2017年東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(教育学)。玉川大学脳科学研究所嘱託研究員、金沢工業大学情報フロンティア学部心理科学科助教・講師を経て、現在聖心女子大学現代教養学部心理学科専任講師。専門は認知科学・教育心理学。著書に『触発するアート・コミュニケーション』(共編著,あいり出版)など。
創造性を育む教育実践を通じた教師の創造性への信念(1):創造性の暗黙理論の変化
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公開2025/3/28
教員は創造性に関する教育実践に取り組む中で探索的に創造性についての暗黙理論を変え、創造性教育における子どもの見取りや取り組みを柔軟に変えることができることが示唆された。ただし、本研究の参加教員は本研究に参加する前から創造性に関する偏見が比較的少なく、創造性や教育実践に自信を持つ教員であったことには注意されたい。教員が自ら探索的に創造性への信念を構築していくことに期待するだけでなく、その過程を支援したり、科学的知識や情報を得やすい環境を整えることが今後必要である。
1.はじめに
創造性は21世紀コンピテンシーの一つである。21世紀の初頭から創造性教育は注目されていたが(弓野, 2007)、この数年で学校教育の中で創造性教育を取り入れる動きが活発になっている。OECDでは2022年PISAにおいて創造的思考テストが導入され、複数の国の学校教育で、創造性教育のカリキュラムを開発し、その評価まで行いながら創造性教育を現場に浸透させるための取り組みが行われている(OECD教育改革センター, 2023)。
一方で、学校で創造性教育を行うには様々な障壁があることも指摘されるようになった(Beghetto, 2019)。これらの障壁には教室や学校のルール、学生の態度なども含まれるが、近年注目されているのが、教師が創造性について持つ信念である。創造性についての信念として注目されるのは、(1)創造性へのイメージやステレオタイプ、また、(2)創造性に関する自己信念である。教師が創造性について誤ったイメージやステレオタイプを持つことは児童生徒の創造性教育をする上で望ましくない。また、創造性教育では児童生徒に創造性に関する知識や価値を伝えたり、子どもたちの創造性の発揮を支援したりする以外に、教師自身が学術的内容を創造的な方法で教えることも重視されている。教育実践において創造性を発揮するためには、教師自身が自らの創造性を認め、それに自信を持つことが重要になる。
では、教師はどのように創造性に関して情報を得たり、創造性教育に関する効力感を高めることができるのだろうか。現時点で、国内で創造性や創造性教育を専門的に学ぶことができる教育機関や教員支援の取り組みは稀である。そのため、教師は創造性教育に関わる実践を実際に行いながら、その中で情報収集したり、実践を進めたりする中で自らの創造性に関する信念を探索しているのが現状だと考えられる。近年STEAMやPBL、探究学習といった創造性にも関わる教育実践が奨励されていることから、試行錯誤を重ねながらそれらに取り組んでいる教師も多い。こうした教育実践に取り組む過程で、教師の創造性についての暗黙理論は変わるのだろうか。また、その過程で創造性や創造性教育に対する教師の自己信念は変わるのだろうか。
本記事では、教師が創造性に関連する教育実践を行う中で創造性についての信念をどのように変化させるかを検討する。本記事では特に(1)の創造性へのイメージやステレオタイプに焦点を当てる。
教師が持つ創造性に関する暗黙理論
(1)創造性へのイメージやステレオタイプは、創造性についての言説や日常生活の創造活動経験やその観察等から形成される暗黙理論として研究されてきた(Ritter et al., 2017)。先行研究では教師は創造性を教育目的として重視するにもかかわらず、創造性について明確な考えを持たないことが指摘されており(Gralewski & Karwowski, 2018)、科学的知見とは異なる考えを持つ可能性も指摘されている(Beghetto, 2019)。国際比較調査では、教師は創造的な子どもというと、「独自性や主体性」「問題解決」などの能力に加えて、「言うことを聞かない(不規律)」「衝動的で自制心がない(衝動性)」などのネガティブなパーソナリティや態度のイメージを持つことが報告されている(Gralewski & Karwowski, 2018)。
では、日本の教師は創造性についてどのような暗黙理論を持つのだろうか。日本の教師を対象にした同様の調査で大人や子どもの創造性についてのイメージを尋ねたところ、日本の教師は創造性を主に「独自性や主体性」「問題解決」として捉えており、不規律や衝動性などのネガティブなイメージを持たないことがわかった(澤田, 2024)。また、日本の教師は創造性について誤ったステレオタイプを持つ割合が一般成人よりもやや低いことも示されている(Sawada et al., under review)。ただし、創造性に関する科学的知識の程度は一般成人と変わらないことも明らかになった。これらの結果は、日本の教師が子どもの創造性についてポジティブなイメージを持つ一方で、科学的な知識には限りがあることを示唆している。しかし、創造性に関わる教育実践に取り組むことで、子どもの創造性とは何か、それをどのように伸ばすかを考えることができる。その中で教師の創造性に関する暗黙理論が変容する可能性がある。そこで、本研究は創造的な教育実践を奨励するコンペティションをフィールドとし、参加教師を対象にインタビューを行うことで教育実践を通じた創造性に関する暗黙理論の変化を検討する。インタビューはコンペティションの開始前と終了後の2回行い、面接での内省報告を通じて創造性への信念や態度がどのように変容したかを検討する。
2.方法
研究参加者
NPOが主催する教育実践コンペティションの参加者である、小学校・高校に勤務する教師10名(学校段階:小学校7名、高校3名、性別:男性9名、女性1名, 平均年齢 = 41.43,平均教師歴=16.29年, 担当教科は国語:1名、算数・数学:2名、英語:1名、理科:2名、社会:3名、体育:1名、総合:1名、工学・情報:2名、全教科:1名、なし:1名(複数回答あり))であった。なお、事後インタビューでは2名が参加を辞退した。
教育実践のコンペティションのスケジュール
本研究でフィールドとしたコンペティション(以降、コンペ)は企業などと連携して新しい授業を提案するものであった。コンペは2023年の8月からエントリーが開始され、参加教員がコンペを主催するNPOによって決定された。事前インタビューは参加教員が授業を開始する前の9月から10月にかけて実施した。参加教員は9月末から12月ごろまで教育実践をそれぞれの所属する学校で行なった。その後2024年の1月から2月にかけて事後インタビューを実施した。参加教員にはインタビューの前に本研究の趣旨を説明し、調査の匿名性や研究参加の任意性を説明し、同意を得られた場合は同意書への記入を求めた。本研究は聖心女子大学倫理審査の承認を得て実施した(承認番号:2024_17)。
インタビュー
参加者は教育実践前後にオンライン会議システムでインタビューに参加した。面接は半構造化面接で行われ、「『創造性』とはどのようなことを指しますか」「児童・生徒の創造性とはどのようなことを指しますか」といった創造性概念に関する質問の他、教育実践後には「今回の教育実践を通して、児童・生徒の創造性がどのように育まれたと思いますか」「授業実践を通じて、児童や生徒を見る視点に何か気づきはありましたか」といった質問をした。
3.結果と考察
創造性に関する暗黙理論の変化
澤田(2024)によれば、日本人教師は創造性を「独自性・主体性」と「問題解決」の側面から捉えることが多いことが報告されている。本研究でも教育実践前後の両方のインタビューに参加した参加者7名のうち、「独自性・主体性」については教育実践前に6名、実践後に7名、「問題解決」については実践前4名、実践後に5名が言及した。

子どもの創造性についても「独自性・主体性」は実践前後で7名ずつ、「問題解決」については実践前4名、実践後に5名が言及した。なお、子どもの創造性については事前と事後にも既存のカテゴリに当てはまらない発言が複数の教員から得られた。例えば、教員5は事前には「前向きに取り組んでいける子」と述べ、事後には「自信を持つこと」を挙げた。また、教員7は事前には「軸を持っている(中略)それが好きな自分にすごく自信がある」と述べ、事後には「創造性以外の能力も(創造性を発揮するために)必要」と述べた。教員10は事前には「お友達の話聴きながら、こうしたらいいよねみたいなことが何か発言できるような子」と述べ、「創造に対する責任とかそういうことがない」ことを挙げていた。その他であげる創造性の特徴については、一貫した発言をする教員もいる一方で、各教員でそれぞれの特徴の捉え方や解釈が変わる様子も見られた。

子どもの創造性に関する見取りの変化
教育実践を通じた子どもの見取りについても興味深い発言が見られた。創造性に関する教師の偏見として、創造性には具体的な成果物が必要であると考えて創造の過程や潜在能力を見ない傾向としてProduct biasの存在が指摘されている(Beghetto, 2019)。本研究では複数の教員から成果物ではなく創造の過程や潜在能力を見取ろうとする発言が見られた。
「今回の研究を進めれば進めるほど、…子供たちに優しくなるというか、いろんなことが受容とか許容できるようになりました…何でそれやってんのってとりあえず聞くようになって…確かにねって言えることの回数がめちゃくちゃ増えましたね(教員4)」
「やっぱりアイディアみたいなこととか、ああしようこうしようとかってやってるとかが思い浮かんだかもしれないんだけど、なんか、別にそれが目に見えないからその子に創造性がないわけじゃないんじゃないかなって、どうしても私達ってこう発言したりとか作り出された成果物でとかでしかそういうことって測れないんだけど、なんか、ものにならなくっても結構頭の中でいろんなことをぐるぐる考えてたりするんだな(中略)かなり自分の中で今まで思ってたなんかその子供のイメージと、今回皆さんといろいろ考えさせてもらって、変わってきた(教員10)」
これらの発言のように、教育実践後に児童・生徒の見取りに変化があったことが示唆された。こうした発言は、創造性に関わる教育実践に関わり、児童・生徒の創造性を捉えようとした結果、成果物よりも児童・生徒の創造的な思考や行動の過程に注意が向くようになったことを示唆している。他にも創造性の見取りについて「それが創造性なのかってまあ、後で映像をかなり見直したりしないと。で、それがどういう思考でやられたのとか聞かないと、なかなか深掘りしないと創造的なプレーって探せないんで、なかなか大変でした(教員3)」といった発言も見られ、参加教員が児童生徒の創造性を見とるために行動の背後にある思考を読み取る努力をしていたことがわかった。こうした結果は創造性教育に取り組む中で、教師が児童生徒の創造の成果物だけでなく、その過程や潜在能力をより注意深く見取ることができるようになる可能性を示唆している。
4.考察
本研究は教員が創造性に関わる教育実践に取り組む中で、創造性についての暗黙理論が変容するかどうかを検討することを目的としていた。コンペに参加した教員へのインタビュー調査の結果、教員の創造性についての定義は、大人の創造性としても子どもの創造性としても「独自性・主体性」「問題解決」に焦点が当てられることが多かった。しかし、子どもに関しては、これら以外の特徴を創造性の表れとして捉えようとする参加者もいたことがわかった。
教師の子どもの創造性に関する偏見としてProduct biasが指摘されてきた(Beghetto, 2019)。しかし、本研究ではむしろ教育実践に取り組む中でそうした偏見にとらわれずに児童生徒の創造の過程や潜在能力に着目するようになる事例が複数見られた。教員が創造性に関わる教育実践を通じて、児童生徒の創造性の見取りが変化したことを語ってくれたことは興味深い。これらの発言をした教員は児童・生徒に自らアンケートやインタビューに回答してもらおうとしたり、普段の教育活動の中でも子どもが何を考えているのかを丁寧に聞きとっていた。そうした取り組みの中で見えてきた子どもの姿が、教師の創造性の捉え方を変えたことは今後の創造性教育にとって希望のある事例と言える。
本研究を通じて、教員は創造性に関する教育実践に取り組む中で探索的に創造性についての暗黙理論を変え、創造性教育への取り組み方を柔軟に変えることができることがわかった。ただし、次の記事でも述べるように本研究の参加教員は本研究に参加する前から創造性に関する偏見が比較的少なく、創造性や教育実践に自信を持つ教員であったことには注意されたい。教員が自ら探索的に創造性への信念を構築していくことに期待するだけでなく、その過程を支援したり、科学的知識や情報を得やすい環境を整えることが今後必要である。
引用文献
- Beghetto, R. A. (2019). Creativity in the classroom. In J. C. Kaufman, & R. J. Sternberg (Eds.). Handbook of Creativity. Cambridge, UK: Cambridge University Press.
- Gralewski, J., & Karwowski, M. (2018). Are teachers' implicit theories of creativity related to the recognition of their students' creativity?. The Journal of Creative Behavior, 52(2), 156–167. https://doi.org/10.1002/jocb.140.
- OECD教育研究革新センター (編著) 西村美由起(訳)(2023) 創造性と批判的思考—学校で学び教えることの意味はなにか 明石書店
- Ritter, S., & Rietzschel, E. (2017). Lay theories of creativity. In C. Zedelius, B. Müller & J. Schooler (Eds.),The science of lay theories: How beliefs shape our cognition, behavior, and health (pp. 95–126). Springer. https://doi.org/10.1007/978-3-319-57306-9_5
- Sawada, K., Ishiguro, C., Sato, T., & Sato, A. (under review). Japanese School Teachers’ Beliefs about Creativity.
- 澤田. (2024). 日本の小中高の教師がもつ創造性の信念に関する探索的検討. ベネッセ教育総合研究所. https://benesse.jp/berd/special/creativity/lp/teachers-creativity-beliefs/
- 弓野憲一, & 平石徳己. (2007). 世界の創造性教育. 教育心理学年報, 46, 138-148.

石黒 千晶
プロフィール