初登園 第6回 [Oh,my Gooodness!]

親子で英語圏に住み、現地の学校に行きながら英語を学ぶ……。3歳の娘と母親である筆者は、夫のアメリカ転勤のために、そんな理想的な環境に飛び込むことになりました。果たして本当に「子どもは英語にすぐ慣れるから大丈夫」? アメリカに住みながら英語を学ぶメリットとデメリットとは? 筆者のアメリカ生活をとおして、日本に住むご家庭では、どんな取り組みができるのか考えていきます。
※「Oh,my Gooodness!」とは、「あらまあ!」という驚きを表すことば。

デイケア(保育園)への初登園は、アメリカに来てから最大の難関だった。ちょうど渡米して1カ月、親子ともに「英語を話す人」が怖かった時期である。

教室の中に先生がいて子どもがいて、給食を食べたりお絵かきをしたり庭で遊んだり、やっていることは日本と変わらない。違うのは、聞くのも見るのも、すべてが英語だということ。先生の指示、けんか、泣き声、すべてが英語。壁のカラフルな掲示物や絵本もすべてアルファベットで、教室にいると英語の渦のなかに放り込まれたかのようだ。

初登園の日、娘は体を固くして、私にしがみついていた。教室にはブロックや粘土、おままごとセットなどおもちゃが豊富にあったので、まず娘と30分ぐらい一緒に遊んだ。それから教室の片隅にあるトイレに一緒に行く。「ここがトイレだからね」と念を押すと、娘は神妙な顔で「うん」とうなずいた。

いつまでも一緒にいるわけにもいかない。私が帰ろうとすると、娘はすかさず「やだ、帰らないで」と追いすがってくる。保育士のミス・ジェニーが娘を引きはがすように抱っこしてくれて、私に「It"s OK, Mammy will be back soon. は日本語で何ていうの?」と質問してきた。「ダイジョウブ、オカアサンスグクルヨ」と伝え、私と先生のふたりで「ダイジョブ」「すぐ来るからね」と何度も繰り返す。「お母さん行かないで」と叫ぶ娘を尻目に、教室を出た。本当に娘はここでやっていけるのだろうか。

初日から1週間ぐらいは、そんな状態が続き、まさに前途多難だった。でも、ミス・ジェニーは毎日「Line up は日本語で何ていうの?」などと私に質問して、クラスで使う言葉を日本語で一生懸命覚え、日本語で娘に話しかけてくれた。

デイケアに行き始めてから数カ月の間は、私が英語で話しかけると、娘は「やめて! 英語はいやだ!」と怒りを爆発させていたので、ほとんど日本語だけで会話していた。「子どもは英語にすぐ慣れるから」とよくいわれるが、ゼロ歳の赤ちゃんでもない限り、いきなり言葉が通じない環境に放り込まれたストレスは大きい。大人は、「英語だからわからなくてもしょうがない」とか「わからない単語は辞書で引けばいい」と理性的に対処できるが、幼児にとっては、ひたすら「わからない」「こわい」気持ちでいっぱいなのだ。ある日本人ママさんが「最初はみんな大変よ。うちの子なんて、こっちの幼稚園に行き始めて1年ぐらいは毎朝泣いていたんだから」と教えてくれた。

毎朝泣いている娘を見て、アメリカ人の保育士さんたちは「しばらくは誰でも泣くの。大丈夫」と声をかけて、娘を私から抱きとってくれた。朝、泣かずに別れられるようになったのは、2週間ほど過ぎてからだ。今になってみると、逃げ場のないアメリカに来てしまう前、つまり日本にいるときに少しずつアメリカ人と会う経験をさせておけば、初登園のときにパニックにならずに済んだかもしれないと思う。もちろん今では、私も娘も「英語を話す人」だって同じ人間だとわかっているから、もう平気なのだけれど。

プロフィール

山本美芽

音楽・ノンフィクションライター。中学校教諭、養護学校教諭からライターに転身。現在は音楽と教育をテーマに執筆活動を行う。著書に「りんごは赤じゃない 正しいプライドの育て方」「子どものセンスは夕焼けが作る」など。2006年3月より米カリフォルニア州在住。1児の母。

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