公立小中の先生の数、「525人増」で大丈夫?

国会で、2016(平成28)年度の予算が審議されています。教育分野では、国が原則として3分の1を負担している公立小・中学校などの教職員給与(義務教育費国庫負担)の在り方が、予算折衝の大きな焦点の一つだったことは、これまでにも折に触れてお伝えしてきました。昨年末までに「525人増」(予算額11億円増)ということで政府案が決着したのですが、この結果をどう考えればよいのでしょうか。

  • ※文部科学省 2016年度予算
  • http://www.mext.go.jp/a_menu/yosan/h28/1361362.htm

まず確認しておきたいのは、プラスになったのは、学校・学級数を基本にして自動的に算出される「基礎定数」ではなく、特定の課題などに対応するために担当教員を手厚くする「加配定数」だということです。525人の内訳は、(1)「創造性を育む学校教育の推進」=小学校における専科指導の充実140人、アクティブ・ラーニング(AL)の推進50人(計190人)、(2)「学校現場が抱える課題への対応」=特別支援教育の充実50人、いじめ・不登校への対応50人、貧困による教育格差の解消50人、外国人児童生徒等への日本語指導25人、統合校・小規模校への支援60人(計235人)、(3)「チーム学校の推進による学校の組織的な教育力の充実」=学校マネジメント機能の強化80人、養護教諭・栄養教諭等の充実20人(計100人)……です。

ただ、実際に内訳のような人数しか増えないというわけでもありません。定数はあくまで国が負担額をはじき出すための数値であって、3分の2を負担する都道府県教育委員会に、1クラスの児童生徒数を引き下げたり、加配を更にプラスしたりするなど、一定の裁量が認められています(総額裁量制)。たとえば小学校英語や小中一貫教育に国以上の力を入れたいと考えれば、独自に小学校の専科教員を更に手厚くすればよいわけです。

  • ※少人数教育の推進
  • http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/hensei/1291348.htm
                   

ただ、予算上の積算根拠というのは、国として一つのメッセージであり、各県の動向を一定制約することも確かです。そう考えると、3ケタ台の増加は専科指導と「チーム学校」分だけということになり、通常学級も含めて学校現場が最も悩んでいる課題の一つである特別支援教育には、50人しか充てられていません。50人といえば、ほぼ各県に1人という数値で、せいぜい県レベルで指導的な教員に振り向ける程度にしかなりません。

現在、中央教育審議会で検討が進められている次期学習指導要領では、ALを全教科・科目で行うだけでなく、教科を超えた視点でカリキュラムを組むことも求められています。もちろん中教審の答申が正式に出るのを待って、2017(平成29)年度から予算化するのが筋といえば筋なのですが、そのための準備が各県1人の加配で十分できるのか、心配になります。

もう一つ気になるのは、予算折衝の過程で、当初から見込んでいた児童生徒減=学級減に伴う「自然減」3,100人減だけでは足りず、学校統廃合で見込まれる定数減900人を突然盛り込んで、計4,000人減るところを525人増により差し引き3,475人減とした……ということです。

机上の数合わせを繰り返すのではなく、これからの公教育に必要な教育や教員数の在り方はどうあるべきか、本格的な議論が望まれます。

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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