速報! 2016年度 首都圏中学入試の傾向と分析【第5回】社会

2016(平成28)年度の首都圏中学入試にはどんな傾向が見られ、どんな力が問われたのでしょうか。
森上教育研究所主催のセミナー「平成28年度首都圏中学入試の結果と分析」での、文教大学の早川明夫先生による「社会」の分析をお届けします。

  • ※以下は同セミナーでの早川明夫先生による分析を抄録したものです。

■合否は基礎・基本の成否で決定

今年度の全般的な出題傾向は、昨年と大きな変化はありません。社会科でも他の教科同様、基礎・基本の問題が大半で、これが合否を決定します。社会科において基礎・基本とは「用語の意味をしっかり理解する」ということです。理解が不足していては応用ができませんし、知識がぶつ切りになり、知識と知識をつなげることができなくなってしまいます。一問一答形式の勉強方法は、最後のまとめとしてやる分にはよいのですが、最初からそうした方法で勉強していては、思考力はなかなか身に付きません。

たとえば、今年の日本女子大学附属中では「天皇の命令のことを何というか」という問題が出ました。答えは「詔(みことのり)」で、これは教科書に書かれている事項です。また、「主権とは何か」という、社会科において本当に基礎的な知識や用語を問うたり、その意味を本当にわかっていなければ解けなかったりするような問題が増えています。

特に地理においては、都道府県名や、都道府県庁所在地、都道府県の形が頭に入っていなければ解けない問題が多く出されています。たとえば、雙葉中では新幹線のルートを問う問題がありました。昨年もこのような問題が数校で出されましたが、これに解答するためには、都道府県の位置を頭に入れ、そのうえで新幹線のルートを確認しておかなければなりません。

また、難問も出題されました。難問は大きく2種類に分けられます。
まず、単に難しい用語や人名を問う問題です。こういう問題は「無視」してかまいません。出題の意図がわかりかねるからです。たとえば、暁星中では「橘諸兄」や「藤原仲麻呂(恵美押勝)」を答えさせる問題が出ましたが、これは大学入試レベルです。難問に時間を割くよりも、基礎・基本を固めることに時間を割いたほうが賢明です。

ただ、難問の中には、「ご当地問題」のようなものもあります。開成中では「荒川流域の低地に見られる土盛りした施設の名称を答えなさい」という問題が出されました。これは「輪中」として考えれば、答えは「水屋」です。しかし、荒川流域において、当該施設は「水塚(みづか)」といいます。また、荒川と隅田川の分岐点となる水門(岩淵水門)も問われました。どうしても開成中に合格したい場合には、所在地である荒川区など、地元の博物館等に行くとよいでしょう。しかし、基本的には難問は重視しないほうがよいと思います。

■問題の形式……記述式問題の増加

問題の形式では、記号で答えさせる選択肢問題の割合が最も多かったのですが、一方で記述問題の増加傾向がうかがえ、全体平均で85%にアップしました。記述問題の内訳は、(1)理由を問う問題、(2)資料の読み取り問題、(3)用語の説明です。これからは授業には、「なぜなのか」「どうしてなのか」という意識を持って臨むことが必要だと考えられます。

資料を読み取る問題も、大半の学校で出題されています。中でも、地理分野で資料を使った問題が多く見られます。資料に地形図を取り上げる傾向は変わらず、3校に1校程度の割合で地形図が使われています。

■時事問題の出題が過去最多に

今年の問題の特徴は、時事問題を直接出題、あるいは時事問題を念頭において出題するといった問題が非常に多かったことです。

東日本大震災翌年の2012(平成24)年に、94%の学校で時事問題が出題されましたが、今年はそれを上回り、96%と過去最高でした。出題された事項のうち、第1位の「選挙権年齢を18歳に引き下げ」は28校と、今回分析した中学校の38%で出題されました。なお、この「選挙権年齢を18歳引き下げ」が最初に適用されるのが、2016年夏の参議院議員選挙で、それについての出題が第4位でした。これらを合わせると39校と、非常に高い割合です。

例年、国政選挙の翌年は、国会や内閣、選挙に関する問題が多く出されます。今年は、参議院選挙のほかにも衆議院議員選挙が行われるかもしれませんし、アメリカの大統領選挙もあります。おそらく来年は選挙や国会、内閣に関する問題が多く取り上げられるでしょう。

さて、選挙権年齢の引き下げはどういう形で出題されたのでしょうか。多かったのは「何歳から何歳へ引き下げたか」「どうして引き下げたのか」という問いです。他にもいろいろな角度から問いを考えることができます。こうした直接的な問題とは別に、麻布中ではこれをさらに発展させ、男女間の格差のことが取り上げられました。

2番目に出題が多かったのは、「明治日本の産業革命遺産」です。世界遺産は過去の世界遺産(富岡製糸場)も出され(9位)、あわせて18校です。

入試における時事問題とは、主に入試の前年に起こった出来事を指します。入試問題の作成時期を考えると、出題される時事問題は、8月ごろまでのことが主だと考えられます。しかし、12月ごろに起こったことが、翌年の入試問題で取り上げられたこともあります。そのため、ノーベル賞や、年内に起こった重大な事件については、しっかり見ておくことが必要でしょう。

また、PKO(国連平和維持活動、7校で出題)やNGO(非政府組織、6校で出題)などのアルファベットの略称、憲法の条文などもよく出題されます。特に憲法は改正される可能性があり、要注意事項だといえます。

■小学校の教科書からの出題が散見される

小学校の教科書から、あるいは教科書の事項を応用した問題が増えています。たとえば開成中の問題では、「両国の花火」や日露戦争の「旅順の戦い」が出題されていますが、2つとも、教科書(東京書籍)に図版が載っています。
また、フェリス女学院中では、奈良の大仏に使用された金が主にどこで採れたかが問われています。これも教科書に載っている事項です。宮城県の涌谷(わくや)町で、日本初の金が産出し、朝廷に献上されました。なお、大仏づくりでは水銀も使われ、中毒者が出ています。こうしたことから公害へ結びつけるなど、横断的な学習も可能です。
湘南白百合学園中では、江田船山古墳出土鉄剣と、稲荷山古墳出土鉄剣が出題されています。こちらも教科書で取り上げられています。

■上位校で資料を批判的に読み取る力を問題が増大

上位校では、資料を批判的に読み取る力を求める問題が増加しています。駒場東邦中では、工場地帯分布図から、「IC工場の分布が、日本全体の産業の発展においてどのような役割を果たしたか」が問われました。答えは「太平洋ベルト以外にも工場が作られ、地方の工業の発展を図る役割を果たした」です。また、同じく駒場東邦中で、投票率と得票率から、ある政党の支持率を問う問題が出されました。これは、算数の力も問われる問題です。

鴎友学園女子中では、沖縄県についての問題が出されました。沖縄県の収入は、米軍基地によるものが多いと思われているかもしれません。しかし、グラフを読み取ることで、県の収入の半分を観光収入に頼っており、基地が経済発展を阻害している可能性がわかります。そして、ここから新基地建設の問題を考えさせるようになっています。

■今後の対策……教科書の読み込みや教科横断的な学習を

来年度に向けての対策は、やはり基礎・基本の徹底です。教科書をおろそかにせず、よく読んでください。また、本文と同じように図版のキャプションなどを読み込むことが大切です。また、「さくいん」で用語のチェックをするとよいでしょう。

また、教科の枠を超えた横断的な学習が必要です。知識と知識を結び付けて理解しましょう。たとえば、「火山・地震などの自然災害の理解には理科の知識も必要」「なぜ、暖流より寒流のほうが魚は多いのか」「なぜ、種子島にロケットの打ち上げ基地があるのか」といったことは、横断的な学習をすることで、理解できるようになります。

さらに、資料問題や記述問題が増加していますので、正確に文章や資料を読む力や、読み取ったものを表現する力を身に付けねばなりません。そのためには、普段の生活で「社会科のアンテナ」を高く張っておくことが大切です。小学生向けの新聞や雑誌を読むことを習慣にすると、より理解や興味が深まるのではないでしょうか。

(筆者:早川明夫)

プロフィール


早川明夫

社会科入試問題研究の第一人者。大学付属中高の教頭を経て、文教大学で社会科の教員養成にあたった。現在、文教大学地域連携センター講師。主な著書に『応用自在』『考える社会科地図』『総合資料日本史』『地図っておもしろい!』(監修・執筆)ほか多数。『ジュニアエラ』の総監修者。

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