これからの時代に求められる「学習時間」とは

ベネッセ教育総合研究所が発表した「学習基本調査」の結果が、大きな関心を集めています。1990(平成2)年に平均93.7分だった高校生の平日の家庭学習時間は、16年後の2006(同18)年に70.5分と25%減少していたのですが、15(同27)年の最新データでは84.4分と、20%増になったからです。25年前の水準には届かなかったものの、急回復を遂げたことは間違いありません。この間、いったい何が起こったのでしょうか。また、今後この数値をどう考えるべきでしょうか。

2006(平成18)年までということで、まず思いつくのが「学力向上路線」です。1998(平成10)年に告示された学習指導要領と、完全学校週5日制(それまで土曜日は月2回休み)が2002(同14)年4月から全面実施に入る直前の1月、いわゆる「ゆとり教育批判」に応える格好で、遠山敦子文部科学相(当時)がアピール「学びのすすめ」を発表し、発展学習や補充学習の充実などを求めました。2003(平成15)年12月には、指導要領自体を一部改正する異例の措置も取りました。高校教育界では、文科省が「スーパーサイエンスハイスクール」(SSH)指定事業を始めたことが呼び水となり、東京都教育委員会の「進学指導重点校」を皮切りに、進学対策へのてこ入れが全国的に広がっていきました。

2006(平成18)年の数字は、そうした効果がまだ表れていなかったという見方もできなくはありません。もともと高校生の学習時間は、生徒数も多い中堅学力層での大幅な減少が、平均を押し下げる大きな要因となっていました。最初は実績ある進学校だけだった重点指定校の対象が中堅校などに広がったのも、このあとからでした。今回、学力中上位層(進研模試での偏差値50以上55未満)で急上昇したことにみられるように、小学校からの積み重ねを含めて、生徒の学習時間を増やそうした学校側の努力が実を結んだことは、疑いありません。

それでも1990年(平成2)の水準に届かなかった背景には、18歳人口の急減があるでしょう。「大学全入時代」に入り、もはや大学受験というニンジンをぶら下げて生徒に勉強させられる時代ではなくなってしまったわけです。そうした困難ななかでも、生徒の学習時間を伸ばした高校側の努力は、ますます評価されてよいでしょう。

ただ2015(平成27)年までに、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)が始まったこと(07<同19>年4月から)、「学力の3要素」(知識・技能、思考力・判断力・表現力、学習意欲)が学校教育法に規定されたこと(同年6月)、その集大成として現行の学習指導要領が告示されたこと(小中学校は08<同20>年3月、高校は09<同21>年3月)が、現場の努力と結び付いたことが、大きな要因と言うべきかもしれません。注意すべきは、単に知識の量を増やすだけでなく、思考力等や意欲といった、幅広い「学力」が前提になっていることです。

現在、大学入試改革を含めた「高大接続改革」と、指導要領を改訂する「教育課程改革」の論議が、急ピッチで進んでいます。思考力を育成するためにも一定の知識が必要だということは学力向上対策の中で確認されたことですが、ただ知識をやみくもに暗記するだけで、社会に出てからも通用する学力に自然とつながるとも限りません。学習時間とともに、主体的・協働的な学びという学習の「質」も、校内外で問われる時代が到来しつつあるのです。

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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