庫に入れていてもカビが生えるのはなぜ?」「木や草の芽は、冬の間どこにあるのかな」など、身の回りの出来事に、子どもはさまざまな興味を持ちます。好奇心の芽が育っていれば、学校での学びがより深くなります。

たとえば、ある保育園で年長の子どもたちが世話をしている大根畑でのやりとり。先生が「水は、なんであげなきゃいけないの?」と尋ねると、「大根さんだってのどが渇くから!」という答えが。「じゃあ、大根さんはどうやって水を飲んでいるの?」と聞くと、子どもたちは議論を始め、出た結論は「土の中に小さなくちびるをいっぱい持っていて、そこからちゅっちゅと吸っているの!」だったそう。こんな会話を通じて、子どもの中にはさまざまな「?」が生まれたことでしょう。大根のくちびる、本当にあるのかな、見てみたいな……そんな気持ちを抱いていれば、小学校の理科で、植物を学ぶのが楽しみになるのではないでしょうか。

■「教え」の過剰は「学び」の過少

保護者のかたに注意していただきたいのは、答えを「教えすぎない」ことです。大切なのは、考えるヒントや、疑問が膨らむようなやりとり。知識を先取りして教えるのは、子どもから発見の喜びを奪うことになります。

「勉強って面白い!」と子どもたちが感じていれば、先生を困らせる必要もなくなります。今も小1プロブレムは頻発していますが、主体的な学びのスタイルが問題解決の糸口になるのは間違いないでしょう。

プロフィール

汐見稔幸

汐見稔幸

白梅学園大学学長・東京大学名誉教授。文部科学省「中央教育審議会」教育課程部会委員も務める。著書に『本当は怖い小学一年生』(ポプラ新書)がある。

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