『ベネッセ進学フェア2016』講演会 2017年度入試 これからの大学入試制度改革を踏まえて準備しておきたいこと

ベネッセ教育総合研究所の小泉和義氏が、教育環境の変化に対応した受験対策についてお話しします(『ベネッセ進学フェア2016』講演会 2016<平成28>年5月、東京国際フォーラムより)。

子どもたちが生きる未来社会とは

2100年までにどんなことが起こるのでしょうか。
日本では2020年にオリンピック・パラリンピックが開催されます。2050~60年には65歳以上の高齢人口が4割になります。

科学技術方面では、2045年にシンギュラリティーという、人工知能が人間の能力を超える出来事が起こり、頭脳労働さえもロボットが人間にとって代わるといわれており、オックスフォード大学のオズボーン准教授の計算では、あと10~20年のうちに人工知能が代替するようになる職業は、全米の702職種のうちの47%に上ります。つまり、今ある職業の内の半分くらいはなくなるのです。ある職業を目指して勉強しても、大人になったらその職業はなくなっていたということが、将来的にありうるのです。

そのため、今までは「正解をより速く、正しく見つけ出すこと」が求められていましたが、今後は「問いを自ら発見し、答えを創り出すこと」が求められるようになります。誰も答えを提示してくれませんから、主体性を持って考える姿勢が必要になるといえます。

教育環境の変化

現在の教育改革は「大学改革」「大学入試改革」だけではなく、高校、中学校、小学校、幼稚園・保育園のすべてを含んで進められています。なぜなら、子どものうちから、与えられた正解をそのまま身に付けるのではなく、自分で問いを見つけ、自分で解決していく力が必要になるからです。これを軸に教育改革のシナリオは書かれています。

2000年度から3年ごとにOECDで行われている「生徒の学習到達度調査」で、2000年に出題された「落書きに関する問い」があります。これは、ヘルガさんの手紙(意見)「落書きは反対」とソフィアさんの手紙(意見)「落書きは問題なし」を読んだうえで、「あなたは、この2通の手紙のどちらに賛成しますか。片方あるいは両方の内容にふれながら、自分なりの言葉を使ってあなたの答えを説明してください」というものでした。

この問題では、どちらに賛成してもかまいません。「片方あるいは両方の内容」にふれて根拠を示すことを条件に、自分の意見を主張できるかどうかが問われました。つまり、正解を導き出すことではなく、自分でいろいろな情報を使いながら、主体的に問題解決していく力が求められています。2000年には既にこうしたことが問題となっていたのです。

また、英語の教育改革も、大学入試改革と連動して行われています。これからは小学校でも英語が必修になります。これまでは、和訳や暗記が中心でしたが、これからは、「聞く・話す・読む・書く」の4技能が入試でも問われるようになり、ペーパーテストだけではなく、現在の大学入試センター試験で行われているようなリスニングに加えて、スピーキングの試験(面接官との英語での質疑応答)も行われるようになるでしょう。

主体的な学びに必要なこと

主体的に学ぶために大切な3つの要素をお伝えします。

◆学習意欲 学ぶ目的を見つけ、やる気を高める

勉強に対する気持ちは、小学校から中学校にかけて激減します。「勉強しようという気持ち」は小5の時には60%だったのが、中1には37%に減ります。その中では、しっかりと学ぶ気持ちを持たなくてはなりません。
小学生は「学習内容が面白い」「よい点が取れてうれしい」という「内発的動機」から勉強していることが多かったのが、中学生になると減ります。そこで、「同一化的動機」に変わっていかねばなりません。これは、たとえば「社会に役立つ仕事をしたい」「学習内容が役に立ちそう」「将来よい学校に入りたい」など、勉強そのものではなく、実現するために勉強するということです。勉強の位置付けが変わっていくのです。

◆自己理解 自分を客観的に見つめなおし、行動を決める

自分を客観的に見つめなおし、行動を決めましょう(メタ認知……高い位置から自分を見つめる)。

◆学習方法 自分に合った学習法を見つけ、学習の質を高める

日々コツコツ繰り返し勉強することは大事ですが、ただ量をこなすのではなく、それと同様に、いかに質のよい学習ができるかが重要です。たとえば、「丸つけをしたあとに、解き方や考え方を確かめる」ことは、勉強ができる・できないにかかわらず、効果があるといわれています。ぜひ、お子さまが持ち帰った答案などをもとに、実践してみてください。

子どもとの関わり方

子どもとの関わり方のキーワードは3つです。

◆プロセスを「褒める」

保護者の肯定的な関わり(やりたいことを応援してくれる、よいことをした時に褒めてくれる、失敗した時に励ましてくれるなど)があると、子どもが自分に自信を持つということが、高校生の調査からわかっています。

◆共に「考える」

保護者のかたが一緒に考える機会をつくりましょう。「どうしてそうなったのだろうか」と過去を見つめる「原因思考」と、起こってしまったことを踏まえ、「どうすればうまくいくだろうか」と未来と向き合う「結果思考」の2つを問う手法を用いると効果的です。子どもの考えを促します。ぜひ実践してみてください。

また、子どもとの会話が、中学生・高校生の思春期になるにしたがって、「ご飯!」「服!」「風呂!」などと、どんどん単語に近くなっていく場合が多く見られます。しかし、それではいけません。文章でしっかり会話をしましょう。主語と述語を大切にし、「お母さん、お風呂はもう沸いていますか?」「ご飯は何時くらいになるの?」という言葉にします。文章で言うためには、前後のことを考えながら文脈をしっかり作っていかねばなりませんので、頭を使います。親子でこうしたことを考えるだけでも、考え方が豊かになり、考える力が育っていくのです。

◆子どもが「決める」

よくある誤りの例として「頼まれないことも代わりにやってあげる」「子どもに指示を出す」などがあります。しかし、我慢して、「先回りしてやらない」「自分で考えられるような問いかけをする」ことを心がけましょう。子どもは失敗するかもしれませんが、主体的に考える場面をつくってあげることが、とても大切です。

子どもが主体的な学び手になるために、いちばん必要なのは、もちろん子ども本人の努力です。しかし、それを支えるのは、学校の先生の努力と家庭の努力、すなわち保護者のかたのお子さまとの関わり方です。そこをしっかり理解して、子どもと関わっていただきたいと思います。

保護者は子どもから、「手を離すために手をかける」。このことが、この先子どもが80年、90年生きていくために必要な力を育てる、非常に大きなカギになると思います。

プロフィール


小泉和義

ベネッセ教育総合研究所 主任研究員。全国の小学校、中学校、高等学校などの現場を取材し、子どもたちの実態や学校での指導課題を踏まえ、「今」と「これから」の教育に必要なことは何かを発信し続けている。

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