障害者差別解消法が施行、どうなる学校の「合理的配慮」

2016(平成28)年4月から、障害者差別解消法が施行されました。これによって、障害を理由とする差別が法的に禁止された他、障害のある子どもたちが、一般の子どもたちと同じような活動をできるようにするための「合理的配慮」の提供が、国公立学校に義務付けられることになりました(私立学校は努力義務)。しかし全国の国公立学校では、「合理的配慮」の範囲をめぐって、まだまだ試行錯誤が続いているようです。

障害者差別解消法では、障害がある人々が、一般の人々と同じように活動をすることを阻害する、物理的・心理的な壁を「社会的障壁」と呼んでおり、これを除去するための「合理的配慮」の提供を、行政機関などに義務付けています。行政機関の中には、当然、小学校から大学までの、国公立学校も含まれることになります。その一方で、「合理的配慮」には、「均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」という条件が付いており、障害のある子どもとその保護者などの要望をどこまで受け入れるべきかが、国公立学校の関係者の間で、大きな問題となっています。

このため、教育委員会の中には、「合理的配慮」に関するガイドラインやハンドブックなどを作成する等の取り組みをしているところもあります。たとえば、2016(平成28)年1月に福岡市教委が作成したガイドラインを見ると、合理的配慮を提供できない「過重な負担」の例として、(1) 業務等への影響の程度(業務等の目的・内容・機能を損なうか否か)(2) 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)(3) 費用・負担の程度……などを挙げる一方、「適切な履行が確保されず、学校等が法に反した対応を繰り返し、自主的な改善を期待することが困難」である場合は、教委がその学校を指導すると明記しています。

ただ合理的配慮は、制度的に決まった内容があるものではなく、障害のある子どもや、その保護者などからの申し入れによって行われる「個別に実施される措置」です。申し入れる側も受ける側も当初は、どのようなことを求めてよいのかわからない、ということもあると思われます。

その際、大きな参考となるのが、国立特別支援教育総合研究所の「インクルーシブ教育システム構築支援データベース(インクルDB)」です。同テータベースは、学校種別や障害別などの事例を集めており、「合理的配慮」のさまざまな実例を知ることができます。

障害者差別解消法の施行により、一般の学校に入学を希望する障害児が増えてくると予想されます。ここで重要なことは、「合理的配慮」の提供が、障害のある者と、障害のない者が共に学ぶ「インクルーシブ教育」の理念に基づいているということです。学校は、単に「合理的配慮」をすればよいのではなく、すべての教職員と一般の児童生徒が障害のある子どもたちを理解し、受け入れるようにすることが求められているのです。

言い換えれば、このような環境が学校で実現すれば、「合理的配慮」などを特別に議論する必要もないのかもしれません。くれぐれも「木を見て森を見ず」という状況にならないようにすることが、一般の学校に求められているといえるでしょう。

(筆者:斎藤剛史)

プロフィール


斎藤剛史

1958年茨城県生まれ。法政大学法学部卒。日本教育新聞社に入社、教育行政取材班チーフ、「週刊教育資料」編集部長などを経て、1998年よりフリー。現在、「内外教育」(時事通信社)、「月刊高校教育」(学事出版)など教育雑誌を中心に取材・執筆活動中。

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