迫る18歳選挙…「主権者教育」の在り方は

選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられた初の投票日が、目前に迫っています。法律が改正された昨年の6月以来、高校でも急ピッチで「主権者教育」が行われてきました。今後は、正式なカリキュラムへの位置付けも含め、早期からの本格的な主権者教育が求められます。

急きょ対応を迫られた1年

この1年間を振り返ると、とにかく今夏の参院選に間に合わせようと、対応を急いだのが実態でした。学校教育を所管する文部科学省と、選挙を所管する総務省による高校用の副教材『私たちが拓(ひら)く日本の未来』ができたのが、昨年9月末。総務省が各自治体の選挙管理委員会に対して、学校と連携した啓発活動を推奨してきた結果、2015(平成27)年度中に、出前授業を行った選管は2年前に比べ約2.5倍の461団体、高校数では約21倍の1,149校で行われました。文部科学省によると、今年度に何らかの主権者教育を行う高校は予定も含めて9割に上り、急速に増加したことがうかがえます。

ただ、学校は大概、1年間の教育計画をきっちり立てていますから、昨年度は、途中で予定をやり繰りして、何とか時間を生み出して、主権者教育を行わざるを得ませんでした。反対に、今年度は最初から年間計画の中に位置付けることができましたが、公職選挙法や選挙の仕組みを指導したのが8割(予定も含む)だった一方、模擬選挙が実施できたのは4割(同)にとどまるなど、最低限の知識を学ばせるのがやっとのようです。 もちろん高校では、公民科を中心に、これまでも主権者教育が行われてきたはずです。しかし、実際に投票などで政治参加を行うのは、卒業後の20歳になってからということで、まずは知識として学ぶのが先だという風潮があったことは否めません。

主権者教育、新科目「公共」を核に学校全体で取り組む

そこで、ちょうど検討が始まっていた学習指導要領の改訂(高校は2022<平成34>年度入学生=現在の小学4年生から)で、公民科に、これまでの「現代社会」に代えて、新しい必履修科目「公共(仮称)」を創設することにしました。「公共」では、倫理的・法的・政治的・経済的な「主体」となるために必要な資質・能力を、ディベートや模擬選挙、模擬裁判なども取り入れながら学んでいきます。

注意したいのは、主権者教育は「公共」ないし公民科にとどまらないことです。社会や生活のさまざまな課題に対して意思決定するには、情報科や家庭科などの知識も欠かせませんし、何より論理的に思考・判断・表現するためには、国語や数学などでの学習も重要です。また、すべての教科について、教科横断的な視点を取り入れるとともに、幼児期や小学校からの連続性の中で資質・能力を育もうというのが、今回の改訂の眼目です。「公共」を核にしながらも、学校教育全体で、主権者教育に取り組むことが求められます。

日本学術会議も今年5月、多文化共生やジェンダー(社会的性差)、東アジアの中の日本など、多様な公共性に着目した「市民性(シチズンシップ)教育」を行うよう提言しています。参院選の大きな焦点の一つである消費増税ひとつ取っても、これからの社会の課題は山積です。人任せではなく、一人ひとりが意思決定し、社会的な合意形成を図っていく力を付けるためにも、主権者教育が急務なのです。

  • ※提言「18歳を市民に-市民性の涵養(かんよう)をめざす高等学校公民科の改革—」(日本学術会議)
  • http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t228-3.pdf

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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