科学の「判断」ができる市民の育成を 学術会議と中教審

日本を代表する科学者の集まりである「日本学術会議」が、高校の理科教育に関する提言を公表しました。物理・化学・生物・地学の知識をバラバラで覚えるのではなく、これからの社会に責任を持つ市民として必要な科学リテラシー(活用能力)を身に付けさせるよう求めています。ただ、こうした点は、高校に限った話ではありません。中央教育審議会では現在、学習指導要領の改訂を検討するなかで、幼児教育から続く小・中・高の理科教育を、他教科などとも共通の観点で見直すことにしています。

  • ※日本学術会議 提言「これからの高校理科教育のあり方」
  • http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t224-1.pdf

「これからの社会に責任を持つ市民として必要な科学リテラシー」と言った時、この時期に思い起こされるのが、間もなく丸5年を迎える東日本大震災でしょう。東京電力福島第一原子力発電所の事故により、放射能に関する専門用語や数値が、すっかり日常的な会話になりました。

しかし、当時も、原発の再稼働が次々と検討されている現在も、果たして市民一人ひとりが、科学的根拠をもとに、社会生活をどう創っていくべきか、判断ができていると言い切れるでしょうか。提言書でも、「教訓が活かされているとは必ずしも言えない」としたうえで、「日進月歩の科学・技術の成果を現代社会に取り込むことのメリットとリスクの検討は、けっして各分野の専門家だけの判断に任せられる状況ではない」と指摘しています。

提言書も指摘しているとおり、「決して受験のためだけに」ではなく、科学リテラシーを身に付けるために、理科を学ぶ必要があります。具体的には、課題解決型の能力が育成されるよう、理科の4領域を再編成した「理科基礎(仮称)」を必修科目とし、6~8単位を割り当てるよう求めています。

一方、次期指導要領をめぐっては、教科や学校段階を超えて、「何を知っているか、何ができるか」(個別の知識・技能)だけでなく、「知っていること・できることをどう使うか」(思考力・判断力・表現力等)、「どのように社会・生活と関わり、よりよい人生を送るか」(学びに向かう力、人間性など)という「育成すべき資質・能力」を明確化しようとしています。

理科に関しても、エネルギー・粒子・生命・地球の各領域(現行と同じ)を通じて、自然現象を説明できる法則や理論を構築することを目指すとともに、課題把握(発見) → 課題探究 → 課題解決 → 次の課題解決のプロセス……といった学習過程を通じて、資質・能力を育むことを検討しています。先生が膨大な知識を一方通行で教え、生徒は黙々と覚えるだけというのではなく、アクティブ・ラーニング(課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び、AL)という授業の手法によって、子ども自身が自分なりの学びを深めていく方向です。

そうした学びが、理科という特定の教科にとどまらないという視点も、見逃してはいけません。科学と社会生活を考えるうえでは、社会(地歴・公民)や家庭科など、さまざまな関連が出てきます。何より、学校での学びを、学校内や入試だけにとどめていては、何にもならないのです。

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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