第8回:地域によって異なる教育施策。どうとらえ、どう対応するか?

少子高齢化が進む今の日本では、各地でどのようにして人口減少に歯止めをかけるか、とともに、どのようにして地域を担う人材を輩出するかが大きな課題となっている中、教育が果たす役割は大きいと考えられます。今回は、自治体の教育に対する考えや施策の状況、そこから推測される今後の展開について、ベネッセ教育総合研究所の黒木研史と鎌田恵太郎、進研ゼミ受験総合情報センター・センター長の浅野剛がお話しします。

●子育て・教育施策は自治体にとっての重要課題

黒木:2年ほど前に、全国の市区町村を対象に行ったベネッセ教育総合研究所の調査で「子育て・教育に関する考え」を尋ねたところ、「自治体の発展のためには、子育て・教育施策を最優先するつもりだ」という考えに対し、「とてもそう思う」「ややそう思う」と答えた自治体は合わせて約76%。これを首長(市区町村長)だけに絞ると実に約94%になりました。このことからも、自治体トップの意識はかなり教育に向いていることがうかがえます。さらに、同じデータを人口規模別に集計すると、規模の小さいところほど「とてもそう思う」「ややそう思う」と回答する割合が多くなります。その背景には、子育て・教育施策を厚く行うことで人口減少に有効に働くかもしれない、という期待につながっているのではないか、と考えられます。

●地域ごとにまだらに進む教育施策

黒木:実はいま、いろいろな自治体で、それぞれに教育施策が進みつつあります。小学1年生から英語教育(外国語活動)を行ったり、小中学生全員に一台ずつタブレットPCを貸与したり。また、土曜授業の実施や小・中学校一貫の義務教育学校の設置なども、現在は各自治体の判断で行えるようになっています。さらには、独自の学力検査を実施し、その結果を内申点に反映するといった取り組みを行っている自治体もあります。
ただし、これらの施策は、前述のような首長の「思い」以外に、実現に向けて必要な予算や人材など資源の調達が必要で、自治体によってやれることとやれないことがあるのが現実です。たとえば、ICT環境の整備状況。直近の文部科学省の調査によると、学校における教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数の平均値は1台当たり約6.2人。しかし、都道府県によって、また、同じ都道府県内でも市区町村によってこの数値は異なります。
このように、地域の状況や教育に対する考え方により、教育関連施策は自治体ごとにまだらに進んでいるのです。

●高校入試による自治体の独自性

浅野:高校入試でいうと、推薦入試・特色入試などにおいて地域の独自性が出てきます。中学校時代の成績(内申点)が高く、生徒会・学校行事や学級活動・部活動などを意欲的に取り組んできた生徒は、高校入学後も高い意欲をもって諸活動に取り組むことが多く、学校の活性化につながっているようです。こういった生徒は、一般入試(学力検査を中心とした選抜)ではなかなか選抜できないことから、推薦入試の存在意義は大きいと思われます。
一方で、入学後の学力に不安が見られることや、推薦の選抜基準が不明確になりやすいことなどの課題もあり、推薦入試をやめて学力検査を中心とした一回型入試に移行する県や、推薦の志願者にも学力検査を課す県なども出てきています。ただし、地方においては、部活動などを通した学校や地域の活性化は重要なテーマであり、入学者の学力や選抜基準の透明性などを担保しつつも、推薦入試を継続するところが多くなっています。

●自治体による教育施策の実態を、どうとらえるか

鎌田:予算や人材などの問題で、自治体によってかなり教育施策に差が出てくる可能性があります。ただ、もし自分が住んでいる地域の教育政策が充実していない場合、保護者として、地域の住民として、「学校にコンピュータを入れませんか」など声を上げていく姿勢をもっていたいですね。そのためには、自治体の広報紙などで地元の自治体が教育をどう考えていて、教育施策についてどんな議論が行われているのか、知っておくことが大切です。同時に、家庭で学習するときは、自治体間や学校間の格差に影響されないように、全国水準の質の高い学力をしっかりと身につけてくことが必要です。

●わたしたち大人にも必要な「新しい学び」

黒木:保護者や地域の大人が、子どもたちの教育環境をよりよくするために話し合ったり、総合的な学習の時間や土曜日の学習活動、部活動など、学校教育活動に積極的に協力したりするなどの場面が増えれば、教育施策の充実とともに、地域全体での教育力の向上が期待できます。これは、次期学習指導要領の中でも、「家庭や地域社会との連携及び協働と学校間の連携」としてうたわれていることです。

「将来の大人」である子どもたちと我々「今の大人」は、近い将来、協働して社会をつくっていくことになります。子どもたちに求められている「主体的に課題を発見し、協働して解決する力」は、我々大人にも求められるものだと考えてよいでしょう。その力を養い、発揮する機会を、“地域の教育力向上への参加”の中に見いだすことはできないでしょうか。もしこのような場が実現できれば、新しい学びを通した「将来の大人」と「今の大人」の協働、ひいては地域の教育課題の解決につなげることができるかもしれません。
(取材日:2017年3月14日)

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プロフィール

黒木研史 (くろき・けんし) 

黒木研史 (くろき・けんし)

教育出版やWEBコンテンツ配信の業務を経て、2004年に(株)ベネッセコーポレーション入社。ICT活用の効果について外部機関との共同研究や、WEB教材用の動画コンテンツの制作支援などを担当。現在はベネッセ教育総合研究所の情報企画室長として、教育行政動向など教育環境変化についての情報収集・分析、予測等を行う。

プロフィール

鎌田恵太郎(かまた・けいたろう)

鎌田恵太郎(かまた・けいたろう)

1986年福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社。進研模試副編集長、学力分析システム(現スタディーサポート)開発責任者を経て、2003年ベネッセ教育総研主任研究員、2005年ベネッセ教育研究開発研究センター主席研究員、2013年ベネッセ教育総合研究所アセスメント研究開発室室長/主席研究員。

プロフィール


浅野剛

元大手進学塾高校入試担当部長、入試情報統括を歴任。30年以上にわたって受験指導を行い、多数の生徒を志望校に合格させてきた高校受験のエキスパート。現在は、中学生・保護者向けオンラインセミナーの講演をはじめ、中学校での進路講演なども担当。

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