大事なのは親子が笑顔になれる時間を共有すること

 30年の歴史をもち、現在も国内外合わせて200万人以上の0~6歳児が学んでいる<こどもちゃれんじ>。幼児通信教育の分野で大きな支持を得ている理由は、その教材の豊かさにある。1・2歳児向け講座<ぷち>で、DVDを使った映像教材を開発するグローバル商品開発部baby/ぷち商品課の玉井裕香子さんに話を聞いた。

——幼児向けの映像や音響を開発・制作するうえで最も留意しているポイントを教えてください。

 乳幼児から2歳ぐらいまでは、聴覚はもちろん視覚、触覚、嗅覚、味覚などの五感が一挙に発達する大事な時期。まっさらな状態の子どもにどんな映像、音楽などを届けるかでその子の理解力や好奇心、あるいは性格形成にも影響を及ぼしますので、開発・制作する私たちは常に緊張感の中にあります。新しい教材を開発するにしても、従来のものに少し手を加え改良するにしても、本当にこれでいいのかと日々議論し、有識者の先生がたにも考えを求め、モニターチェックを何度も行っています。そしてプロトタイプを作ってからも、本当にこれでいいのかと、また実践、検証を繰り返していきます。

 私たち大人には、幼児期の記憶がありません。ですから開発に当たって、大人の感覚でよかれと思って作るのではなく、それぞれの年齢、月齢に合った喜び、不安、嫌がることのツボを見つける必要があります。それが結構難しい。それでも、対象が0~2歳ならその年齢の感覚にならないとよい教材は提供できないので、そこに視線をどう合わせていくかが重要なんです。
 もちろん、幼児に関する内外の文献に目を通し、学識経験者に学ぶことも多々ありますが、私が最も大事にしているのは、動物園や公園、アミューズメント施設、おもちゃ売り場などに出かけ、子どもたちの感情のツボをチェックすることです。

——フィールドワークで気がついたことはありますか。

 たくさんあります。例えば動物園に行くと、大人は大きなカバや強いライオンなど、ステレオタイプの「動物園の人気者」を見せようとしますが、子どもはカバよりコビトカバ、ライオンよりフラミンゴに目を向けます。なぜなら、それらは動きが早いから。幼児期にはまだ集中力がなく、動きが早い方に目がいく傾向があるので、ちょこまか動く方に興味をそそられるのです。

 そこに気づいてからは、動物の映像を見せるときにはなるべく動きがあるものにこだわって探すようになりました。逆に、注目してほしいものがあるときにはそこ以外の背景を絶対に動かさないなど、子どもの目の動きを考えた映像作りを心がけています。

 私には3人の息子がいます。フィールドワークの大切さを知ったのは、彼らを産んでから。彼らを公園やレジャーランドに連れていくと、職業柄どうしてもほかの子どもたちにも目が行ってしまいます。よくよく観察していると、私がモニターやオーディションで接しているときとは違うツボで反応していることがありました。大人の視線に囲まれた中で動くのと、子どもたちだけの中で本能の赴くまま動くのでは違いがあったのです。

 ダンスの振り付けなどはどういう動きだったら1度見ただけでまねできるのか、どう誘いこんだら子どもが一緒に踊りたくなるのかなど、たくさんの子どもたちの反応を一度に観察できるので、レジャーランドやイベント会場は特に学びの多い場所です。

 また、正しい日本語を耳に届けるため、ナレーションのイントネーションにも細心の注意を払っています。子どもの挨拶は「おはようございます」と語尾を上げるのではなく、フラットなイントネーションにしています。元気な声で挨拶のナレーション撮りをしようとすると「おはようございます」と語尾が上がってしまうのですが、正しいイントネーションは語尾の強調はしないので、そこはあえてフラットにしています。
 言葉を覚えるための歌には「デン・デン・デンシャ」「リン・リン・リンゴ」など言葉を分割し、反復することで子どもが楽しくまねしやすいように工夫しています。さらには「りんご しゃりしゃり」 「いちご つぶつぶ」などオノマトペ(擬音語・擬態語)を意識的に入れることで、日本語の美しさ、リズムなどを体感してほしいとも思っています。

 映像教材は、音と映像を使って子どもが楽しく、感覚的にいろいろな物事を理解していける、という面でとてもよいメディアだと思っています。たとえば、「まる・さんかく・しかく」というテーマの場合は、図形をタイヤに見立てて、三角形のときにはワルツをBGMに流して映像はかっくんかっくんと転がして見せることで辺が3つあること、丸の場合は同じ音楽を止めずにつーっと流し、映像もスムーズに転がる様子を見せることで視覚・聴覚で図形を感覚的に理解できます。幼少期は楽しく・感覚的に初めてのテーマにふれることが一番大切だと感じています。

——DVDは知識や感覚をみがくだけでなく、しつけの部分も担っていますね。

 歯みがきやトイレなど幼児が嫌がるしつけ、友だちとの接し方、あるいはマナーに関することもしまじろうと一緒に身につけていってもらいます。特に1・2歳はイヤイヤを示す時期でもありますので、DVDでおうちのかたもまねしやすい歌や合言葉、ポーズなどを紹介することで、おうちのかたが子どもを誘いやすく、子ども自身もトイレに行くことや歯みがきなど、まるで遊んでいるような楽しい感覚で身につくように工夫しています。

 実際、多くのかたがたから、お子さまが「トイレ行く」「歯みがきしたい」と自分から言い出すようになったという声をいただいています。

——それにしても細かい…。

 頭がまっさらな幼児に教材を使ってもらう以上、一語一句、音の符割、動作、色合い、デザインなどそれこそ重箱の隅をつつきながら、これで本当にいいのかと日々スタッフ間で喧々諤々やっています。私たちの教材で子どもたちの「生きるチカラ」が養われると思ったら、とても安穏としていられません。

 <こどもちゃれんじ>の武器は、子どもたちが遊びながら知識を習得できること。学ぶことは「楽しいこと」と子どもの頃にインプットされれば、小学生、中学生になっても進んで机に向かえるでしょうし、社会人になっても努力が苦じゃない人間になってくれると思います。

 私がそう自信をもって言えるのは、<こどもちゃれんじ>には30年間の歴史の中で、毎年数多くの子どもたちに使ってもらってきた実績があり、その声を拾い上げ、分析し続けてきた積み重ねがあるから。これは私たちの大きな財産になっています。
 またDVDにはまねをしたときに親子で思わず笑顔になれるようなしかけもふんだんに盛り込んでいますので、ぜひお子さんと一緒に楽しんでいただきたいと思います。

(文=吉井妙子)

プロフィール


吉井妙子

スポーツジャーナリスト。宮城県出身。朝日新聞社に勤務した後、1991年に独立。同年ミズノスポーツライター賞受賞。アスリート中心に取材活動を展開し2003年「天才は親が作る」、2016年「天才を作る親たちのルール」など著書多数。