関東学院大学 人間環境学部 健康栄養学科(1) ヤマイモ、オクラ、モロヘイヤのネバネバ成分の謎を解き明かす[大学研究室訪問]

日本が転換期を迎えた今、大学もまた大きく変わりつつあります。そんな時代に、大学や学部をどう選び、そこで何を学べば、お子さまの将来が明るく照らされるのでしょうか。ヤマイモやオクラなどの粘りのある食品の研究に取り組む、関東学院大学人間環境学部健康栄養学科の津久井学先生の研究室をご紹介します。今回は、研究内容について伺いました。



■ヤマイモ研究に魅せられて

食品の粘りを取り出す装置

私の研究室(食品製造学研究室)では、ヤマイモ、オクラ、モロヘイヤの持つ粘り、つまり「植物性粘性物質」について研究をしています。私がネバネバ食品の研究をスタートしたのは、大学院生の時からです。それまでは、ジャガイモの研究をしていたのですが、指導教官のひと言がきっかけで、ヤマイモの粘りについて研究し始めました。

ヤマイモとひと言でいっても、世界中に600種類以上もあり、日本で食用とされているものは農林水産省の分類で長芋、大薯(だいじょ)、自然薯(じねんじょ)の3つの種類に分けられ、この総称としてヤマイモ(もしくは、ヤマノイモ)という名前が使われています。ヤマイモは、すり下ろしてとろろとして食べるイメージが強いと思いますが、とろろとして食べられるのは生産量の半分程度。もう半分は、品質改良剤としてさまざまな食材に入っています。たとえば、まんじゅうの皮、お好み焼き粉やそばなどが挙げられます。その多くには、手軽に利用できるよう乾燥させたヤマイモの粉が使用されています。しかしある時、「乾燥してしまうと粘度が落ちてしまう」とある企業から私の在籍していた研究室に相談がありました。そこで、ヤマイモを粉にしても粘りが落ちないようにするにはどうしたらよいかを研究することになったのです。

当初は、ヤマイモ研究には乗り気ではありませんでした。実は幼いころに口の周りがかゆくなった記憶があり、苦手な食材だったからです。ただ、粘りのある食べ物を好むというのは、日本独特の食習慣で、世界のほとんどの国では、粘りのある食品は食べられていません。そのため、世界でもこの分野について研究している科学者がほとんどおらず、謎の多い食材でした。食べるのは苦手でしたが「誰も取り組んでいないテーマを自分で解き明かしてみたい」という気持ちが私を動かしました。

私が注目したのは粘りの成分です。これまでの学説では、ヤマイモの粘りはマンナンという多糖によるものだとされていました。しかし、多糖が粘りの主体だとしたら、加熱したら粘りがなくなるのはおかしいと気付いたのです。研究を進めるうちに、マンナンだけでなく、糖たんぱく質がヤマイモの粘性物質を構成していることがわかりました。生卵は加熱すると粘りがなくなりますよね。ヤマイモもそれと同じようなしくみで、加熱するとたんぱく質が変性し、粘りが消滅してしまうのです。加熱して乾燥させると粘りが落ちてしまうけれど、凍結乾燥すれば粘りは落ちにくいことが研究して明らかになりました。今ではフリーズドライされた商品がメインになっています。ヤマイモの研究がきっかけで、未知の分野を切り開くおもしろさを知り、約20年、ネバネバ食品の研究を続けてこられたのだと思います。



■ネバネバ成分の構造を明らかにしたい

食品の粘りを分析する装置

ヤマイモから研究をスタートし、今ではモロヘイヤとオクラについても研究を進めています。植物性粘性物質とひと口にいっても、ヤマイモ、モロヘイヤ、オクラが持つ粘りは、成分も構造もまったく違うからです。ヤマイモは加熱すると粘り成分はほとんどなくなってしまいますが、モロヘイヤは加熱しても粘り成分は消えません。オクラはその中間です。

現在、食品業界の中では、粘りがないものに粘りを加えたい場合、増粘剤を使います。たとえば、アイスクリームにはアルギン酸という食品添加物が使われることがあります。ヤマイモでも、粘りが足りない場合は増粘剤を加えたものが使われることがあります。現在は、ヤマイモ、モロヘイヤ、オクラが持つ粘りの謎を解明し、増粘剤に頼らずに天然由来の成分で制御したいと考えています。たとえば、加熱しても粘りを求めたい時には、モロヘイヤの粘り成分から抽出したものを使うといったようなことです。しかし、この粘り成分を食品から抽出するのもひと苦労です。研究を続けていても、いまだにうまくいかないこともあります。ただ、世界に類似の研究をする研究者もいないため、まだまだ研究課題が山積みなのが、この研究のおもしろさであると感じています。



■ネバネバ文化を後世にも伝えたい

ネバネバ食品は年配には非常に人気が高いですが、ヤマイモ農家のかたは、若いかたがヤマイモをあまり食べないことを気にされています。すり下ろすのは面倒だし、口や手がかゆくなるのが気になるかたも多いかもしれません。ただ、ネバネバ食品の粘りを生かす食文化は日本独自のものだからこそ、残していきたいと考えています。そのために、今、企業と協同で、かゆくならないヤマイモの研究をしているところです。

また、ヤマイモの機能面の研究も行っています。ヤマイモは、古くから漢方に使われるなど、滋養強壮作用があるとされていますが、最近注目されているのはヤマイモに含まれるジオスゲニンという成分です。この成分は、人間の男性ホルモンや女性ホルモンと似た構造を持っているため、体の代謝がアップするという報告もあります。このように研究したいテーマはまだまだたくさんあります。世界でもまだ知られていない知見を明らかにしたい、そんな人にぜひ学んでほしい分野です。


プロフィール



お子さまに関するお悩みを持つ
保護者のかたへ

  • がんばっているのに成績が伸びない
  • 反抗期の子どもの接し方に悩んでいる
  • 自発的に勉強をやってくれない

このようなお悩みを持つ保護者のかたは多いのではないでしょうか?

\そんな保護者のかたにおすすめなのが/
まなびの手帳ロゴ ベネッセ教育情報サイト公式アプリ 教育情報まなびの手帳

お子さまの年齢、地域、時期別に最適な教育情報を配信しています!

そのほかにも、学習タイプ診断や無料動画など、アプリ限定のサービスが満載です。

ぜひ一度チェックしてみてください。

子育て・教育Q&A