給付型奨学金は創設されるけれど…これで十分?

2月に入り、大学などの入試が本格化しています。受験生には合格を目指してがんばってほしいものですが、保護者にとって今から頭が痛いのは、合格後の進学費用でしょう。いま国会で審議されている2017(平成29)年度予算案には、給付型奨学金の創設や、無利子奨学金の拡充が盛り込まれているのですが、これで負担は軽くなるのでしょうか。

各学年2万人に月2~4万円

日本学生支援機構(旧日本育英会)の奨学金は、卒業後に返還する「貸与型」が原則でした。それが昨夏の参院選で、選挙権年齢が18歳に引き下げられたことを受け、与野党がこぞって給付型奨学金の創設を公約しました。選挙後に安倍首相は、2018(平成30)年度からの本格実施と17(同29)年度の一部先行実施を表明。文部科学省や与党内で調整の結果、年末ぎりぎりになって具体的な内容が決まりました。

まず対象者は、住民税非課税世帯の生徒です。ただし全員が給付を受けられるわけではなく、各学年で約2万人に限られます。しかも全員を学校推薦とし、高い学習成績を収めているか、教科以外の学校活動等で大変優れた成果を収めている者から、まず各校に1人の推薦枠を割り振ったうえで、残りを各校の申請数に応じて振り分けます。

給付月額は、国公立の自宅生で2万円、国公立の自宅外生と私立の自宅生で3万円、私立の自宅外生で4万円です。ただし2017(平成29)年度は、私立自宅外生約2,200人と、児童養護施設退所者など社会的養護を必要とする約600人を対象とします。

もちろん、貸与型奨学金との併用もできます。無利子奨学金は、基準を満たす希望者全員に貸与できるよう人員を51万9,000人(前年度比4万4,000人増)とした他、卒業後の所得に応じて返還額も変動する「新たな所得連動返還型奨学金制度」も導入されます。

3万人は学校推薦から漏れる

本格実施になっても、非課税世帯の全員が対象になるわけではありません。2015(平成27)年度は、4,729校から非課税世帯の4万9,157人の奨学金の予約採用がありました。つまり、2万人が給付を受けられても、3万人が学校推薦から漏れることになります。文科省のシミュレーションによると、たとえば1校で30人の申し込みがあっても、割り振られる枠は10人だけ。申請者が多い学校ほど、校内の選考が厳しくなるわけです。

しかも、給付額で授業料(平均で国立大学53万5,800円、公立大学53万7,857円、私立大学86万4,384円)が全額賄えるわけではありません。他に学習費や生活費もかさみますし、私学なら毎年、施設整備費なども求められます。依然として貸与奨学金やアルバイトが必要です。

今回の給付型奨学金は、「進学を断念せざるを得ない者の進学を後押しする制度」だとされています。しかし各学年2万人という対象者や、2~4万円という給付月額は、予算とのにらみ合いで決められた側面も否定できません。しかも4学年分の本格実施に必要な毎年200億円を超える予算も、財源確保のめどは立っていません。

何より住民税が課税される世帯に、恩恵が及ぶ見通しは当面ありません。給付型奨学金ができたこと自体は画期的ですが、それだけで済むものではないでしょう。大学進学が個人だけでなく「社会的便益をもたらす」(文科省検討チーム)というのなら、高騰する授業料自体を下げたりするなど、さらなる支援策が求められます。

※給付型奨学金制度の設計について<議論のまとめ>
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/12/1380717.htm

※新たな所得連動返還型奨学金制度の創設について(審議まとめ)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/069/gaiyou/1378312.htm

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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