第4回:ICTを活用して“主体的な学び”を引き出す

今、学校ではICT(情報通信技術)を活用したさまざまな授業が行われています。デジタル機器やインターネットを取り入れることで、子どもたちの学びはどう変わっていくのでしょう。ICTを活用した授業の現状と、そこから見えてくる今後の学びの可能性について、ベネッセ教育総合研究所の中垣眞紀がお話しいたします。

●外国の中学生とテレビ会議も 〜ICTを活用した授業の最前線〜

ICTを活用した授業というと、どのような学びをイメージしますか?
文部科学省の「学びのイノベーション事業」では、平成23年度より全国20校の実証校(小・中学校、特別支援学校)を対象に、一人一台の情報端末、電子黒板、無線LANなどが整備された環境のもとで、ICTを活用して子どもたちが主体的に学習する「新しい学び」を創造するための実証研究を実施してきました。その実証校で行われてきた授業の一例を、文部科学省の資料をもとにご紹介します。

・国語(小学校)
タブレット端末で教材本文を読みながら、重要な文や語句に傍線を引いたり、自分の考えをワークシートに入力したりしたものを電子黒板に映して、なぜそう考えたのかを説明します。自分と友だちの意見を比べることを通じて、多様な考え方に触れたり、文章の内容をより深く的確に捉えたりすることができます。

・英語(中学校)
テレビ会議システムを使って外国の中学生と自国・他国の文化について英語で伝え合います。どのような表現をすればより明確に伝わるかを考えることで、英語に関する表現力が育まれます。

・体育(小学校)
マット運動や跳び箱などでは、自分がどのような動きをしているのかを自分自身で見る機会がなかなかありません。タブレット端末の録画機能を使えば、その場で自分の動きを確認したり見本の動画と比較したりして、修正ポイントを自覚しながら、技能の向上を図ることができます。

ほかにも、中学校の社会では、インターネットなどを用いて課題についての資料を収集し、電子模造紙やプレゼンテーションソフトを使ってまとめたり、グループで議論したりします。数学では、デジタル教材のシミュレーション機能を使って立体図形のイメージをつかんだりと、より深い学びを実現する授業が行われています。

もちろん、ここで紹介した授業は先進的な事例ですが少しずつ広まっており、将来的にはこのような授業がどこの学校でも行われ、子どもたちの学びが大きく変わっていくことは間違いないでしょう。

●ICT活用はどこまで進んでいる?

ベネッセ教育総合研究所が2013年10月に全国の小中学校の教員を対象に実施した「ICTを活用した学びのあり方」に関する調査によると(中学校教員の回答のみ抽出。以下すべて同じ)、6割の教員がICTを活用した授業を行っていました。また、ICT機器を普通教室で常に使える割合は、デジタルテレビが34.0%、実物投影機が11.7%、電子黒板が9.6%、子ども用パソコンは4.1%、子ども用タブレット端末は1.4%。調査時点ではまだまだ機器整備は少ない状況でしたが、自治体ごとに徐々に増えてきています。ICTの活用法としては「子どもが興味をもつ教材をインターネットで集める」「ノートや教材を実物投影機で映しながら説明する」「動画や3D映像などのデジタル教材で説明する」など。多くの教員はICTを教材の収集・提示に活用していることがわかります。

ICTを活用した授業は、次のような学習効果があるとされています。
(1)映像や音声などを用いて、子どもたちがわかりやすい授業を実現できる
(2)学ぶ内容のレベルやスピードを、一人ひとりの理解の状況や特性に応じて合わせることができる(個別学習)
(3)子ども同士が意見を共有しながら異なる考え方に気づいたり、話し合いを通じて自分の考えを深めたりすることができる(協働学習)
このような効果が期待できるICTを活用した授業は、次期学習指導要領を通じて実現しようとしている「新しい学び」を推進するものとして期待されています。

実際に教育現場からも、これらを裏付けるような声が上がっています。先述の調査でICT活用の効果を先生方にたずねたところ、「学習に対する興味・意欲が高まる」との回答が85.6%と突出しており、その後は「これからの社会で必要なICTスキルが身につく」が53.3%、「理解が深まる」が47.5%と続きます。また、文部科学省の実証研究でも、実証校で平成23年度と24年度に標準学力検査(CRT)を経年で実施して全国の状況と比較したところ、成績の低い子どもの割合が減っている傾向がみられました。このように、ICT活用によって、よりわかりやすい授業を実現でき、子どもたちの学習意欲を高め、理解を深める可能性があることがわかります。

しかし、その一方で「個別学習」や「協働学習」については、まだそれほど実践されていないこともあり、私たちの調査では、これらに関する項目に対して効果を感じている先生の割合はいずれも3割未満、「新しい学び」として期待されるICT活用による「主体的な学び」も2割未満という結果でした。「協働学習」を行うには、子どもが自由に意見を言い合える環境を整え、そこで学びを成立させる先生の力量が必要。これらの環境を一気に整えるのはなかなか厳しいのが現実です。また、「個別学習」はもちろん、自分の学習記録や学習計画を管理しながら「主体的な学び」を実現するには、タブレット端末やパソコンが一人一台あることが望ましく、国は2020年をめどに一人一台のタブレット端末の整備を目指して、具体的な目標や要件などについての検討を進めています。

●ICT活用は、主体的な学びの“入り口”

私たちの社会は今やテクノロジーなくして成立しません。生活のあらゆる場面にインターネットが入り込み、今後さらに便利になっていくでしょう。そうした中で、ICTをいかに使いこなすかは社会全体の重要な課題です。また、人工知能などテクノロジーの急激な発展によって将来の仕事や生活は大きく変化するかもしれません。これからの時代に生きる子どもたちは、変化の中でも主体的に人生や社会を創っていけるような力をつけることが求められます。2020年に予定されている学習指導要領の改訂では、小学校でプログラミング的思考を学ぶ学習が取り入れられ、中学校や高校でもプログラミングは「技術・家庭科」「情報科」の観点で必須化・強化されます。プログラミングというとコーディング(プログラミング言語を用いた記述方法)を学ぶのかと思われがちですが、一番の狙いはそこではありません。テクノロジーは「利用する」だけのものではなく、新しい価値を自ら「創り出せる」道具であることを体験・実感し、その過程におけるさまざまな課題を解決できる力を育むことを目的としています。

ただし、ここで忘れてはならないのが、「すべてデジタルでよいか」ということです。スマホやタブレットをいつでも持ち歩き、通学時に学習アプリで暗記や予習復習などの学習ができると効率的です。一方、考えを図にまとめたりメモを取ったりするときには、紙に書くほうがよい場合もあるでしょう。メディア特性に応じて、紙とデジタル、両方の良さを理解して使い分けていく力が必要です。また、ICTを使うことが学習の目的でないことも理解しておかなければなりません。ICTは豊かな学びを実現するためのツールのひとつであり、目的に応じて主体的に、上手に使いこなすことが大切です。それが結果として、ICTのリテラシーを高め、さらなる学びを生み、引いては未来を生き抜くために必要な「主体的に学ぶ力」を育むものと考えています。
(取材日:2017年1月18日)

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プロフィール

中垣眞紀(なかがき・まき)カリキュラム研究開発室長

中垣眞紀(なかがき・まき)カリキュラム研究開発室長

ファミコンやコンピュータ技術を利用したメディア教材の研究・開発・製作・事業開発に従事。その後公立中高一貫教育校適性検査分析など、小学校領域のカリキュラム・アセスメントについての調査研究に従事し、「ベネッセ発親子で伸ばす『本物の学力』2006年日経BP社発行」の執筆を担当。経営スタッフを経て、2013年より現職。ICTを活用して学びや学び方が学習者にとってよりよいものになることに強い関心をもって取り組んでいる。

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