研究レポート
Research Report

創造性を育む教育実践を通じた教師の創造性への信念(2):創造性や創造性教育に関する自信の変化

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公開2025/3/28

前回の記事から、教師が創造性に関わる教育に取り組むとき、どのように創造性に関して情報を得たり、創造性教育に関する効力感を高めることができるかを検討してきた。本記事では、創造性に関連する教育実践を行う教師が、創造性についての信念をどのように変化させるかを検討する。本記事では特に創造性に関する自己信念に焦点を当てる。

1.はじめに

前回の記事から、教師が創造性に関わる教育に取り組むとき、どのように創造性に関して情報を得たり、創造性教育に関する効力感を高めることができるかを検討してきた。本記事では、創造性に関連する教育実践を行う教師が、創造性についての信念をどのように変化させるかを検討する。本記事では特に創造性に関する自己信念に焦点を当てる。

教師の創造性に対する自己信念:創造的自己効力感

創造性に関する自己信念は、創造的自己信念(Karwowski & Kaufman, 2017)として研究されてきた。創造的自己信念はいくつかのカテゴリに分類されて議論されるが(石黒他, 2022)、本稿ではまず自分自身の創造性に関する自信(創造的自己効力感)に焦点を当てる。自らの創造性について自信がある人ない人さまざまだが、創造性教育においては生徒や教師の創造的自己効力感が高いことが望ましい。生徒が創造性教育を受けることで自らの創造性に自信を持つことができることが重要であることは言うまでもないが、創造性教育を実施する教師自身も創造性について自信を持っていたり、教育を創造的に実践できると思えたりすることも重要である。Beghetto (2019)によると創造性教育では、単に子どもや学生に創造性についての知識を教えたり、創造性を発揮させるだけでなく、教師自身が様々な学術的題材を創造的に教えることも重要だという。創造的に教育を実践するためには、教師自身が創造性について効力感を持っていること、あるいは、教育実践の中で創造性を発揮できると思えることが望ましい。こうした教師の効力感は、創造性に関する教育実践をする中で高まったり、実際に子どもの創造性を支援する中で構築されるのかもしれない。

教師の創造性に対する自己信念:創造的マインドセット

創造的自己信念には個人が持つ創造性の性質についての信念も含まれる(Karwowski & Kaufman, 2017; 石黒他, 2022)。特に、創造的マインドセットは創造性の教育可能性についての信念であり、創造性を環境や努力によって育むことができると考える成長マインドセットと、遺伝や才能で決まっていて伸ばすことはできないと考える固定マインドセットに分かれる(Karwowski, 2014)。成長・固定マインドセットはどちらか一方の意見を選ぶこともできるが、それぞれのマインドセットを両方持つこともできる(Karwowski, 2019)。創造的マインドセットは本人の創造的潜在能力や創造的自己効力感、創造的業績とも関連しており、特に成長マインドセットを支持し、固定マインドセットを支持しない傾向がある人は創造的能力や効力感、業績が高いと報告されている(Karwowski et al, 2019)。教師に関する研究においても、固定マインドセットを支持する教師は生徒の成果物等には明確に現れない創造的潜在能力を見逃しやすく、それが、教師自身の創造性教育への自信低下につながるおそれが指摘されている(Paek & Summars, 2017)。日本の教師を対象にした調査はまだ限られているが、日本の教師の固定マインドセットは一般成人よりもやや高いことを示す報告がある(Sawada under review)。ただし、創造的マインドセットは簡単な介入で変わる可能性も示されている(Karwowski et al., 2020)。そのため、教師が創造性に関する教育実践を行う中で、成長・固定マインドセットが変化する可能性がある。

本研究の目的

本研究では、創造性に関連する教育実践を行う教師に焦点を当て、彼ら彼女らの創造的自己信念が実践の前後でどのように変化するかを検討する。記事1と同じコンペティションをフィールドとし、参加教師を対象に教育実践前後に質問紙調査やインタビューをおこなって以下の点を明らかにする:

  1. 創造的な教育実践に取り組む参加教員の創造的自己効力感や教育実践に対する創造的自己効力感は実践前後でどのように変化するか。
  2. 創造的な教育実践に取り組む参加教員の子どもの創造性支援への態度や行動は実践前後でどのように変化するか。
  3. 創造的な教育実践に取り組む参加教員の創造的マインドセットは実践前後でどのように変化するか。

2.方法

研究参加者

記事1と同じ教育実践コンペティションの参加教師10名であった。ただし、事後調査は3名が辞退、事後インタビューは2名が参加を辞退した。

質問紙調査

参加者は、教育実践の事前と事後に創造的自己尺度(Ishiguro et al., 2024)、教育実践に関する創造的自己効力感(Ishiguro et al., 2024を参考に作成)、創造的マインドセット(Ishiguro et al., 2024a)、創造活動の支援(Sawada et al., under review)に「1:全くそう思わない」〜「7:強くそう思う」の7件法で回答した。

インタビュー

参加者は教育実践前後にオンライン会議システムでインタビューに参加した。面接は半構造化面接で行われ、記事1で示した質問の他、「(大人や子どもの)創造性を育むことは可能だと思いますか」といった創造性の可鍛性についての質問を尋ねた。教育実践後には「今回の教育実践を通して、児童・生徒の創造性がどのように育まれたと思いますか」「今回の教育実践を実施するにあたって、何か悩んだり、苦労したことはありますか」といった質問をした。

3.結果と考察

教師の創造的自己信念・創造的マインドセット・子どもの創造性支援の態度・行動の変化

表1に示すように、参加教員の創造的自己や教育への創造的自己効力感、創造性に関する成長マインドセット、創造性支援の態度や行動の得点のいずれも一般的な教員より高い傾向にあり(Sawada et al., under review)、実践前後で高い水準のまま変化は見られなかった。しかし、教育実践前後で成長マインドセットのみが低下した(t (6) = 2.51, d = 1.12 , p = 0.04)。

表1 教育実践前後の教師の創造的自己信念や支援の態度・行動

注:n =7 (教育実践後の回答者が3名減ったため)

創造性の可鍛性についての考えの変化:創造性は伸ばせるか?

インタビューで参加教員に「子どもの創造性を育むことは可能だと思いますか」という質問も行ったところ、事前インタビューでは10名中8名が「はい」と回答した。残りの2名が「生まれたときは持っていて、多分多くの子供たちが成長の過程で蓋をされてるだけなんだって思います。だから、蓋を開けるっていう表現。ただ大人になればなるほどその蓋はギュッてしまってるので、開けることが難しくなってるものだと思う(教員7)」など、どちらとも言えない、あるいは、大人になると難しいと考えていることを発言した。事後インタビューでは参加者全員が「はい」と回答したものの、事前に「はい」以外の回答をしたうち、一人は面接を辞退していた。もう一人は事後インタビューでは明確に「はい」と回答し、「発達に困難を抱えてる人で、どうしても創意工夫っていうところが、能力的にできない人もいるとしたらそれは難しいと思うんですよ。だけれども、やっぱりそれは幼児期からちゃんと教育を受けていけば、誰しもに何でしょう発揮できるもの(教員7)」と述べた。

4.考察

本研究を通じて、コンペ参加教員の創造的自己信念(創造的自己効力感、教育実践への創造的自己効力感、創造的マインドセット)や子どもの創造性支援の態度や行動が教育実践前後でどのように変化したかを検討した。創造的自己効力感や教育実践への創造的自己効力感、あるいは、子どもの創造性支援の態度・行動は高い水準のまま教育実践後まで保持された。これはそもそも創造性や新しい教育実践に意欲的な教師が、今回のコンペにエントリーしていたことが伺える。一方で、コンペに応募して新しい教育実践に取り組む中で、参加教員は通常業務に加えて多くの作業や他のステークホルダーとの折衝が求められる。その中で、創造性や教育実践への効力感や子どもの創造性支援の態度・行動が低下しなかったことはポジティブな結果であると言えるし、その背後に参加教員の新しい実践を認め、支援する職場環境があったことが伺える。実際、多くの参加教員は創造性や今回の教育実践に関しても自ら情報収集したり、予想外の出来事が起きても授業内容を柔軟に調整したり、他の教員やステークホルダーと相談したりしながら解決していた。「苦労したことを悩んだこともなくて、実は、むしろ面白いなって思って進めていたので、心配したのは、何かやっぱ生徒が、うまく反応してくれなかったらやだなって思ってたんですけど、思いのほかちゃんとやってくれた(教員7)」といった発言にも現れるように、参加教員は新しい教育実践自体を楽しんでいたことがわかる。事後インタビューでは、すでに次の実践計画について語り始めたり、その準備をしていることを話す参加者もおり、創造性に関わる教育実践を今後も進めていく強い動機づけを持つことが伺われた。

創造性教育を実践する上での困難

参加教師の創造的自己信念や子どもの創造性支援への態度や行動が一貫して高かった一方で、創造的マインドセットのうち、成長マインドセットの数値が低下した。こうした結果が得られた背景の一つには児童・生徒の創造性を育めたかどうかの判断が難しかったことが考えられる。実際、「授業を通して生徒さんの創造性を育むことができましたか」という質問に対しては「自信を持って培おうとしたことは間違いないと思っていますし、培うことができたっていうのは、子供の分析結果からも、すごく思いは見とれているところはあるので。ただそれが育まれてるかどうかと言われると、すごく不安で不明な部分はあります (教員4)」、「創造性っていうことにうまく繋がったかっていうと、ちょっと計画倒れだったかなと思って(教員10)」といった発言があり、創造性の客観的な変化を導き、それを読み取ることの難しさを感じていたことがわかる。このように客観的に創造性を育めたことを示すことが難しいことが、教師の創造性の可鍛性への認識に悪影響を及ぼしたのかもしれない。

あるいは、成長マインドセットの変化は参加教員の見取りとも関連しているかもしれない。記事1では創造性を成果物からのみ評価しようとして、学習者の創造の過程に目を向けにくいProduct biasについて述べた。実際、参加教員の中で児童生徒の見取りにポジティブな変化があったことを述べた人もいた。生徒の創造的成果物だけでなく、その過程や潜在能力に目が向いたことで創造性評価の観点が拡張した可能性がある。こうした評価観点の拡張があったと考えると、教員の創造的マインドセットが揺らいだことは創造性を捉える視点の拡張を反映していると考えることができるかもしれない。今後、創造性教育における創造性評価について議論を深めるとともに、創造性教育に取り組む教員の熟達過程についても研究する必要がある。

本研究の限界

最後に、本研究は教育実践に関するコンペというフィールドで、10名程度の参加者が新しい教育実践の設計・実践に取り組む過程を調査や面接によって検討した。教師が創造性に関わる教育実践に取り組む過程に焦点を当てた研究は国内での事例がほとんどないことから、本知見は今後の日本で創造性教育に取り組む教師をどのように支援するかという点で示唆的である。

ただし、本研究の知見を他の集団や状況に一般化できるものではないことに注意されたい。

例えば、本研究では教師の創造性についての暗黙理論や創造的自己信念に焦点を当てたが、教師自身の信念のみを変えれば創造性教育が可能になるわけではないだろう。本研究の参加者はコンペエントリー時に所属学校の許可を得て参加していた。また、面接ではほとんどの参加者が学校や周囲の同僚から実践についてサポートや応援を得ており、連携関係も良好であった。しかし、所属先の環境や状況によっては新しい教育実践を始めるための承認や支援を得にくい場合もあるだろう。本研究の参加教員の中には、管理職の立場にある教員もおり、管理職の立場から他の教員の創造的な教育実践を促す施策に取り組む実践も見られた。今後は個々の教員だけではなく、学校全体を挙げて創造性教育を含む新たな教育を取り組む事例にも注視していくべきである。

引用文献

  • Beghetto, R. A. (2019). Creativity in the classroom. In J. C. Kaufman, & R. J. Sternberg (Eds.). Handbook of Creativity. Cambridge, UK: Cambridge University Press.
  • 石黒千晶, 清水大地, & 清河幸子. (2022). 誌上討論 「『創造的自己』 をめぐって」 編集にあたって. 認知科学, 29(2), 266-269.
  • Ishiguro, C., Matsumoto, K., Agata, T., & Okada, T. (2024). Development of the Japanese Version of the Short Scale of Creative Self 1, 2. Japanese Psychological Research, 66(3), 302-314.
  • Ishiguro, C., Matsumoto, K., Agata, T., Noguchi, H., & Okada, T. (2024a). Development of a Japanese Version of the Creative Mindset Scale (CMS) Using Item Response Theory. Japanese Psychological Research.
  • Karwowski, M. (2014). Creative mindsets: Measurement, correlates, consequences. Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts, 8(1), 62.
  • Karwowski, M., & Kaufman, J. C. (Eds.). (2017). The creative self: Effect of beliefs, self-efficacy, mindset, and identity. Academic Press.
  • Karwowski, M., Czerwonka, M., Lebuda, I., Jankowska, D. M., & Gajda, A. (2020). Does thinking about Einstein make people entity theorists? Examining the malleability of creative mindsets. Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts, 14(3), 361.
  • Karwowski, M., Royston, R. P., & Reiter-Palmon, R. (2019). Exploring creative mindsets: Variable and person-centered approaches. Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts, 13(1), 36.
  • Paek, S. H., & Sumners, S. E. (2019). The indirect effect of teachers’ creative mindsets on teaching creativity. The Journal of Creative Behavior, 53(3), 298–311. https://doi.org/10.1002/jocb.180.
  • Sawada et al. (under review)

石黒 千晶

プロフィール

2017年東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(教育学)。玉川大学脳科学研究所嘱託研究員、金沢工業大学情報フロンティア学部心理科学科助教・講師を経て、現在聖心女子大学現代教養学部心理学科専任講師。専門は認知科学・教育心理学。著書に『触発するアート・コミュニケーション』(共編著,あいり出版)など。