社会科が変わる!「暗記教科」から「最も使える教科」へ 新学習指導要領

高等学校で、2022年から年次進行で実施予定の新学習指導要領は、これまでにない大改訂となります。
今回は、注目が集まっている社会科の再編について、資質・能力ベースの今改訂を読みやすくまとめ教育書界のヒット作となった『「資質・能力」と学びのメカニズム』(東洋館出版社)の著者・奈須正裕先生に解説していただきます。

「社会を生きる上で役立つ」社会科へ

戦後に設置された「社会科」の出発点は、今の総合的な学習に近い位置づけで「現実社会の問題を、探究しながら解決していく」教科でした。
今回の改訂ではその原点に帰り、現実社会を生きる上で「使える」教科にしていこうとしています。必修科目として「地理総合」「歴史総合」「公共」が置かれます。ここでは、「歴史総合」と「公共」について解説します。

歴史が「事実羅列」「暗記」に陥りがちな理由とは?

歴史は本来、過去に学ぶことで現在起こっている出来事を読み解き、よりよい未来を生み出すことを支える学問です。ところが、日本では「歴史的な事実をたくさん理解して覚える」暗記科目のように見なされています。これには、日本独特の理由があります。

戦前には、日本を「神国」とみなす皇国史観に基づき、神話と事実が混在するような歴史が教えられ、それが軍国主義につながったという批判がありました。戦後はその反省から、できるだけ価値判断や因果関係を確定せず、事実だけを教える方針がとられました。しかし、そうするとバラバラな事実の羅列を教えることになりがちです。歴史が「暗記もの」とみなされるようになった一因はそこにあります。

また、保護者の皆様の中には、古代史や中世史に比べて、近現代史はあまり学んだ記憶がないというかたも多いのではないかと思います。そこには、近現代史はまさに価値観の葛藤の歴史であり、様々な見方があるので教えにくいという事情がありました。しかし「現代を読み解き、未来を生み出す」ためには、近い過去こそ丁寧に学ぶ必要があります。

近現代を中心に学び現代を読み解く「歴史総合」

そこで、必修となる「歴史総合」では、近代以降、日本でいえば江戸時代中期から現代までを中心に学ぶこととなりました。大規模な国際的交流が始まった大航海時代以降、近代社会がどう形成され、その中で日本がどう動いたかについて、地理学や政治学、経済学的な視点も取り入れながら学んでいく方針です。また、歴史総合で扱わない時代や地域の歴史については、選択科目の「日本史探究」「世界史探究」でより深く学ぶことができます。

欧米の歴史教育も近現代が中心ですが、歴史認識についてはよく論争となります。歴史の見方はひとつではないからです。しかし、各時代で中核となる概念を決め、そこを軸としてある程度はストーリーを描かないと、歴史は結局バラバラで因果関係のわからないものになってしまいます。教科書の編纂に当たっては、実証的な歴史研究の成果を基におおいに議論し、多くの人が納得するような歴史像を描く必要があるでしょう。

たとえば英国では、「植民地支配」の概念と、自国がアジアやアフリカで行った植民地政策についてきちんと教えています。日本の韓国併合や、三国干渉が起こった理由についても、植民地支配というその時代特有の概念や国際関係の中でとらえる必要があると思います。大枠となる歴史的概念を押さえ、現代とのつながりを考えることで、世界の様々な立場の人と対等に話ができるようになるのではないでしょうか。

社会を担う主体を育てる「公共」

やはり必修となる「公共」は、公民分野を総覧するような新しい科目です。
2016年、選挙権年齢が18歳に引き下げられました。また、民法改正案が成立すれば、2022年からは18歳以上で「契約」が可能になります。保護者の承諾を得なくても、賃貸契約をしたり、ローンを組んだりできるようになるのです。「選挙権を適切に行使できるか」「詐欺などの被害に遭わないか」といったことに不安を感じる保護者のかたも多いのではないでしょうか。
「公共」では、政治参加や経済活動、人権や裁判、情報モラル等について学び、市民社会の一員として、公共の場で適切な行動や意志決定ができる「主体」となることを目指します。

これまでも、高校では政治・経済や法について教えてきましたが、結局バラバラな知識の「暗記」で終わっていたという批判がありました。知識として三権分立は知っているけれど選挙には行かない、日本や世界の動きについて自分の言葉で語れない、などという声も聞かれます。社会を担う「主体」としての意識を育てるためには、模擬選挙や模擬裁判、日本の政治・経済システムと他国との比較など、授業内容の様々な工夫が必要になるでしょう。

社会科が「暗記」教科から、現代社会を読み解くための「使える」教科へと変われば、子どもたちの意識や行動も変わってくることと思います。ぜひ身近な地域や日本、世界のニュースについて、ご家族で話題にしてみてください。話すこと、考えることがすべて主体的な学びにつながります。

プロフィール

奈須正裕

奈須正裕

上智大学総合人間科学部教育学科教授。新学習指導要領の作成に携わり、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会をはじめ、教育課程企画特別部会、総則・評価特別部会などの委員として重要な役割を担う。著書に『「資質・能力」と学びのメカニズム』(東洋館出版社)など。

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