受験勉強の効果を上げる運動とは?

受験を控えているご家庭では、本番が近くなり、「今はスポーツのことは忘れて勉強一筋!」と思っているかたも多いと思います。でも「運動しないで勉強だけに集中すればよい」というのは、大きな誤解です。今回は、受験勉強の効果を上げるための、運動の役割についてお話ししたいと思います。

突然ですが、皆さん「眠い時にタバコを吸うと目が覚める」という話を聞いたことはありませんか? 確かにタバコを吸うと目が覚めるということは事実です。でも、実はタバコの成分そのものには、目を覚ます効果はまったくないのです。では、なぜタバコを吸うと目が覚めるのでしょうか?
それは、「タバコを吸うという動作そのもの」が目を覚ますことを促進しているということなのです。タバコを吸う時には、部屋から出たり、タバコをくわえてライターで火をつけたりするというように、身体を動かします。そして身体を動かす際には、脳から身体に信号が送られます。それによって脳が活性化されて目が覚めるのです。


運動は、勉強に疲れた脳を活性化させる……だけではない!

これを受験勉強に置き換えてみましょう。参考書などで学習している時は、脳の同じ部分を長い時間使っています。長時間同じ部分を使っていると、脳は疲れて働きが次第に停滞してきます。そんな時に、適宜運動を行い脳の別の部分に刺激を与えることで、脳が活性化するのです。
ここで大切なのは、「脳が活性化するということは、単に、目が覚めるという効果だけではない」ということです。脳が活発にはたらくということは、思考力や記憶力の強化につながり、学習効果の向上に直結します。つまり、適度な運動は、脳の活性化を促し、受験勉強の成果を上げるのです。


脳への複数の刺激が記憶力強化につながる!

脳はひとつの部分だけでなくさまざまな部分を刺激することで、より活性化します。記憶には、「短期記憶」と「長期記憶」があります。誰でも、大切なことは長く記憶に残したいと思うのが普通です。実は、この「長期記憶」のために、運動が貴重な役割を果たすと考えられるのです。

たとえば、足の指の間に手の指を入れてみてください。手をグリグリと動かすと、ちょっと痛いですが、眠い時にこれをやると目が覚めます。これだけでも脳は活性化しています。さらに足をグリグリしながら、それまで勉強していた英単語や歴史の年号を思い出すようにします。つまり、学習という刺激と、運動という異なった刺激を脳に与えることで、脳は学習だけに使う場合と比べて、パターンの異なる刺激を受けてより活性化し、結果として記憶する効果も高まるのです。
このように、脳に与える刺激のバリエーションを増やすことで、「長期記憶」を増やせる可能性が広がるのです。では、学習効果を上げる「適度な運動」の具体例をご紹介しましょう。


学習効果を上げる運動(1)アイソメトリック

最初は「アイソメトリック」というものです。「アイソメトリック」というのは、日本語では「等尺性筋活動」といって、関節の角度を一定にして力を出すやり方のことです。腕立て伏せは、床につけた腕を曲げたり伸ばしたりする運動ですね。ここで、腕を曲げた状態で静止してるところをイメージしてください。この時、腕を曲げ伸ばしした時とは違う形で筋肉に負荷がかかります。この静止した状態で筋肉に力を加えることがアイソメトリックです。腕立て伏せの静止状態は、けっこうハードなので、誰でもできるものではありません。そこで、ここではもっと手軽な方法を紹介しましょう。

まず、肘(ひじ)を曲げて両方の手のひらを胸の前で合わせてください。拝む時の格好より少し肘を上げた状態です。そして、ゆっくり息を吐きながら、手のひらと手のひらを押し合います。すると胸の前の筋肉、大胸筋に力が加わり、10秒間ほど力を入れると筋肉が活性化してくるのが感じられると思います。

次は、左手の手のひらを上にして、身体の前で軽く曲げてください(手は軽く握ってもけっこうです)。そして右手で左手の手首の下あたりを押さえます。その状態で、右手で左手を下に押して、左手は右手の力の方向と逆に、上に上げるようにしてください。これもゆっくり息を吐きながら10秒間、左右交互に行ってください。


アイソメトリック


このアイソメトリックを2~3セット行えば、これだけで頭がスッキリするはずです。アイソメトリックは、筋力強化に役立ち、さらに長く毎日続ければダイエット効果もあるので、保護者の方々もぜひご一緒にやってみてください。


学習効果を上げる運動(2)脳の血流を上げる

脳の神経回路が働く時、血液の流れがその効果的な働きをサポートします。逆に言うと、脳の血流が滞ると頭が働かなくなってきます。そこで、勉強が続いて疲れた時、眠気を感じた時には、脳に血液を送ることも活性化のために効果的です。

この方法で最も単純なのは、「逆立ち」です。約10秒逆立ちするだけでも効果があります。しかし、逆立ちは案外難しく、できる人とできない人がいます。そこで、誰でもできて逆立ちと同じ効果が期待できる方法を紹介します。
まず椅子に腹ばいになります。そしてその状態で、椅子から落ちないように気を付けながら、ゆっくりと頭を床に向けて下げていきます。約10秒から20秒程度で十分です。この時、呼吸を止めると苦しくなってしまうので、ゆっくりと息を吐いたり吸ったりしてください。これは簡単に言うと、頭の位置を心臓より下にして、血液を頭に循環させるということですので、やり方はご自分でもいろいろ工夫してみてください。


脳の血流を上げる


学習効果を上げる運動(3)ストレッチ

ストレッチは誰でも知っていて、手軽にリフレッシュできる方法です。ストレッチとは、筋肉をゆっくり伸ばす運動ですが、柔軟性を身に付けるだけでなく血行も良くするので、脳の活性化のために効果的です。ストレッチの仕方は千差万別ですが、ここでは受験勉強のリフレッシュに目的を絞って手軽な方法を3つ紹介します。

まずは、手首のストレッチです。左手を、甲の部分を顔のほうに向けて前に出します。肘は伸ばしてください。次に左手の指を右手の手のひらで押さえて、ゆっくりと右手を手前に引きます。左手の手首の部分が伸びてくるのがわかると思います。左右交互にやってみましょう。
次は腕のストレッチです。左手を身体の前にして、右手で左手の肘を押さえて、そのまま左手の上腕部を伸ばします。これも左右交互に。
最後は首のストレッチです。右手で頭の左部分を軽く押さえます。そのままゆっくり頭を右側に引き寄せます。左の首の筋が伸びるのがわかると思います。


ストレッチ


これらのストレッチはすべて、息をゆっくりとしながら、左右交互に10秒ずつ3セット程度行ってください。この3種類だけでも頭がスッキリとすると思います。

いかがでしょうか。今回は受験勉強中に手軽にできるリフレッシュ法をご紹介しましたが、これらの運動をするタイミングは、続けて勉強していてちょっと疲れた時、眠くなってきた時などがよいでしょう。全部やる必要はありませんし、時間も5分程度で構いません。こういうちょっとした方法を取り入れることで、勉強がはかどり学習効果が高まります。そして、勉強はもちろん健康のためにも良いので、保護者の方々もぜひお子さんと一緒にやってみてください。


プロフィール


深代千之

東京大学大学院 総合文化研究科 教授。(社)日本体育学会理事、日本バイオメカニクス学会理事長、日本陸上競技連盟元科学委員。文部科学省の冊子や保健体育教科書の作成にも関わる。*主な著書:「運動会で1番になる方法」「運脳神経のつくり方」など

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