中学受験に英語は必要?3 異文化コミュニケーションの素地をつくる

英語教育をめぐる近年の変化は著しく、中学入試においても、「英語入試」や「グローバル入試」を新設する学校が増えています。
前回に続き、英語教育に詳しい右田邦雄先生に、小学生が英語に触れる際、注意してほしい点についてさらにうかがいます。

日本語と英語の違いに、感覚的に気づく

第1回でお話ししたとおり、お子さまが英語をやりたい!というのであれば、とことんやらせてあげてよいと思います。
私は以前、小学校低学年の子どもたちに英語を教えていた経験もあるのですが、目を輝かせて本当に楽しそうに通ってくる子もいれば、他にも習い事をたくさんこなして疲れた様子の子もいました。
英語への入り口は、音楽でもゲームでもビデオでも、なんでもよいと思います。子どもは自分が好きなことにはのめり込みますが、お勉強的なものにはあまり興味を示しませんので、無理強いは逆効果です。
「勉強」としての英語学習は、中学・高校になってからいくらでもできます。むしろ、せっかく小学校で英語に触れるなら、日本語との違いを感覚的に意識することが大切だと思います。

たとえば英語では、自分と相手を示す代名詞Iとyouをいちばん最初のほうで習いますね。
日本語には、自分や相手を指す語彙が「わたし、ぼく、おれ、わし、自分…」「あなた、あなた様、あんた、君、お前…」など非常に豊富です。
また、英語では兄弟姉妹はbrother/sisterと長幼を区別しませんが、日本語では「お兄ちゃん/弟」「お姉ちゃん/妹」などと使い分けます。また「お兄ちゃん!」とは呼びかけるけれど「弟」とは呼びかけませんね。
小学生の時点で、なぜ違うのかと考察する必要はありませんが、この違いに感覚的に気づいておくことは、英語の学習を進める上で非常に重要だと思います。言葉と文化は表裏一体です。言葉の差異に気づくことは、将来の異文化理解につながる、感覚的な基礎となるのです。

英語は「実技科目」。中学からはスポーツの感覚で

私は、英語は実技科目であり、体を使って学ぶものだと思っています。
特に中学校からの英語は、スポーツと似ています。たとえば水泳は水に入って泳がなければ上達しないのと同じで、英語も自分で使ってみなければできるようにはなりません。その一方で、正しい知識や根本的な理解も非常に大切です。まずは正しいフォームや理論を知識として学び、その知識を使ってたくさん泳いでみる……それが上達の早道ではないでしょうか。

本校の授業では習った例文を「使う」ことを大切にしています。
教科書を何度も音読して暗唱する、例文を自分なりにアレンジして簡単な1分間スピーチをする。その延長上に、年に1回のスピーチコンテストがあり、高校2年生になると全員が米国スタンフォード大学でプレゼンテーションを行います。と、言葉でいうと簡単に聞こえますが、そこまでいくには皆の涙ぐましい努力があります。そもそも話したい内容が浮かばないというケースが、我々教師にとってはいちばん困るんですね。
つまり、英語4技能は中学生、高校生になってからでも十分身につきます。むしろ小学校のうちに大切にしていただきたいのは、友だちとたくさん遊んだりけんかをした体験、自分とものの見方や考え方の違う人がいるという実感です。そういったことがコミュニケーション力の基礎となります。

一生もののコミュニケーション力を身につけるには

日本人同士でも、初対面の人と話すときは、一生懸命相手との接点を探りながら話題を掘り下げていきますね。そこでものをいうのは、結局人間的な幅の広さや深さではないでしょうか。国籍や文化の異なる人とのコミュニケーションにおいてはなおさらです。小学生時代は、そのようなコミュニケーションの素地、異文化への興味や感性を育てる時期だと思います。

中国に、「師附領進門、修行在個人」(師はあなたを入り口までは導くが、修行は自らしなくてはならない)ということわざがあります。「あの人ともっと話したい」「あの国の文化をもっと知りたい」……そんな思いがあれば、子どもたちは自分で門を開き、その先へと進んでいくでしょう。お腹が空けば自分で食べ物を探すのと同じことです。
最近は、多くの中高一貫校が「面倒見の良さ」を謳っており、保護者の方もそれを求める傾向があると思います。しかし、食べ物をスプーンで口まで運ぶような面倒見の良さは、むしろ子どもの学ぶ力を奪ってしまうのではないでしょうか。様々なしかけやきっかけを用意して、異文化への知的好奇心や探求心に火をつけること——それが結局は、一生もののコミュニケーション力につながるのです。

プロフィール



都立高校教諭から東京学芸大学附属中・高校を経て、現在宝仙学園理数インター教頭。専門は英語教育学(東京学芸大学)、TESOL(キャンベラ大学)。

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