大学から見た『大学改革の概説』
ベネッセ教育総研 研究員  山本 以和子 2003年4月25日


 はじめに 

 現代の大学改革は、日本がこれまで経験したことのないほどの規模と早いスピードになっているといわれている。少し目を離した隙に、大学改革で聞く言葉や方向性、フィールドが様変わりしている。特に最近では多様化や個性化、民主化など今までの大学の存在の中では予想だにしない展開が生まれている。
 これらの方向性は、1991年の大学設置基準の大綱化後に推進された。それ以来、従来の大学の型にはまらない新しい大学の姿を求めて、改革は日々前進している状況である。
 また、時代の要請も見逃せない。世界の潮流は、グローバル化、IT化、人口問題、財政の安定化で表現されている。留学生獲得問題、ITを利用した遠隔教育への模索、18歳人口と生涯学習社会の中での大学の関わり方、高等教育予算とその運用など、潮流に関連した問題は多岐にわたる。これらの潮流に乗り遅れないためにも現在の日本の大学はどこに自らのポジションを求めればいいのかを考えることが急務になっている。
 当レポートは、進化、変貌しつづける日本の大学改革についてその背景や意義といった因果関係を紐解いて整理してみたいと考えている。特に大学改革の根幹に流れる事象を考察してみたいと思う。
 そのためにも前提として以下の2点を押さえることが大事である。まず、現代の日本の大学改革の多くは、欧米の高等教育改革を参考にしている点である。たとえば、「アカウンタビリティ」や「リメディアル教育」や「入学者受け入れ方針」といった言葉は、欧米の施策から輸出され、和訳・翻訳された言葉である。つまり、それらは元来の語源に立ち返って意義や意味を理解することに努める必要がある。現在、訳されている日本語をそのまま日本語的に解釈すると、若干意味するところが異なっている場合がある。その国の高等教育システムや政策を知ることで、それらの言葉の本当の意義とその深さが明らかになる。
 2点目は、大学や大学改革でよく見たり聞いたりする「マス型」や「ユニバーサル化」といった言葉についてである。実はこれらは、マーチン・トロウというアメリカの高等教育研究者が1970年代に提唱したモデルの言葉である。M.トロウは、高等教育の性格変化を進学率の変化に着眼してそのモデルを説明している。それは、すでにユニバーサル・アクセス型(ユニバーサル型)に進んでいるアメリカの高等教育を参考にしており、大学進学率が増加すると高等教育の性格が図のように変わるというものである。「大学進学率が同一年齢層の15%を超えると、高等教育は、エリート型からマス型に変化する。そうすると、大学進学の要件は・・・というように変化する」といった具合である。このモデルは、「トロウ・モデル」としてよく知られている。日本の場合はどこに属するかというと、2001年大学への進学率は49.6%。まさにユニバーサル段階に入ろうとしているところのマス型である。そのユニバーサル段階に入っているのはアメリカ合衆国、マス段階はドイツなど、エリート段階はイギリスや中国などが当てはまる。

図 M.トロウによる高等教育システムの段階的移行に伴う変化の図式

高等教育システムの段階 エリート型 マス型   ユニバーサル・アクセス型
全体規模(該当年齢人口に占める大学在籍率) 15%まで 15%〜50%まで 50%以上
該当する社会(例) イギリス・多くの西欧諸国 日本・カナダ・スウェーデン等 アメリカ合衆国
高等教育の機会 少数者の特権 相対的多数者の権利 万人の義務
大学進学の要件 制約的(家柄や才能) 準制約的(一定の制度化された資格) 開放的(個人の選択意思)
高等教育の目的観 人間形成・社会化 知識・技能の伝達 新しい広い経験の提供
高等教育の主要機能 エリート・支配階級の精神や性格の形成 専門分化したエリート養成+社会の指導者層の育成 産業社会に適応しうる全国民の育成
教育課程(カリキュラム) 高度に構造化(剛構造的) 構造化+弾力化(柔構造的) 非構造的(段階的学習方式の崩壊)
主要な教育方法・手段 個人指導・師弟関係重視のチューター制・ゼミナール制 非個別的な多人数講義+補助的ゼミ,パートタイム型・サンドイッチ型コース 通信・TV・コンピュータ・教育機器等の活用
学生の進学・就学パターン 中等教育修了後ストレートに大学進学,中断なく学習して学位取得,ドロップアウト率低い 中等教育後のノンストレート進学や一時的就学停止(ストップアウト),ドロップアウトの増加 入学期のおくれやストップアウト,成人・勤労学生の進学,職業経験者の再入学が激増
高等教育機関の特色 同質性
(共通の高い基準をもった大学と専門分化した専門学校)
多様性
(多様なレベルの水準をもつ高等教育機関,総合制教育機関の増加)
極度の多様性
(共通の一定水準の喪失,スタンダードそのものの考え方が疑問視される)
高等教育機関の規模 学生数2000〜3000人
(共通の学問共同体の成立)
学生・教職員総数3万〜4万人
(共通の学問共同体であるよりは頭脳の都市)
学生数は無制限的
(共通の学問共同体意識の消滅)
社会と大学との境界 明確な区分
閉じられた大学
相対的に希薄化
開かれた大学
境界区分の消滅
大学と社会との一体化
最終的な権力の所在と意思決定の主体 小規模のエリート集団 エリート集団+利益集団+政治集団 一般公衆
学生の選抜原理 中等教育での成績または試験による選抜(能力主義) 能力主義+個人の教育機会の均等化原理 万人のための教育保証+集団としての達成水準の均等化
大学の管理者 アマチュア大学人の兼任 専任化した大学人+巨大な官僚スタッフ 管理専門職
大学の内部運営形態 長老教授による寡頭支配 長老教授+若手教員や学生参加による”民主的”支配 学内コンセンサスの崩壊?
学外者による支配?

M.トロウ『高学歴社会の大学』(天野郁夫,喜多村和之訳,東京大学出版会,1976)より喜多村和之が図表化
(M.トロウ『高度情報社会の大学』(喜多村和之編訳,玉川大学出版部,2000)の解説より引用)

 このトロウ・モデルを参照していただいても分かるとおり、大学改革やその問題は、さまざまな領域の課題があるときは単体でまたあるときは複合的に絡まりあって因果関係を成している。これら因果関係の一部をたどって、大学改革の流れとその意義を確認していきたい。
 

現代の大学改革概説  ― 大学入学者選抜 ―


T  共通一次試験に至る過程 

 大学進学率が少なかった時代は、大学にとって大学入試は学力主義で実施され、その目的自体が選抜であった。昭和20年代の「進学適性検査」や30年代の「能研テスト」と大学入試の改善に向けてこれらのテストが導入されたが、結局は大学側の十分な活用が見られなかった。
 そもそも、日本における入試制度の改善の方向は、「各種の選抜資料を総合して能力・適性に応じた合否判定をする総合判定主義」であった。それゆえ、大学が入試の主導権を握っており、大学の一方的な基準での選抜がなされていた大学入試は激しい自由競争の中にあった。
 1960年代ごろから、日本の高等教育は拡大する。多くの私立大学が設置され、それに伴い、国民の大学進学志望も高まりを見せた。その高まりから大学入試の競争も年々激化し、特定大学へ志願者も集中した。また受験生の「負担過重」や「落ちこぼれ回避」等心身の問題と受験準備費用等の増大が社会問題化していった。
 1971年(S46)、中央教育審議会答申の「今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について」(四六答申)では、入試突破に注力した学習や選抜結果の妥当性、大量浪人の蓄積などが問題として、以下のような提案を行った。
  1. 高等学校の学習成果を公正に表示する調査書を選抜の資料とすること。
  2. 広域的な共通テストを開発し、高等学校間の評価水準の格差を補正するための方法として利用すること。
  3. 大学側が必要とする場合には、進学しようとする専門分野においてとくに重視される特定の能力についてテストを行い、または論文テストや面接を行ってそれらの結果を総合的な判定の資料に加えること。
「今後は、中等教育の段階で、その本来の目的に応じた勉学に専念した者の学習成果が公正に評価され」る大学入学者選抜の実現化が望まれたものとなった。
 従来から文部省(現:文部科学省)に設置されている大学入学者選抜改善会議は、この答申の内容も汲んで、同年年末に入学者選抜方法について各種の選抜資料を多角的に活用し、能力・適性を総合的に判断する事を強く提唱した報告書を提出している。具体的な改善方策としては、
  1. 調査書の活用
  2. 共通学力検査の実施
  3. 大学が行う学力検査等の改善
  4. 大学における入学者選抜事務処理体制の整備
  5. 高等学校における進路指導の充実
を挙げている。その後、国立大学協会は、全国共通一次試験の基本構想やその試験実施に向けての調査委員会で検討を繰り返し、1977年(S52)大学入試センターが設置された。
 

U  大学入試センター試験に至る過程 

 1979年に共通一次試験がはじまった。共通一次試験は、全国同時に同一問題で実施し、「高校における基礎的、一般的達成度を測る」という目的から、高校の教育課程を的確に反映した共通試験である。この学習指導要領を考慮した検査問題によって、難問・奇問は減少し、高等学校の教育の基礎的な到達度を判定することが可能になった。また、二次試験である大学独自試験が軽減され、それに伴い、学力以外の検査(小論文や面接)を導入する大学が増えてきた。また推薦入学や帰国子女などの特別選抜も増加し、選抜方法が多様化されたという評価になっている。
 しかし、この共通一次試験でも新たな課題が出てきた。一律5教科を利用するという原則により大学の序列化をますます推進させることになった。また、一次試験がマークシートのため、思考力を測るための二次試験となり、論述・小論文試験が増加した。しかし、採点基準の妥当性の開発は、遅れている状況であった。また、受験情報が大量でかつ詳細であったため、合格可能性だけに基づいた振り分け進路指導となり、入学後の学習を見越した進路とは言いがたい状況であった。
 とは、いうものの一部の課題は、共通一次時代の途中で改革されている。たとえば、理科・社会の2科目必須が受験生にとってかなりの負担感にもつながり、そのうえ高校カリキュラムにも影響をしているということで、1986年(S61)に5教科5科目800点満点に変更になった。また、1期・2期がなくなり、受験機会が減少したため、1986年に連続方式(A・B日程)を導入し、1988年(S63)には分離分割方式(前期・後期日程)を導入し、複数回の受験が可能になった。
 しかし、偏差値偏重による受験競争の過熱や大学の序列化の問題は、1985年(S60)臨時教育審議会第一次答申で新たなテストの提案を促すものであった。この答申で提案された具体策は、以下のとおりである。
  1. 共通一次試験に代えて、国公私立大学が自由に利用できる共通テストの創設
  2. 大学入試センターの設置形態・機能の検討・改革
  3. 各大学の入試担当機能の強化
  4. 進路指導の改善
  5. 国立大学の受験機会の複数化
  6. 高等学校職業科卒業生対象大学進学への配慮
 この提言を受け、文部省(現:文部科学省)は大学・高等学校関係者から成る大学入試改革協議会を設立する。そこでは、新テストの目的や内容、利活用の方法、実施体制について言及し、大学入試センターのあり方(任務・運営・設置形態)やテスト名称の検討や高等学校における進学指導の改善の推進について協議され、1988年(S63)に最終報告が出された。その結果、1990年度入試より共通一次試験が大学入試センター試験へとなった。
 

V  大学入試センター試験の実施 


 大学入試センター試験(以下、「センター試験」)は、共通一次試験の「高校における基礎的、一般的達成度を測る」という目的から「基礎的な学習の達成度を測る」というように目的が変更された。また、共通一次試験と異なる点は、まず私立大学の利用を認めている。ちなみに初年度は16大学19学部が参加している。試験制度も柔軟化され、ア・ラ・カルト方式となり、センター試験は1教科1科目でもよいという自由な利用ができるようになった。さらに共通一次のように国公立大学の第1段階試験という縛りもはずした。当時の文部省(現:文部科学省)は、「各大学はセンター試験での利用教科科目が自由に選択できるようになったことで選択尺度の多様化・個性化が図られ、そのために大学の序列化も規準が違うので物理的には偏差値による輪切りが不可能になった」と言っている。
 しかし、一方では長期にわたって実施されているセンター試験では、初出問題の作成の困難さは年々深まっている。ア・ラ・カルト方式で科目選択の自由化を行っているが、その科目間の出題の難易差を調整するのは至難の技である。さらに科目間の得点調整も問題になっている。そして何よりもこのセンター試験の問題は、いまだに増え続ける受験者数と学習指導要領が原因になっている。



ところで、この大学入試センター試験は、戦後の日本の全国規模でかつ大学入学者選抜用の試験で一番長く実施されている。しかも、18歳人口の減少にも関わらず、私立大学が利用可能なこと、ア・ラ・カルト方式入試の普及に伴い、いまだに志願者数・受験者数が伸び続けている。この1回で50万人以上の規模を誇るテストは、世界中見渡してもこの大学入試センター試験しかないのである。
大学入試センターホームページ(http://www.dnc.ac.jp/)情報より作表
 

W  センター試験の抱える課題 

 さて、18歳人口の減少にも関わらず、大学入試センター試験の志願者数・受験者数が増え続けているのは、大学進学率の上昇で示されているとおり、大学進学志望者が増加しているためである。しかしこの事態は、センター試験をとりまく大学入試に新たな影を落としている。
 まず大学入試の多様化の問題である。共通一次試験では二次試験を大学独自試験と指定し、実施をしたが、さほど期待するほどの多様化にはつながらなかった。逆に、大学の序列化を推進し、学力重視の輪切りの受験指導が行われたと非難された。この共通一次試験での課題を解消すべく、センター試験では利用教科科目の自由化を行い、その結果ア・ラ・カルト方式入試が広がり、入試のより一層の多様化につながった。
 また大学入試の多様化は、高等学校の状況からも推進されている。それは、すでにユニバーサルと化している90%を超える高校進学率と、「ゆとり教育」の実施高校の多様化が背景にある。まず、センター試験は、目的から高校教育の到達度試験であることが明白である。そこで、地歴・公民・理科のAといった2単位科目がセンター試験の中でBの4単位科目と同列に配置されるようになった。
 続いて1982年度より施行されている教育課程は、戦後はじめて履修単位数を削減、選択科目単位を1/2以上に設定して多様化・弾力化を促進している。これらは、高校進学率上昇に伴う学力層の広がり、高校の多様化だけでなく受験生個人の学習歴の多様化という状況を生み出した。これらの状況において、センター試験における難易度設定の難しさを問題として抱えるようになっている。そして、何よりもこの大学入試の多様化は、弾力的な教育課程を通して受験科目しか学習しないといった偏った能力主義的選抜となりがちなのである。これは、日本の入試制度の改善の方向である「各種の選抜資料を総合して能力・適性に応じた合否判定をする総合判定主義」を実現しようとする、当初の期待を裏切る皮肉な姿であり、また高校教育と大学入試、そして大学教育への新たな歪みとなっているのである。

<参考文献>
・中島直忠編(1986)「世界の大学入試」時事通信社
・荒井克弘(1998)「高校と大学の接続-ユニバーサル化への課題-」高等教育研究第1集 日本高等教育学会編
・足立寛(1999)「大学入試過去・現在・未来」ベネッセ文教総研
・山本以和子(2000)「中等教育と高等教育の接続の改善について」名古屋大学大学院資料
・荒井克弘(2001)「戦後の学習指導要領の変遷と大学入試」大学入試フォーラム24 独立行政法人大学入試センター
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