コーチング専門家の菅原裕子さんに聞く、思春期への対応(2)

コーチングに関心をもつ保護者の多くは、「子どもの力をもっと伸ばしたい」「子どもとの関係を良くしたい」など、最初は子育ての方法を改善したいという思いを抱かれています。しかし、コーチングを知るにつれて、まず保護者自身に改善すべき点があると気づいて意識が大きく変わっていきます。


保護者自身が成長に向けて努力を続けているという態度を見せる

 私がワークショップなどで最初にお伝えするのは、子どもを伸ばすためにはまず、保護者が自らを顧みる必要があるということです。親がどのような生活観をもち、どう生きているかが子どもに決定的な影響を与えるからです。親が生き生きと人生を楽しんでいないのに、子どもに対して「前向きになりなさい」と語っても説得力はありません。ある保護者が「コーチングを知って自分の人生が変わり、気づいたら子どもが成長していた」と話してくださったことが、とても印象的でした。

 

どうしても、子どもに対して感情的に怒ってしまうことに悩む保護者は少なくありません。普通、親子関係は強い一体感に包まれており、それ自体は子どもの自己肯定感を育むために不可欠なものです。ところが、そうした一体感の半面として、「感情をストレートにぶつけても構わない」という思いをどこかに抱いています。私自身、子どもを育てる親として、そのことはよくわかります。

 

しかし、自立して社会で生きていくためには、ありとあらゆる場面で、自律、つまり自分を律することが求められます。自律の大切さを教える立場の親自身が、事あるごとに感情を爆発させていたら、子どもは「感情のままに行動していい」と学んでしまうでしょう。ですから、親自身も自律して子どもに接する努力をする必要があるのです。

 

 

怒りを感じたら、まず冷静になる時間をもつ

 子どもに対して怒りを感じることがあったら、「ちょっと待ってね、今、ムカッとしちゃったからね」などと平静に振る舞いながら、まず自分の気持ちを落ち着かせましょう。そして自分を律してから、「今のは良くないと思う。なぜなら?と、順を追って説明します。そうすれば、子どもは怒鳴られるより親の指摘をきちんと受け止めますし、親の態度から相手に怒りの感情をぶつけず冷静に話すことの大切さを学び取るでしょう。そのようにわかっていても、つい怒ってしまうことはありますが、その時はきちんと謝るようにします。

 

親だからといって、聖人君子ではありません。もちろん、子どもの手本となるに越したことはありませんが、不完全であっても親自身が成長に向けて努力している態度を見せることが最も大切だと思います。

 

 

思春期は子どもの内面に価値観が不在になる「空白の時期」

 次に、思春期の子どもとの接し方について具体的に考えてみましょう。子どもは幼少期は保護者の価値観に沿って生きていますが、思春期を迎えると自分自身の価値観を構築しようとします。そのためには、いったん既存の価値観を否定する必要があり、それが保護者への反抗という形で表れます。ですから、反抗期は大人への成長の極めて重要な一歩なのです。

 

しかし、親からの自立を図って一人の人間として生きていく準備を始めたものの、自分の価値観を構築するのにはそれなりの時間がかかりますから、子どもの内面は「空白」の状態がしばらく続きます。だから私は、思春期のことを「空白の時期」と呼んでいます。

 

この時期の子どもは、返事が素っ気なくなったり、自分のことを話したがらなくなったりするため、保護者として不安や心配が募るものです。だからといって、子どもの離れた心を取り戻そうとするかのように強く干渉したり、逆に「どうせ返事をしないから」と放置したりすると、子どもの気持ちはますます不安定になり、自立を妨げてしまいかねません。子ども自身も肉体的・精神的な大きな変化にとまどい、気持ちの面でサポートを強く必要としているのを忘れないでください。

 

 

思春期に会話は減っても、子どもから目と心を離さない

 思春期の子どもからは、目と心を離さないことが大切です。特に子どものまわりの環境と良好な関係を保ってください。例えば、ふだんから学校の先生とコミュニケーションを取り、子どもの様子がおかしいと感じたら、すぐに連絡を取るようにします。また、子どもの友だちの保護者とつながりがあれば、やはり異変に気づきやすくなるでしょう。

 

そのうえで、子どもの話を十分に聞くことが大切です。「聞きたくても、話してくれない」という家庭もあるかもしれませんが、「私はあなたの話を聞きますよ」という態度を示すだけで十分です。例えば、次のように話してください。

 

「今の時期、いろいろな変化が起こって大変だと思う。

実はお母さんも、あなたが何も話さなくなって、どうしていいのかわからない。

でも、お母さんとお父さんは、あなたのことを見ているから安心しなさい。

そして、何か困ったことがあったら助けるから、必ず伝えてね」

 

このように伝えれば、ふだんは素っ気ない子どもも、「うん」と返事くらいはしてくれそうです。そして親子間の会話が減っても、「自分の気持ちを尊重し、あえて話しかけずにいてくれている」と理解して安心し、自分としっかりと向き合おうとする勇気が生まれてくるはずです。

 

 

プロフィール



1977年より人材開発コンサルタントとして、企業の人材育成の仕事に携わる。1995年、子どもが自分らしく生きることを援助したい大人のためのプログラム「ハートフルコミュニケーション」を開発。各地の学校やPTA、地方自治体などで講演やワークショップを開催する。2006年、NPO法人ハートフルコミュニケーションを設立。著書に、『子どもの心のコーチング—一人で考え、一人でできる子の育て方』(PHP研究所) 、『10代の子どもの心のコーチング—思春期の子をもつ親がすべきこと』(PHP研究所)、『コーチングの技術 上司と部下の人間学』(講談社現代新書)』(講談社)、『子育てが変わる親の心得37』(幻冬舎)など。

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