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第1節 大学に行く・学部を選ぶ |
前回の大学満足度調査を実施した1997年から、今回の調査が行われた2001年までの大学進学環境の変化をデータ1にまとめた。
4年制大学への現役志願率(新規高卒者数に対し大学志願者が占める割合)は、5年間で5%以上上昇し(1997年40.6%、2001年46.4%)、現役大学合格率(大学志願者に対し、入学者が占める割合)は10%近くもの急激な上昇を見せた(1997年67.5%、2001年77.3%)。4年制大学は「高校生の2人に1人が受けてみる」ところになり、「受ければ10人に8人は合格できる」(さらに言えば、えり好みしなければ必ずどこかに合格できる)ところとなってしまった。1990年過ぎに始まる大学入試環境の緩和(競争しなくても入れる大学が増える)は、1997年時点では既に相当程度に進行していたとも言えるが、この4年間でそれが決定的になり、大学・高校関係者以外にも広く知られる状況になった。
一方で、就労構造の変化や不況による求人数の減少で、新規高卒者就職率は2000年に初めて20%を切り、2001年では18.4%となった(1997年に比べ6%以上の低下;文部科学省「学校基本調査」より)。高等学校では、「進学するよりも就職するほうが難しい」「就職できなかったので大学に行く」という話が聞かれるようになった。
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本章のデータは、出典に特別の断りが無い 場合は次の調査によるものである。
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| 1997年 |
:「大学満足度と大学教育の問題点」n=14,591(1998年刊)
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| 2001年 |
:「大学満足度調査」n=15,495
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両調査とも全国の4年制大学の2〜4年生を対象とする。
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このような進学環境の変化は、当然ながら学生達の進学目的にも少なからずの変化をもたらしている。
データ2は、大学に進学する理由としてそれぞれの項目に「あてはまる」と回答した割合(とてもあてはまる+ややあてはまる)を、1997年調査と比較したものである。また、データ3では学部系統別に特徴を示した。2つを見比べつつ、1997年からの変化についていくつか指摘してみたい。
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(1)「学問研究志向」の減少と、「資格志向」の増加
大学進学の理由としては伝統的な価値観と言える「専攻する学問を研究したいから(以下、学問研究志向)」が減少している。一方で、同じ「学び」志向に起因する進学理由ではあるが、より実利的な進学動機である「資格や免許を取得するため(以下、資格・免許志向)」が増加している。
学問研究志向に「とてもあてはまる」・「まああてはまる」と回答した学生の合計比率(以下、肯定率)は、1997年は72.2%であったが、2001年には66.6%と6%ほども減少している(データ2)。学部系統別に示したデータ3では、教育系統以外の各学部系統で肯定率が下がっていることが確認できる。特に、経済系統での傾向が顕著である(肯定率1997年56.3%;2001年39.5%)。
一方、「学び」に起因する進学動機の中では、資格・免許志向の肯定率のみが上がっているが、その背景としては人文系統や理・工・農水系統における資格志向の強まりや、ここ数年で保健系統の4年制大学の設置数が急増したこと、などが考えられる。
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(2)「学歴志向」の減少と「モラトリアム志向」の増加
本調査では、学歴志向の進学動機に関して2つの質問を用意した(安定した職業に就くためには学歴が必要だから/社会に出たとき大卒の学歴が必要だから)。データ2では、その両者ともの肯定率が1997年に比べて、下がっていることが確認できる。特に「安定した職業に就くためには学歴が必要だから」の肯定率が大きく下がっている。厳しい就職状況や、企業の採用方針の転換で大学のブランド力に価値が置かれなくなったことが反映されていると考えられる。学部系統別には、資格を取っても就職できない状況が問題になっている教育系統で、最も学歴志向が減退している。
一方、モラトリアム志向と同調志向に分類した4つの質問(自由な時間を得るため/すぐ社会に出るのは不安だから、とりあえず進学する/先生や家族が勧めるから/周囲の人がみな行くから)については、1997年に比べて、肯定率が全て増加している。
学歴志向とモラトリアム志向・同調志向は、両者とも“学習動機に根ざさない進学動機”という点で共通している。その反面、「学歴のありがたみは薄れてきてはいるが、就職したいわけでもないから 進学しておこうか・・・」というように、相互に補完しあう関係でもあると言えよう。
また、同調志向(先生、家族、友人など周囲の意見にあわせて進学する)に基づいて進学してくる学生の増加は、入学者の中に自立心が十分でない、幼い学生が増えている兆候とも受け止められるのではないだろうか。
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「現在通っている大学・学部に進学を決める時に何を重視しましたか」という問いへの回答状況がデータ4である。
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最も重視されているのが、専攻したい学問分野がある〔B5〕かどうかで、他の要因に比べても群を抜いている。次いで入試の難易度〔A1〕や入試方式〔A2〕の適合性が重視されている。授業料の安さ〔D16〕(国公立の場合)や自宅通学の可否〔E13〕など、経済的な制約に関する項目や、資格・免許の取得〔B19〕などが、それに続く。
大学・学部選びのポイントは「学びたいことが学べるか(学問分野)」、「自分の学力で入学可能か(入試難易度)」、「経済的制約条件に合致するか」が三大柱であると言える。
以下に、設置者区分別で特徴的な点をあげてみたい(データ5)。
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| (1) |
国立大学:入試難易度〔A1〕を重視する傾向が公立大学や私立大学に比べて強い。また、総合大学であること〔C6〕、親元を離れられること〔E18〕を重視する傾向も他に比べて比較的強いようだ。施設・設備の良さ〔B11〕を挙げる学生は少ない。
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| (2) |
公立大学:授業料の安さ〔D16〕、資格・免許の取得〔B19〕を重視して大学・学部を選んだ学生が他より多い。資格志向の強さについては、公立大学には保健衛生系等の学部が多いことなども要因であろう。
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| (3) |
私立大学:伝統や知名度〔C7〕、校風〔B8〕、イメージ〔C12〕などを重視して大学を選んだ学生が他より多い。スクールカラー(個性)の違いから学生にアピールできるのは私学ならでは、ということか。また、就職状況〔D9〕について重視した学生は、国公立よりも私立に多いようである。
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大学・学部を選ぶ際に「学びたいことが学べるかどうかが一番重要」と学生が考えることは、至極まっとうなことである。また、第5章でも取り上げたが、学生が専門科目の学習に積極的に取り組むかどうかは「自分のやりたい分野の勉強ができる」こととの相関が高く、「興味・関心が持てる学習内容」が学生の行動を導くキーワードであるようだ。もちろん「意欲を持続する仕掛け」として、授業方法の改善やカリキュラム上の工夫が重要であることは言うまでも無い。
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大学・学部選びの基準は学部系統別に比較してみても、かなりの特色が見られるようである。データ6では、選択要因の重視度の数値を学部系統別に紹介した。大まかな特徴を挙げてみたい。
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(1)〔B学びの条件〕の重視度が高い学部系統
芸術系統の数値が最も高い。専攻内容の専門性が高く、学生の志向性も明確なためと考えられる。専門分野の教授がいるか〔B5:芸術38ポイント;全体9ポイント〕、有名・優秀な教授がいるか〔B4:芸術33ポイント;全体7ポイント〕など、教授陣を重視する傾向も強い。
他にいくつか学びの条件の重視度が高い学部系統を紹介したい。
まず文系で、選考したい学問分野がある〔B3〕ことに対する重視度が特に高いのは、外国語系統(231)、国際系統(212)、生活科学系統(191)、社会学系統(189)、総合・学際系統(185)などである。
外国語系統を志望する学生は専攻言語まで決めて受験する場合がほとんどであり、芸術系統と同様に受験前に進路決定する度合いが高く、それだけ大学での学習内容の吟味が行われているのであろう。
社会、国際、総合(学際)の各系統では、学部名が同じでも大学(教授陣)によって学べる内容が大きく異なるため、入学前には注意深い学部・学科研究が求められる。その分、専攻内容には、こだわりを持った学生が多いと考えられる。特に国際系統、総合(学際)系統では、教員の専門分野〔B5〕への注目度も比較的高い。生活科学系統では取りたい資格・免許が取れるか〔B19〕どうかへの注目度の高さが目立つ。
医療系統(保健・医歯・薬)では、資格・免許〔B19〕の重視度が全学部系統中でも最も高い。全体集計で、最も影響の大きい大学選択要因であった専攻したい学問分野があるかどうか〔B3〕よりも、資格・免許を重視しているのは医療系統だけである。この系統では、「資格・免許取得のための学習」が、即ち「自分の専門分野の学習」という図式が成立していると言えよう。また、保健衛生系統では、施設・設備への重視度が14学部系統中で最も高い〔B11:保健衛生41ポイント;全体18ポイント〕。
自然科学系統でも、理学系統と農・水産系統で学問分野〔B3〕や教授陣〔B4・5〕への注目度が比較的高く、工学系統では施設・設備〔B11〕への注目度が高い。
(2)進路支援体制を重視する学部系統
次の3つのパターンに分類できる。
資格・免許の取得〔B19〕と就職状況〔D9〕の両方を重視する;保健衛生、薬学、生活科学系統。
資格・免許の取得は重視するが、就職状況はさほど重視しない;教育、医学・歯学系統。
就職状況は重視するが、資格・免許の取得はさほど重視しない;経済、工学系統。
(3)〔A入試条件〕の重視度が高い学部系統
理系では、医学・歯学系統と自然科学系統(理・工・農水)で、入試条件(特にA1入試難易度)を重視した学生が多く、文系では法・経済系統に多い。特に、法・経済系統の特徴的な点は、学びたい学問領域があるかどうか〔B3〕よりも、入試難易度〔A1〕の方が重視されていて、しかもその度合いが強いことである。参考に〔B3/(A1+A2):入試条件の重視度を100とした場合の学問内容の重視度〕を計算すると、法学系統78.4、経済系統44.9であり、いかに学問内容よりも入試難易度が優先されているかがわかる。
この両学部系統の他の特徴としては、イメージ〔C〕やロケーション〔E〕の重視度が高いことが挙げられ、加えて経済系統では実利的条件〔D〕の重視度も高いことから、入学後の「学び」をあまり意識せずに大学・学部を選択しているのではないかと危惧される。両学部系統とも比較的設置している大学数は多いのだが、大学ごとの「学習内容の違い」や「教育理念・方針」が顧客である高校生には十分に伝わっていないのではないだろうか。経済系統の学生は入学時の意欲の在り方を見ても「専門教育への期待」が、目立って低い(第1章データ14)。期待や意欲は、学習行動を支える基盤でもあり(第5章データ2)、高校生が大学入学後の学習に対する期待を高められるような教育情報の発信(広報)の改善が必要なのではないだろうか。
医学・歯学系統でも、学びたい専攻分野〔B3〕より入試難易度〔A1+A2〕を重視した傾向が見られるが、この学部系統の特色として、資格・免許取得〔B19〕の重視度(医師や歯科医師になりたいという気持ち)も専門分野への学習意欲とほぼ同意義と見なすべきであり、その点を考慮すると、入試難易度よりも学習内容が軽んじられているとは言い難い。
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データ7は、AからEのそれぞれの進学動機に「とてもあてはまる」と回答した学生のみを取りだし、入学後の大学への満足度のスコアを比較したものである。
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1.人間的成長実感度から7.進路支援体制満足度までのほとんど全ての項目で、学歴志向とモラトリアム志向、同調志向の間のスコアの差は小さく、学び志向で入学してくる学生の満足度の高さと、無目的で入学してくる学生の満足度の低さが目立つ。
特に、1.人間的成長実感度と5.教員満足度、6.授業・教育システム満足度の3項目で、学び志向の学生とそれ以外の学生の満足度には大きな開きがある。一方で、4.後輩・弟妹への勧め度では、無目的で入学してくる学生のスコアが目立って低くなっている。
入学後に高い学生の満足度を得て、その後に良質な口コミ(評判)を得るためには、大学広報の場面では、学び志向の高い学生にアピールする内容と方法が重要であり、入試選抜の過程では学生の目的意識を計測する工夫を施すことや、選抜の過程で学生の目的意識を育んでいく工夫も求められるであろう。入学者選抜の過程を改革することは、高校の進路指導のあり方に革新を呼ぶ近道でもある。(この点については、本章4節でも改めて取り上げている。)
データ8では、19の大学選択要因について大学や学部を選ぶ際に「最も重視したもの」の違いによる、入学後の満足度の違いを示した。全般的に、学びの条件〔B〕を重視して大学・学部を選んだ学生の満足度が高く、入試条件〔A〕やロケーション〔E〕を最優先にした学生の満足度は低い。特に「授業・教育システム満足度」では、入試条件やロケーションを最も重視した学生の満足度は低く、「不満足」と感じている者の方が多くなっている。ロケーションも入試条件も大学選択にあたっては、必ず検討しなくてはいけない現実的な条件ではある。しかし、「大学の中身よりも条件を優先」させてしまうと、入学後に「こんなはずでは…」と後悔する結果を招く危険が大きいことが確認できる。
イメージ優先〔D〕の大学選びも、「全般満足度」や「後輩・弟妹への勧め度」は悪くはないものの、「教員満足度」や「授業・教育システム満足度」が低く、問題がある。
最も入学後の満足度が高い大学選択要因は校風やキャンパスの雰囲気が自分に合っている〔B8〕であり、次いで有名な教授、優秀な教授陣がいる〔B4〕や専攻したい学問分野を専門とする教授がいる〔B5〕など教授陣に関する要素が続く。詳細な進路研究を行わないとなかなか分からない点にまで、こだわりを持って大学選択をした学生に入学後の満足度の高い者が多い。
校風やキャンパスの雰囲気〔B8〕については、イメージ〔D〕の要素も含んでいるが、イメージの他の項目よりも大学の“中身”をよく理解していないと選択できない項目であり、また教育方針への理解の要素も含むために、今回は学びの条件〔B〕に入れて整理した。
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