読書が算数の学力に影響?—読書量と学力の関係を考える

2020年度から段階的に実施される新学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」や小学校の英語の時間の教科化、カリキュラムマネジメントなど、いくつか目玉となる改訂のポイントがありますが、その1つが高校における国語の科目の新設・再編です。「論理国語」や「古典探究」など、より資質能力の育成を意図した科目編成に変わりました。その中で再び注目されているのが「読書指導の充実」です。今回、小学生だけでなく、中学校や高等学校においても「読書指導を改善・充実する」ことの必要性が盛り込まれました。

読書の効果については、これまで、さまざまな手法でその効果を明らかにする試みがなされてきました。しかし、読書をしている子どもの学力が高かったとしても、それは読書の効果なのか、頭の良い子どもがただ読書に親しみやすいという結果なのか分からない、といったように、その効果は十分に明らかにされてきませんでした。そこで、私たちは電子書籍の読書履歴や学力テスト、アンケート調査の結果を紐づけ、子どもたちの複数年にわたる変化を追跡する研究を行うことにしました。ベネッセコーポレーションが提供する家庭学習教材には、毎月約36万人の子どもたちが利用する電子書籍のサービスが組み込まれており(2018年12月現在)、この利用データから、子どもたちがどのような本をどれくらい読んでいるかや、読書量と学習行動にどのような関係があるのかを知ることができます。

図1は、読書量と学力の「変化」の関係をみたものです。ここでの学力変化とは、家庭学習教材を受講している会員に対して定期的に実施している「実力テストの偏差値」(国語、算数、社会、理科の4教科について、履修範囲の学習内容を習得しているかを確認するために実施されるテストで、平均80点程度になるように設計されている)の2時点(小学5年生42,696名の2016年8月から2017年12月までの学力変化※調査終了時は小学6年生)の差を意味しています。

結果をみると、読書量が多い子どもほど、学力を伸ばしていることが分かりました。読書量の「多」い子どもは、平均で「+1.9」偏差値を上げているのに対して、「少」ない子どもは「+0.9」、「無」しの子どもは「-0.7」と偏差値を下げていました。この変化をわずかなものと捉える見方もありますが、集団の偏差値平均は大きく変わりにくいという特徴をふまえると、一定の変化があるものとして捉えることもできます。分析と併せて行った差の検定でも、有意な違いが確認されました。

ただ、冒頭でも述べたように「読書量が多い子どもほど、学力を伸ばしている」という結果について、「因果関係が逆で学力が高い子どもほど読書量が多いだけでは?」といった意見もあります。そこで初期時点(2016年8月時点)の学力偏差値と読書量の関係をみてみました。すると、差は小さなものではありますが、初期時点では読書量「無」しの子どもほど、学力が高く、読書量が「多」い子どもほど学力が低いという意外なデータがみられました。これは今回の分析が、電子書籍の読書履歴を対象にしたものであることや、サンプル数が非常に多いこととなどが関連していると思われますが、いずれにしても読書量が多い子どもほど学力が高い(あるいは、学力が高い子どもほど本を多く読んでいる)という結果ではありませんでした。紙の書籍による読書でも同じ傾向が確認されるのかについては追加分析が必要そうです。

次に、学力偏差値の変化を教科別に分けてみてみるとどうなるかを確認してみました。その結果を示したものが図2です。「読書」というと「国語」をイメージしがちですが、読書量は「国語」の学力変化にほとんど影響を与えていませんでした。しかし、「算数」では、読書量が「多」い子どもは偏差値が「+3.5」である一方で、「無」しの子どもは「-1.3」と、4.8ポイントの差が開いており、学力変化に一定の影響を与えていることがわかりました。また「算数」ほど強くないものの「社会」でも読書量の効果が見られました。

「算数」の学力変化において特に影響が見られた理由としては、読書量の多さが「文章中に与えられた問いや条件を読み取る力」を高めていることや、読書習慣によって学習習慣が整い、「積み上げ型」の問題(計算問題など)の点数向上にプラスの効果をもたらしたことなどが推察されますが、はっきりとした要因を突き止めるためにもさらに分析を重ねていく予定です。

※ニュースリリースの関連資料は、下記より確認いただけます
https://berd.benesse.jp/special/bigdata/ebookanalysis.php

以上、今回は、読書が教科の学力の伸び、中でも算数の学力の伸びと関連している可能性を取り挙げました。読書履歴を活用した分析では、この他にも、読書が自分が感じたことや疑問に思ったことを調べたり、誰かと共有したりする「きっかけ」になっていることなどが明らかになっています。今後の分析では、読書を通じた子どもたちの活動の広がりが、特にどのような本の種類・ジャンルで生じているのか、また子どもたちが読む本の種類・ジャンルは、学年によってどう変化しているのか(あるいは変化していないのか)などを明らかにしていきたいと思います。


2019年11月1日、文部科学省より2020年度(令和2年度)の大学入試における英語民間試験活用のための「大学入試英語成績提供システム」の導入を見送ることが発表されました。

プロフィール


佐藤昭宏

ベネッセ教育総合研究所・研究員。初等中等領域を中心に、子ども・保護者・教員の意識・行動の調査分析や、情報誌編集、教材開発等を担当。主な研究テーマは「『学び方』支援の在り方」、「消費社会下における子どもの自立・社会化」について。

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