か細い私大への補助 授業料高騰の一因にも

この夏休みに、大学のオープンキャンパスを回った高校生も多いことでしょう。お子さんの持ってきた説明資料で、私立大学の納付金の高さに、ため息をついた保護者のかたも少なくなかったのではないでしょうか。
文部科学省の調査によると、2014(平成26)年度段階で、私立大学への初年度納付金(授業料・入学料・施設設備費の合計)は、平均131万1,644円。国立大学(標準額81万7,800円)に比べて1.6倍、50万円近くも差があります。なぜ、こんなに高いのでしょう。私学だから当たり前だと言ってしまえば、それまでなのですが……。

収入の76%が学生納付金

文部科学省の外郭団体である日本私立学校振興・共済事業団のまとめによると、私大の収入のうち、学生納付金が76.3%を占めています。国からの補助金は10.2%にすぎず、寄付金や事業収入も、それぞれ3%以下です。つまり、学生が納付する授業料などに、大学の運営費を依存せざるを得なくなっているのです。

近年、大学には、グローバル化をはじめとして、求められる人材の質が高度化しています。各大学も、多人数教室で一方通行型の講義を行う、いわゆるマスプロ教育を改め、少人数によるアクティブ・ラーニング(能動的学修)を取り入れるなど、教育方法の改善に力を入れています。しかし、教育に力を入れるということは、それだけ教える側の人件費がかさむということを意味します。教育の高度化により、更に納付金を上げる必要に迫られるという悪循環に陥っているわけです。

国の補助金は10%のみ

「それなら、国がもっと補助金を出せばよい」という考え方もできるでしょう。確かに、日本は諸外国に比べ、国立も含めて、高等教育にあまりお金をかけていない国の部類に入ります。経済協力開発機構(OECD)のまとめでは、2012(平成24)年、学生一人あたりの公財政支出額は約69万円。加盟国平均が約99万円ですから、約30万円も低くなっています。しかも、日本私立大学団体連合会の指摘によると、国立が1人当たり約218万円なのに対して、私立は約17万円にすぎません(14<同26>年)。

1975(昭和50)年に成立した私立学校振興助成法では、国が、大学などの経常的経費の2分の1以内を補助することができることになっています。制定の際、参議院文教委員会では、「できるだけ速やかに二分の一とするよう努める」という附帯決議も上がっていました。しかし、補助割合は、1980(昭和55)年の29.5%をピークに急減し、2008(平成20)年に11%を割ってからも、じわじわと減り続け、いずれ10%台も割りそうです。これでは、ますます納付金に頼らなければならなくなるばかりです。

私立は、大学数で77.5%、学生数で73.4%を占めています(2015<平成27>年度)。日本の大学進学率が50%を超えることができたのも、重い教育費に耐えてきた家庭のおかげです。

国立教育政策研究所の試算によると、高等教育がもたらす経済的・社会的効果は、学生一人当たり約608万円になるといいます。本人だけでなく、社会も、大卒人材の恩恵を受けているのです。それなのに、いつまでも家計負担頼みでよいのでしょうか。8月末の来年度概算要求でも、教育予算の充実を望みたいものです。

  • ※私立大学等の振興に関する検討会議 配付資料
  • http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/073/giji_list/index.htm

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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