子どもの落ち着きがない原因と対応法を教育心理学の専門家が解説

子どもによって性格はさまざまだとわかっていても「うちの子はどうしてこんなに落ち着きがないの?」と疑問を抱く保護者のかたもいらっしゃるのではないでしょうか。
特にお子さまが保育園や幼稚園、小学校に上がると「周りの子はちゃんと座っているのに……」と、周囲と比較して不安を感じるケースもあるようです。教育心理学の専門家である松尾直博先生に「落ち着きのない子ども」のさまざまな原因と、大人がとるべき接し方について伺いました。

この記事のポイント

落ち着きと脳の成熟

落ち着きに関係する注意・集中力や感情、テンション(覚醒水準)をコントロールする力は、脳の成熟の影響を強く受けます。落ち着きに関する脳の機能は、成熟が比較的ゆっくりなので、年齢が低いほど落ち着かないのは、ある程度当たり前のことです。3歳の子より6歳の子、6歳の子より12歳の子のほうが落ち着いているのは、落ち着きをコントロールする学習や経験の差だけではなく、脳の成熟の影響も大きいと考えることが大切です。

注意・集中力にはいくつかの種類がある

落ち着きと関係が深い注意・集中力ですが、いくつかの種類があります。

覚醒水準

意識がはっきりしていて、刺激に対してどの程度敏感に反応できるかを覚醒水準といいます。眠かったり、ボーッとしていたりする状態は覚醒水準が低い状態で、逆に興奮しすぎて刺激に対する反応が激しすぎる状態は覚醒水準が高い状態です。人が生活したり、学んだりするのに適しているのは、この間の状態です。幼い子どもは覚醒水準が低い状態と高い状態という極端な状態を行ったり来たりしがちです。

注意の持続・安定

子どもは、同じものや活動に安定して長時間注意を向けることが難しいものです。飽きてきたり、気が散ったりしがちです。脳の成熟がこのことに影響しているのですが、飽きやすい、気が散るということは、子どもがさまざまなことに興味を向ける、何でもやりたくなってしまうという点で、発達的に意味のあることなのかもしれません。保育園や幼稚園では短い活動をリズムよく切り替えることが多いですし、小学校でも「モジュール学習」という45分の授業を3つなどに区切って行う学びもあります。

注意の選択・配分

たとえば、小学校低学年の教室を思い浮かべてください。教室にはたくさんの子どもたちの姿、子どもの洋服に描かれたイラストや文字、掲示物、外から聞こえる体育をしている子どもたちの歓声など、たくさんの刺激にあふれています。授業が始まって、先生が話し始めたら、先生の顔を見ながら、先生の話を聞き、黒板に書かれたことに注意を向ける必要があります。これは選択的注意と呼ばれるものですが、幼い子どもはこれが得意ではなく、年齢が高くなると上手にできるようになります。
また、年齢が高くなると注意の配分も上手にできるようになります。何か活動に熱中していても、自分の名前が呼ばれると振り返って、返事をすることができます。これは活動に集中していても、何パーセントかの注意力は外からの刺激に配分できているからです。幼い子どもはこれが苦手で、何かに集中すると他のことに集中力を配分することができずに、指示を聞き落としたり、不注意からぶつかったり、物を落としたりすることも少なくありません。

ストレスなどによる落ち着きのなさ

脳の成熟と関係の深い落ち着きのなさについてここまで述べてきましたが、環境との関係や経験などによって落ち着きのなさが生じることもあります。もともとは比較的落ち着いていた子どもが、ある時期から落ち着きがなくなった場合は、今から述べるようなメカニズムが関係していることもあります。
まずは、ストレスによって生じる落ち着きのなさです。人がストレスを経験したときに起こりやすい反応として、意欲の低下、気分の落ち込みに加えて、イライラや不安があります。特にイライラや不安は、衝動的な行動、攻撃的な行動、じっとしていられずに動き回る、おしゃべりが止まらないなどの落ち着きのない行動として現れることが少なくありません。このような場合は、ストレスの源となっていることを取り除くことが重要です。
次に、ずっと何かを警戒していなければならない環境で生活すると、子どもが落ち着かなくなることがあります。地震などの災害を経験すると、いつでも避難行動などをとれるようにと警戒心が高まり、常に落ち着かない状態になります。また、家族内でけんかや言い争いが絶えない家庭で過ごすと、その状況にいつでも対応できるようにという警戒心が高まり、家庭外でも落ち着かない状態になることもあります。このような場合、警戒心を必要としない、安全で安心な環境で生活できるようにすることが重要です。

何かを得るための落ち着きのなさ

意識的に、あるいは無意識的に、何かを得るために落ち着かない行動をとる子どもがいます。何を得るためかというのはさまざまなのですが、代表的には次のようなことが考えられています。

注目を集める・コミュニケーションを求める

正しい行動ではみんなの注目を集めたり、話しかけたりしてもらえないため、落ち着かない行動をして注目を集めたり、誰かの声かけを引き出し、コミュニケーションをすることです。

エスケープ

やりたくないこと、つらいことから逃げ出すために、落ち着かない行動をとることです。

刺激を求める

何か刺激的なこと、ワクワクすることを得るために、落ち着かない行動をとることです。
同じ落ち着かない行動でも、得ようとする結果が異なる場合があります。たとえば、友だちにちょっかいを出す行動が、みんなの注目を集めたい、先生から話しかけてほしいという気持ちから生じることもありますし、苦手な活動から逃げるために生じることもあります。また、ちょっかいを出してトラブルを起こし、結果的に刺激的なことを得るために行うこともあります。

落ち着きがない子どもへの対応法

そもそも子どもは落ち着かないと考える

発達的に見て、子どもはそもそも落ち着かないものだと考えることが大切です。落ち着かないことで、いろいろなことをやってみたり、発想が広がったりなど、子どもの可能性を広げるしくみでもあります。けがをしたり、他の子にけがをさせたりしないように気を付けなければなりませんが、多少の落ち着きのなさは大人が許容する心構えが大切です。

落ち着きやすい環境や対応を整える

子どもは大人より、目に見えるもの、聞こえる音に影響を受け、落ち着かなくなりやすいです。集中してほしい時や場所では、これらの刺激を少なくする必要があります。おもちゃの棚を布で隠したり、テレビや音楽を消すなどの工夫が考えられます。また、まずは短い時間集中することから始め、少しやったら休憩や他の活動に切り替えるということをして、だんだんと集中する時間を延ばしていくのもよいでしょう。
ストレスや、警戒しなければならない環境で生活しているために落ち着かなくなっている場合は、そのような環境を改善する必要があります。
危険な行動などは止めなければならないのですが、叱られることばかりが増えて、ほめられることが少なくなると、自己肯定感が低下したり、人間不信が高まったりして、ますます落ち着かなくなる場合もあります。その子どものよさや長所にも目を向け、よいところは積極的にほめることがとても大事です。

許容される他の行動に置き換える

ずっと座っていることが苦手な子どもに、物やプリントの配布係をしてもらうなど正しく動き回ってよい役割を与えると、喜んで、きちんとやってくれる子どももいます。また、正しいことをしているときにみんなの前でほめると、よいことで注目してもらえることを覚え、注目を集めるために落ち着きのない行動をする必要がなくなるため、少し落ち着いてくる子どももいます。その子どもの行動の特徴や、得たい結果に合った、より許容される他の行動に置き換えることができれば、落ち着かない行動が減ることがあります。

専門家の力を借りる

落ち着かない行動を頻繁に、長期にわたってしてしまう子どもの中には、医学的に「注意欠如・多動症(ADHD)」と診断される子どももいます。ADHDのある子どもには、薬物療法が効果的なこともあり、医療機関の力を借りることがよいこともあります。また、自治体の保健所・保健センター、教育相談室(教育相談所)などに相談すると、落ち着かない子どもへの理解と支援について、役に立つ助言が得られることもあります。

まとめ & 実践 TIPS

子どもの落ち着きのなさには、さまざまな原因があるものです。そのため、ただ注意したり、叱ったりするだけではなかなか効果は見込めません。お子さまの特性や、落ち着きをなくしてしまう原因を見極めたうえで、まずは安心させてあげるようにしましょう。今回ご紹介した接し方のポイントを心がけて長い目でお子さまを見守れるとよいですね。

プロフィール


松尾直博

主な著書『絵でよくわかる こころのなぜ』(学研プラス)『ポジティブ心理学を生かした中学校学級経営 フラーリッシュ理論をベースにして』(明治図書出版・共著)『コアカリキュラムで学ぶ教育心理学』(培風館・共著)『新時代のスクールカウンセラー入門』(時事通信社)など


博士(心理学)。公認心理師。臨床心理士。学校心理士。特別支援教育士スーパーバイザー。専門は、臨床心理学や学校心理学。幼稚園、小中学校でのスクールカウンセラーの経験多数。

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