2012/11/16

第2回【識者インタビュー】未来のデジタル社会を生き抜く子どもたちを育てるために

デジタル化の進展とともに、子どもたちに求められている能力も変わりつつある中、「21世紀を生き抜く力を子どもたちが身に付けるために、デジタル機器やデジタル教材を活用するのはもはや自然の流れである」と東京大学大学院情報学環准教授の山内祐平先生は話す。世界の教育現場の動向を踏まえ、日本の教育現場ではどのようにデジタル機器や教材を取り入れていくべきか、お話をうかがった。

山内 祐平 先生

東京大学大学院情報学環准教授
ベネッセ先端教育技術学講座(BEAT)。情報技術を用いた学習環境のデザインについて、開発研究とフィールドワークを連携させた研究を展開している。主著として「デジタル社会のリテラシー」(岩波書店)、「社会人大学院へ行こう」(NHK出版)、「デジタル教材の教育学」(東京大学出版会)、「学びの空間が大学を変える」(ボイックス株式会社)など。
【インタビュー要旨】
OECDや世界の教育科学者たちが連携し考案した「21世紀型スキル」の中にはICT活用能力が入っている。文部科学省が意識しているOECDの学習到達度調査PISAでは試験そのものがPC画面だ。海外ではデジタル機器を使った「反転授業」のような、新しい学習スタイルが進んでいる。SNSを使ったキャリア支援、欧米一流大学のオンライン無料授業公開、世界中の一流講師に質問できるサービス、デジタル絵本、など。教員はまず自身の学習にデジタル教材を活用してほしい。活用すると授業で工夫したくなるはずだ。

子どもたちに求められる能力が変化している

 デジタル化が進む社会において、日本の教育はどのように変わっていくべきなのか。その前置きとして山内先生は、2011年にアメリカで発表された衝撃的な予想について語る。
 「アメリカ・デューク大の研究者であるキャシー・デビッドソンが、『2011年に小学校に入学した子どもたちの65%が、大人になったとき、現在は存在していない職業に就くだろう』と著書の中で発表し、波紋を呼びました。確かに10年前にはソーシャルメディアを活用して企業のブランディングを行う『ソーシャルメディア・コーディネーター』といった職業は存在しませんでした。しかし、現在では一般的な職種としての地位を確立しつつあります。今後もデジタル化が進み企業が改革を進めるたびに、新しい職業が生まれると予想されます」
 65%という数字はアメリカを対象とした予想であり、日本でも同じようになるかは分からない。ただ、社会の変革に伴い、日本の社会が求める人材要件も変わっていることを理解する必要があるという
 「日本だけでなく世界中で、学生が有名大学を卒業しても良い就職先が保証される時代ではなくなっています。それは単に景気の問題だけではなく、国際的に活躍できる人材が評価される時代が到来したからです。つまり、日本企業に就職希望であっても、ライバルは世界中の学生。グローバル社会を生き抜くためには高いスキルを身に付け、就職後も社会の変化に対応しながら、学び続けることが求められています。そのため、日本の大学入試も大きく変わろうとしています」
 デジタル化・グローバル化の進む社会で求められるスキルとして、山内先生は「21世紀型スキル」を挙げる。「21世紀型スキル」とは、世界の教育科学者やユネスコ(国際連合教育科学文化機関)、OECD(経済協力開発機構)などの国際教育機関が連携して考案した、21世紀の国際社会で必要な能力のことで、批判的思考力、問題解決能力、コミュニケーション能力、コラボレーション能力、ICT活用能力など、子どもたちが身に付けるべき能力を規定したものだ。各国ではICT企業などと連携し、未来の子どもたちの「21世紀型スキル」を伸ばす教育を行っている。
 日本でも、「21世紀型スキル」に関連する能力を伸ばす取り組みは既に始まっている。2011年度に小学校でスタートした新学習指導要領(中学校は12年度、高校は13年度)でも、知識技能の習得だけでなく、それらを「活用」した思考力や判断力、表現力の育成を重視している。OECDが実施している国際的な学習到達度調査(PISA)では、そうした力を測定しており、日本でもその調査に参加している。山内先生はPISAの2009年調査の中で測定された「デジタル読解力」に注目すべきだという。デジタル読解力とは、インターネット上などでのデジタルデータから必要な情報を探し出し、読み取る力のことだ。
 「PISAの『デジタル読解力』の結果、日本は19カ国中4位でした。一見、良い成績に思えますが、「デジタル読解力」の成績層別割合を見ると、上位層であるレベル5以上の割合が最も多いのは韓国19%、ニュージーランド19%、オーストラリアの17%と続き、日本は6%で9位でした。日本は、参加国の平均8%を下回っているのです。また、日本はレベル3の生徒は多いですが、レベル5以上の生徒は韓国の3分の1以下。日本では、レベル5の生徒をもっと増やすような教育をしていくべきだと感じています」(山内先生)
 世界で競える人材を育成するためには、ICT活用能力を含む「21世紀型スキル」を身に付けさせる必要があり、それには従来の日本の教育の良さを活かしつつ、新しい教育を柔軟に取り入れていく姿勢も必要だと山内先生は語る。
 日本の学校でも取り入れられている事例として、山内先生は現在アメリカの小学校・中学校・高校で広がっているある新しい教育スタイルを挙げる。1コマの授業内容を15分程度の映像にまとめ、自宅のパソコンやタブレット端末などで視聴できるようにした。授業で学ぶ通常の基礎的な内容を宿題にして、宿題内容への質問や疑問点を授業で対話的に学ぶため、「反転授業」と呼ばれている。「反転授業」を取り入れることで、授業では生徒と教師の対話中心の問題解決型の学習が中心となり、その結果として出席率が上昇したり、学力が向上したりするという効果も出ているという。
 学校が「反転授業」を実現させるためには、宿題用の授業映像を用意する必要がある。こうした映像を各学校現場で用意するには多大な労力と費用が必要だ。そのためアメリカでも二の足を踏む教員も多かった。そうした教員をサポートし、反転授業の普及を実質的に支えてきたサイトのひとつに「カーン・アカデミー」がある。このサイトは、当初から教員用につくられたわけではない。2006年にヘッジファンドのマネージャーとして働いていたインド系アメリカ人のサルマン・カーンが、遠くに住んでいる親戚のために講義映像をYouTubeにアップしたのがきっかけだ。その映像が大反響を呼び、彼は「カーン・アカデミー」を立ち上げた。次第に教師たちにも利用されるようになったのだ。現在、3200を超える映像が登録され、教師はこのサイトから生徒に見せたい授業を選び、そのデータを配布すればよいのだ。山内先生はこうした反転授業が、10年後の日本の教室でも取り入れられるのではないかと予想する。
 「日本の先生の中には『反転授業』のような新しい学習スタイルに抵抗感を持たれる方もいるでしょう。ただ、限られた授業時間の中で、基礎知識の習得と両立して、『21世紀型スキル』を身に付けさせるには限界があります。デジタル機器を使うことで、すぐ学習効果を上げることができなくても、少なくとも家庭学習時間をうまく活用することで、教室で活用問題に取り組む時間を捻出することができるでしょう。『反転授業』のように、授業のスタイルについて発想の転換が必要ではないでしょうか。こうした学びのイノベーションを支えるのが、デジタル機器やデジタル教材だと考えています」

企業と協力してデジタル教材の可能性を研究・実践

 山内先生が所属する東京大学大学院情報学環では、2004年からベネッセコーポレーションと共同で、最新のテクノロジーを利用して学習環境の変化をめざす「ベネッセ先端教育技術学講座(BEAT)」に取り組んでいる。2010年からは、高校生の進路支援・学習支援をSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上で行うプログラム「Socla(ソクラ)」を共同でつくり、この学習環境が高校生の進路支援につながるかどうかを研究している。
 「Socla」とは、高校生がFacebookを活用し、自分の進路について大学生や社会人のアドバイスを受けながら、自分なりの答えを2週間で探求するというもので、いわゆる「オンラインによるサマースクール」だ。実例を挙げると、海外の医療系大学に進学を考えるある高校生が、「Socla」を通じて実際に医療系の大学に留学した経験者から情報を収集することができ、進路選択のための有用な判断材料を得られた。
 高校現場でもキャリア教育に関心が高まっており、さまざまな取り組みが実践されている。が、一人ひとりに合った進路の情報提供を行うのは難しい。また、高校生が個人的に情報を集めようとしても、アドバイスを求めるのは周囲の大人に限られてしまう。一方、Facebookやmixi、Twitterなどのソーシャルメディアを活用すれば、リアルな社会で出会うことが難しい職業の人とでもつながることができる。例えば、弁護士を目指す高校生は、現職の弁護士や法科大学院生とウェブ上でコミュニケーションを取ることができ、自分の目指す方向性をより具体的に描くことができるだろう。地域・国境を超えて、自分のめざす職業に就いた人やその人々が学んだ学問とつながることができるのが、進路支援においてソーシャルメディアを活用する最大のメリットだ。
 上記のようにソーシャルメディアなどのデジタルサービスを教育に取り入れることで、さまざまな可能性が広がる。具体的に学校や教員、学習者はどのように活用できるのか、そしてその価値はどこにあるのか、そのヒントとして日本国内、世界各国で進められているプロジェクトを山内先生に紹介していただいた。

大学・高校向け…世界の一流大学の授業を無料で受けられる「オープン教育」

 2000年代から、ウェブなどの情報通信技術を利用して、学校や地域を超えて誰もが簡単に教育コンテンツにアクセスする「オープン教育」という考えが米国を中心に急速に広まっている。その一例が、一流大学の授業を無料で提供するオンライン教育サービスの「Coursera」や「edX」だ。「Coursera」は、アメリカのプリンストン大、スタンフォード大、ミシガン大、ペンシルベニア大、カリフォルニア大バークレー校の講義が登録されている。学習者は自由に好きな授業を受講でき、ネット上で教授に質問できる。教師はオンライン上で試験を課すことができ、双方向のやり取りが可能。現状ではまだ単位は取得できないが、今後は有料で修了書を発行する可能性もあるという。これに対抗するように、マサチューセッツ工科大とハーバード大が同様のオンライン無料授業公開サービス「edX」を今秋立ち上げ、既に登録者は10万人に達したという。
 このように未来の子どもたちは、自らの専門性を高めるために国境を超えて質の高い授業を無料で受講することができるようになる。このようなサービスはいずれも現時点では学位は取ることはできないため、既存の教育機関のライバルとしては考えにくい。ただ、こうした動きは今後も広がっていくことが予想される。対面型の授業を提供する大学側は、このようなサービスが増えていることにより、よりオンラインでは得られない付加価値のある教育を行うことが求められている。今後世界中の大学教育は変わっていかざるを得ない。

大学・高校向け…大学入試で「Facebook」を活用

 「アメリカの大学の70%が、Facebookを入学者選考における重要な参考資料としてとらえている」これは、アメリカの教育専門会社 Kaplan Test Prep がアメリカの大学の入試担当者に行ったアンケート調査結果である。アメリカの大学入試は、高校の成績とSAT(大学進学適性試験)のスコア、推薦書などを総合して合否判定を行うのが一般的である。そこでFacebookで、一定の学力水準が確保された候補者を比較し、高校生の普段の活動の中に、より良い評価につながる活動をしているかを知るための資料として活用されている。多くの大学があらさがしをするために利用するのではなく、生徒の積極性やリーダーシップなどを見るために利用しているようだ。例えば、ボランティア活動やサークル活動も評価の対象に含めることができるのだ。このようにソーシャルメディアを活用すれば、テストや推薦書だけでは分からない活動を、長期間追って確認することができるため、より大学に合った人物を選考できる可能性がある。

中学校向け…一流講師の授業を生で受講「Skype in the classroom」

 キャリア教育や進路選択のために、外部から講師を招いて講演会を行う学校は多い。だが、教員の既存の人脈やノウハウだけでは、学校に招くことができる講師は限られてしまう。そこで注目されているサービスのひとつが「Skype in the classroom」だ。「Skype」とは、インターネット回線を利用して通話やテレビ電話などができる無料のパソコン通信ソフトもしくはスマートフォンアプリケーション(※一部有料)のことであり、「Skype in the classroom」はそのシステムを活用し、外部の講師と協力しながら遠隔授業を進めることができたり、教室に招く講師を見つけたりすることができるサイトだ。2012年10月に日本語版サイトがオープンした。例えば、NASAの宇宙飛行士や、ニューヨークフィルハーモニーの演奏者など第一線で活躍する一流講師と、テレビ電話で対話しながら授業を進めることができる。インターネット上の豊富な資源を活用すれば、居住地域にかかわらず子どもたちに多彩な教育のチャンスを与えることが可能になっている。

小学校向け…学びへの興味・関心を膨らませる「ワークショップ」

 学ぶことの楽しさ、創造することの喜びを子どもたちに教えるために、ICTを取り入れた「ワークショップ」形式の教育スタイルが注目され、国内外のさまざまな企業が取り組んでいる。その一例が、SCSK株式会社の社会貢献活動である「CAMP」だ。国内外の企業などに協力を仰ぎ、米国各地でワークショップが開催されている。例えば、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボと協力し、乾電池式の小型コンピューター「クリケット」を使って動くおもちゃをつくるワークショップを開催。参加した子どもたちは、自由な発想で動くおもちゃをつくることができ、コンピュータなどへの関心を高めることができる。最新のデジタル技術を活用したワークショップ形式の学びは、学校だけでは実施するのは難しいが、企業等と連携することで実現することができる。子どもたちの学びへの興味・関心を膨らませやすい手法になっている。

幼児向け…親子の対話を増やす「デジタル絵本」

 近年書籍のデジタル化が進んでおり、絵本の世界でもその傾向が見られる。BEATの研究員である東京大学の佐藤朝美特任助教はデジタル絵本の可能性を研究するため、タブレットPC用ソフトウェア『ピッケの冒険』を開発した。『ピッケの冒険』は、画面上の簡単な操作で、コブタのピッケや仲間たちを主人公にしたデジタル絵本つくりができるソフトウェア。5歳児を対象に紙を使った物語作りとの比較実験を行ったところ、タブレットPC用ソフトウェアの機能を使用しながら物語を作ったほうが、子どもの発話がより活性化され、発話の種類も増えることが分かったという。幼児期においては、親子の対話を促進させるツールとして、デジタル機器や教材の活用の可能性を考えていくことができると報告されている。
参考:BEAT公開研究会「子どもとデジタル絵本」

教員はまず自分自身の学びにデジタル教材を活用してほしい

 日本政府は、2020年までにすべての小中学校にデジタル教科書を配布することを目標にしている。学校での学びにデジタル教科書をはじめとしたデジタル機器・デジタル教材を活用していくためには、教員はまず何をすべきなのだろうか。山内先生にうかがった。
 「教員は社会と子どもをつなぐインターフェイス、つまり社会の窓です。デジタル化が進む社会で、今後教員がICTを使って教育を行うのは必然の流れとも言えます。ただ、いきなり授業に取り入れることを考えるのではなく、実際にデジタル機器やソーシャルメディアを触ってみて、教員自身が楽しんでほしいと思います(笑)。何よりもまずご自身の学びに取り入れてみてください。例えば、アメリカでは授業案や教材を共有できるサイトが多数存在しています。これまで日本では、授業力を向上させるための研修は対面研修が中心でしたが、教員同士の学び合いにソーシャルメディアを活用してはいかがでしょうか。未来のデジタル化社会を生き抜く子どもたちを育てられるのは、自らも成長するために学び続けられる教員だと感じています。ネット上には貴重な資源があふれています。ぜひ今、新たな一歩を踏み出してほしいと思います。学びの新しい可能性を感じられるはずです」
2012年11月16日 掲載

教員のためのデジタル活用3ステップ

  1. デジタルの教育サービスを触ってみる、体験してみる。(体験)
  2. 自分自身でも継続的にデジタルの教育サービスでいろいろ学んでみる。(学習経験)
  3. 試しに授業で活用してみる。継続的に利用し、子どもたちにとってどのような変化が起こるかを観察して、工夫を続けていく。(活用)