ヒアリングの壁 第2回 [Oh,my Gooodness!]

親子で英語圏に住み、現地の学校に行きながら英語を学ぶ……。3歳の娘と母親である筆者は、夫のアメリカ転勤のために、そんな理想的な環境に飛び込むことになりました。果たして本当に「子どもは英語にすぐ慣れるから大丈夫」? アメリカに住みながら英語を学ぶメリットとデメリットとは? 筆者のアメリカ生活をとおして、日本に住むご家庭では、どんな取り組みができるのか考えていきます。
※「Oh,my Gooodness!」とは、「あらまあ!」という驚きを表すことば。

サンフランシスコの空港に着いた私を待っていたのは、異様に速いネイティブスピーカーの英語だった。アナウンスに入国審査、周りの人の会話、なにもかも聞き取れない。初めてテレビをつけたときも、あまりのスピードに「これは英語? スペイン語じゃないよね」と目が点になったほどだ。日本で耳にしていた英会話番組とは、スピードが全く違う。ときどき「thank you」とか「of course」、「absolutely」といったワンフレーズが耳に入ってくる程度で、あとは全くチンプンカンプンだ。

私の英語力は、学生時代に英検2級をとって、その後は10年以上何もしていない状態だった。「読む」ほうはまだしも、会話を徹底的に勉強したことはない。英語圏に住むのはこれが初めてだ。「苦労するだろうな」と予想はしていたが、ここまでわからないとは……。正直ショックだった。

ヒアリングというのは、いったいどれぐらい勉強すれば改善されるのだろうか。こちらに来てから毎日のように英語のテレビを見るようにしたものの、1週間、1カ月たっても一向に聞き取れるようにならない。ずっとこのまま、ヒアリングができなかったらどうしようと、目の前が真っ暗になった。

そこでこちらに住む日本人に、あれこれ質問してみた。その話を総合してみると、ざっとこんなところだ。まず、個人差はあるものの、はじめて英語圏に来ると、たいていヒアリングで困るらしい。日本人向けに特別ゆっくり話してくれる場合は別として、ネイティブが普通に話す英語は、3カ月ぐらいで断片的に聞き取れるようになり、半年から1年ぐらいで大まかな意味がわかるようになるのだとか。でも1年程度では、文章のすべてを完璧に聞き取るまでに至らないケースが大半だそうだ。

広い庭に、暖炉までついた素敵な家に住みはじめたというのに、英語が聞き取れないために、私は毎日孤独感にさいなまれていた。近所にはたくさん子どもが住んでいるが、娘は英語が話せないから誰とも遊べない。テレビをつけても英語なのでわからない。結局、娘は日本から持ってきたアンパンマンのDVDを毎日、毎日、ずっと見ていた。ときどき日本人のお友達が遊びに来てくれるのだけが楽しみだった。

親子で「寂しいね」「つまんないね」「日本に帰りたいね」「日本のお友達に会いたいね」と、毎日のように抱き合って泣いた。はじめの3カ月ほどは、荒野のなかで、ぽつんと孤立して暮らしているかのような気分だった。

ヒアリングの壁は、大人にも子どもにも非常に厳しいものだ。日本で英語を学んでいると、逃げ場があるぶん、さぼってしまうのがデメリットになる。しかし、やりたくないのに毎日泣きながら英語に取り組まざるをえないことは、あまりないのではないか。日本にいれば、精神的に追い詰められることなく英語を学ぶことができる。これは大きなメリットだと私は思うのだ。

プロフィール

山本美芽

音楽・ノンフィクションライター。中学校教諭、養護学校教諭からライターに転身。現在は音楽と教育をテーマに執筆活動を行う。著書に「りんごは赤じゃない 正しいプライドの育て方」「子どものセンスは夕焼けが作る」など。2006年3月より米カリフォルニア州在住。1児の母。

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