軽いノリで犯罪に巻き込まれる 「いい子」たち

先月に引き続き、兵庫県立大学の竹内和雄准教授にお話しいただきました。今回は「ふつうのいい子」がネットを通じて犯罪の加害者・被害者になっている事件を取り上げ、その防止方法や相談窓口を具体的に紹介いたします。※2015年4月現在 (取材・文/長谷川美子)

これって犯罪? それともセーフ?

突然ですが、次のケースは逮捕・書類送検になる可能性があると思いますか?

1 「□□学校の○年〇組の△△はカンニングした」などとネット上でつぶやく。→実際の学校名、クラス、名前を書いた。

2 「××うざい」(「××きしょい」)とSNSに書き込む。→クラスのグループチャットで何度も書いた。

答えを言いますと「どちらも逮捕・書類送検される可能性があります」。具体的にどんな罪に当たるのかを補足します。

1 「□□学校の○年〇組の△△はカンニングした」などとネット上でつぶやく。→実際の学校名、クラス、名前を書いた。
   これは名誉棄損罪で、懲役3年以下または罰金50万円以下

2 「××うざい」(「××きしょい」)とLINEに書き込む。→クラスのグループチャットで何度も書いた。
    これは侮辱罪で、拘留(30日未満)または科料(1万円未満)
(※『スマホ時代に対応する生徒指導・教育相談』」竹内和雄著/ほんの森出版 2014刊より)

 さて、この問題をお子さまにも聞いてみると、保護者の方とは全く違う反応を示すかもしれません。多くの大人は、「リアル社会でやってはいけないことはネットでもいけない」と常識的に思っています。でも子どもたちには、いわゆる大人の常識は驚くほど通用しなくなってきているのです。

ネット上なら
何を書いてもいいんじゃない?

 子どもたちはそれほど悪気がないままに、個人攻撃、誹謗中傷ととれる内容など、さまざまなことをメールやインターネット上に書き込んでしまいます。どこかで「ネット上なら何を書いてもいい」「匿名なら大丈夫」「友達限定なら大丈夫」と誤解しているところがあるのです。しかし、少しネットの知識がある人なら、いろいろな情報をつなぎ合わせると、「書き込んだのはだれか」を特定することは十分に可能です。実際に書き込みが原因で、多くの学生が書類送検され、そして逮捕されています。

 私は、滋賀県と大阪府の中学生1,361人を対象に、2010年、ネット上での子どもたちのふるまい調査を行いました。その調査結果を見て、私たちの想像より多くの中学生が、その行いが犯罪になるとは知らずに、加害者になる可能性が高いことを知り、危機感を覚えました。とくに、先ほど挙げた「名誉棄損罪」「侮辱罪」以外にも「脅迫罪」「不正アクセス」などを、「見聞きしたことのある」人が多く、侮辱罪の可能性のある行為に関しては、男子の15%以上が経験していました。

冷静に事実を伝えると
子どもたちは納得する

子どもたちに「これらの行為が犯罪になり、実際に逮捕されている人もいるよ」と言うと、「この程度で犯罪になるの?」「オレ、やばいかも」「知っていたらやらなかった」など一様に驚き、ショックを受けます。多くの子どもたちは、自分のやっていることが犯罪になる可能性があるとわかっていればやりません。逆に言えば、やってしまうのはおもに犯罪だとわかっていない子どもたちなのです。

だから子どもたちを、わざわざ叱ったり、脅したりする必要はありません。ただ冷静に、実際に逮捕された人のニュース記事を見せながら、事実を伝えるだけで十分犯罪を予防する効果があります。同時に、「自分や相手のスマホ上でいくら書き込みを消しても、ケータイ電話会社などには記録が残っている」という事実も教えておきたいものです。「匿名なら何を言っても大丈夫」という子どもたちの誤解を解くことができます。

他にもお子さまに十分に注意しておきたいのが、「悪ふざけ投稿」です。ホーム下の線路で撮影した危険行為の写真、店内や施設内での迷惑行為の写真など、学生の「悪ふざけ投稿」による炎上は、今でも全国各地で発生しています。本人たちはほんの「悪ふざけ自慢」のつもりでも、学校で処分を受けたり、書類送検や逮捕されたりするケースも多々あります。お子さまには「悪ふざけ投稿」は深刻な事態になりかねないこと、「友達」限定に送っても拡散する危険があること、この2点を伝えなくてはなりません。事実、炎上になったケースの多くは、「友達」限定に送った写真が、おもしろがって「友達」の「友達」へと転送され、やがて関係のない「第三者」へと拡散したことで起きています。「悪ふざけ投稿」に関する実例は、「Twitter 炎上」「悪ふざけ投稿」といったキーワードで検索すればいくつも事例が出てきます。実際の事例を見せながら冷静に危険性を話せば、お子さまは真剣に耳を傾けてくれるでしょう。

こんなはずじゃなかったのに

 さて、子どもたちが無自覚に被害者になるケースもあります。それは「悪意をもった大人」が、偽りの写真や情報で、同性の中学生を装って近づいてきたり、なんでも話を聞いてくれる優しい異性を装って近づいてきたりするケース。オンライン上では、性別や年齢、顔写真など、あらゆる情報でうそをつくことができます。その危険をさほど意識していない子どもたちは、SNSで知り合った相手の顏写真や優しい言葉を、本人のもの、本心だと信じます。そして自分の個人情報や秘密を教えたり、あるいは異性として好意をもったりした結果、ある日裏切られ、秘密をネタに脅されたり、性犯罪の被害者になったりしてしまうのです。このような事件の相談は、実は後を絶ちません。お子さまには、SNSで「会ったことのない相手」とやりとりするときには、特別な注意が必要で、もしかすると相手が送ってくる写真や情報がうそかもしれないこと、だからこそ自分の写真や個人情報を簡単に送ってはいけないことを、一度冷静に伝えておく必要があると思います。

フィルタリングは絶対つけるべき

こうした危険な出会いから子どもを守るために、有害サイトへのアクセスを制限するフィルタリング機能があります。けれども近年フィルタリングをする子どもの数がぐっと減ってしまいました。子どもたちに設定しない理由を聞くと、いちばん多いのはLINEができないから」です。実際は、フィルタリングを設定しても「カスタマイズ」機能でお子さまの使いたいLINEは使えます。そのことを保護者の方が知ってさえいれば、フィルタリングを外してしまう子どもは減り、危険な犯罪件数も減るでしょう。携帯電話販売店に行けば簡単に設定してくれますし、各ケータイ会社のサイトなどに、スマホ用の「フィルタリング」と、カスタマイズの紹介があります。カスタマイズは保護者の簡単な操作でできるので、ぜひ確認してみてください。

ただしフィルタリングも、音楽プレーヤーやタブレットPCなどには対応できない場合が今のところまだあります。これらの音楽プレーヤーやタブレットPCのWi-Fi接続でネットをしている場合は、フィルタリングの危険な抜け穴となってしまうことには注意が必要です。

「だれに相談すればよいかは知っているよ」
と言えるのが頼もしい大人

ところで、こうしたネット犯罪では、お子さま自身が「おかしいな?」と気づいた時点で、先生や保護者など身近な大人に相談できれば、小さい被害ですむ可能性は高いです。だからこそ私たちは、いつもお子さまにとって、安心して相談できる大人であることが必要なのではないでしょうか。

大人だってネット上のあらゆることに精通することは難しいものです。せめて対策を知る人や窓口を知って、「もしも何かあったら私に言ってね。だれに相談すればいいかは知っているよ」と日頃から伝えていれば、お子さまはとても心強いことでしょう。

以下がネット犯罪に関する相談や通報の代表的窓口です。情報には変更も起こりうるので、ときどき確認して更新しておく必要はありますが、こんな問題のときはここに、というのを覚えておくと、何かあったとき早急な対応ができます。

 警察(都道府県警察本部のサイバー犯罪相談窓口等一覧)
http://www.npa.go.jp/cyber/soudan.htm

各都道府県にはサイバー犯罪を専門に扱う部署が設置されています。上のURLは、各都道府県のサイバー犯罪相談窓口一覧。ここにある電話番号やメールアドレスに相談できます。その他、警視庁総合相談センターの専用ダイヤルとして「#9110」などが用意されています。全国どこからでも、その地域を管轄する警察本部などの相談窓口につながります。警察では問題解決に向けて、相談者の要望などを尊重しながらさまざまな対応を行います。

 ●消費生活センター等の相談窓口(地方公共団体が設置)
http://www.kokusen.go.jp/map/(「各地の消費生活センターや消費生活相談窓口の紹介」国民生活センターウェブサイト)

「お金」がからんだ問題の相談は、消費生活センターが詳しいです。消費者ホットライン「0570-064-370」に問い合わせると、最寄りの消費生活相談窓口を案内してくれます。

「無料アプリをダウンロードしたら、突然、料金を請求された」「アダルト情報サイトに接続して年齢を確認したら入会となり、高額料金を請求された」というケースもここで相談できます。

 ●法務省・人権相談受付窓口
・みんなの人権110番(0570-003-110)
・子どもの人権110番(0120-007-110・フリーダイヤル)

差別や虐待,パワーハラスメントなど,様々な人権問題についての相談を受け付ける相談電話です。

 ●違法・有害情報相談センター
http://www.ihaho.jp/aboutus/index.html

ここでは違法・有害情報に対する削除などの対応方法を案内してくれます。ただし相談者の代わりにプロバイダやサイト管理者等への削除依頼をしてくれるわけではありません。

 ●インターネット・ホットラインセンター
http://www.internethotline.jp/about/hotline.html

インターネット上の違法・有害情報の通報受付窓口です。通報することで、警察への情報提供やサイト管理者への削除依頼、送信防止措置などを行ってくれます。

 さて、これまで子どもたちに関係するネットをめぐる犯罪とその対策を見てきました。昔はトラブルといえば、いわゆる「不良」や「ヤンキー」と呼ばれる子どもが起こすことが多かったです。今、トラブルを起こすのは、勉強もできる、従順な「いい子」がスマホ経由で起こしています。スマホの問題はスマホを見ていても、本質的なところは何も見えてきません。スマホを持っている子どもたちの心を見ていかなくてはいけない、「スマホの問題は心の問題」、と私は思っています。加害者になってしまう子どもたち、被害者になってしまう子どもたち、それぞれの心の問題についても、この記事をきっかけにお子さまと一緒に語り合って、考えていただければうれしいです。

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さて今回はスマホを通じて犯罪に巻き込まれたり、ごくふつうの子が加害者になってしまう可能性のあるケースを取り上げました。次回は、自治体の取り組みについて、ご紹介します。

(次号へつづく)

プロフィール


竹内和雄先生

兵庫県立大学環境人間学部准教授。公立中学校で20年生徒指導主事等を担当(途中、小学校兼務)。市教委指導主事を経て2012年より現職。生徒指導を専門とし、ネット問題、いじめ、不登校等、「困っている子ども」への対応方法について研究している。文部科学省、総務省等で、子どもとネット問題等についての委員を歴任している。ウィーン大学客員研究員。

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