幼児教育、肝心なのは「質」

政府は現在、保育を含めた幼児教育の無償化を段階的に進めようとしています。
財源をどう確保するかなど課題は山積しているものの、保護者の負担軽減という点からは歓迎すべきことです。しかし無償化すればそれで済むという問題でもないようです。

単なる「お世話」でなく

日本では、憲法で無償が保障されている義務教育などに比べて、幼児教育や高等教育の費用負担を家庭に依存していることが、かねてから問題になっていました。このうち高等教育の無償化は現在、議論が始まったばかりですが、幼児教育に関しては、既に政府・与党の方針で、段階的な無償化に乗り出しています。ただ議論の中心が、財源をどう確保するかに追われ、肝心な教育の中身は、文部科学省などに任されているのが現状です。

経済協力開発機構(OECD)は先頃、2017(平成29)年版の「図表でみる教育」を公表しました。教育に関するさまざまなデータを比較・分析して、各国の政策に生かしてもらうためです。
アンドレアス・シュライヒャー教育・スキル局長は、日本の記者向けに行ったインターネット会見で、広がる経済格差の解消に効果的な教育政策は、早期からの質の高い幼児教育に公的な資金を積極的に投資することだと指摘する一方、質の高い幼児教育とは単に「お世話」をすることではなく、社会情動的スキルや認知機能を高めることだと述べ、そのためにも力のある教員を充てるべきだと注意を促しました。

「図表でみる教育」によると、日本は、幼児教育の在学率が2015(平成27)年時点で3歳児80%(OECD平均は78%)、4歳児94%(同87%)でした。その高さをシュライヒャー局長も2012(平成24)年の会見で「グッドニュース」と評していたほどです。
しかし今回は、改めて「量」だけでなく「質」の問題を指摘した格好です。

「社会情動的スキル」の育成こそ

ここで改めて、シュライヒャー局長の指摘に注目したいと思います。
社会情動的スキルは「学びに向かう力」とも言い換えることができ、OECDはベネッセ教育総合研究所と共同研究を行いました。2015(平成27)年3月に東京で行われたシンポジウムで無藤隆・白梅学園大学教授(当時)は、社会情動的スキルを「興味を持ち、集中し持続し挑戦する」力のことだと説明しました。OECDでは、一歩引いて自分をコントロールできるような「認知的スキル」と相まって、意欲を持って積極的に自分から学んだり、人と交わったりすることで、結果的に人生でも活躍できるようになる……と見ています。

中央教育審議会で無藤教授が中心になって改訂を提言した新しい幼稚園教育要領(2018<平成30>年度から全面実施)では、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」として、(1)健康な心と体(2)自立心(3)協同性(4)道徳性・規範意識の芽生え(5)社会生活との関わり(6)思考力の芽生え(7)自然との関わり・生命尊重(8)数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚(9)言葉による伝え合い(10)豊かな感性と表現……を示しています。
小学校に入った時、これらが生活科を中心とした「スタートカリキュラム」を通じて、各教科などの学習にスムーズにつながっていく……という考え方です。

質の高い幼児教育のためには、こうした新教育要領や、連動して改定された保育所保育指針などを確実に実施することが第一です。そのためにも、保育環境の充実とともに、教員や保育士の資質・能力向上が不可欠であることを、忘れてはなりません。

※図表で見る教育2017
http://www.oecd.org/tokyo/newsroom/benefits-of-university-education-remain-high-but-vary-widely-across-fields-of-study-says-oecd-japanese-version.htm

※社会情動的スキル:ベネッセ・OECD共同研究
http://berd.benesse.jp/feature/focus/11-OECD/

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール

渡辺敦司

渡辺敦司

1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。連載に「『学力』新時代~模索する教育現場から」(時事通信社「内外教育」)など。

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