21世紀COEプログラムの行方
ベネッセ教育総研 飯塚 信  2002年11月5日
飯塚信
 先月は大学にまつわる様々な評価の経緯と運営の視点を整理し、大学評価・学位授与機構の公表された評価をもとに、大学が受ける評価とはどのようなものかを検証してきた。今月は、去る10月2日に公表された「21世紀COE(センター・オブ・エクセレンス:卓越した研究拠点)プログラム」の選定結果をもとに、その審査結果を検証してみたい。もとより、この「21世紀COEプログラム」は、2001年6月の「遠山プラン」に端を発する。
 発表内容にある、法人化による大学運営の民間的手法の導入や、教員養成系学部・大学の再編統合、第三者評価による資金の重点配分などは従来の政策の延長線上のものといえるが、その際の「国公私トップ30を世界最高水準に育成」という表現が、非常に上位30大学に限定された序列化を想起させ、センセーショナルに受け止められた。その後文部科学省は、「大学の序列化などの誤解を招いた」として、30としていた選定数も「10〜30、平均20」と幅を持たせた経緯がある。

T.概況
U.選定結果への反応と本質的な見方
V.今回の「COE選定」が意味するもの
W.まとめ




T  概況 

 大学を世界最高水準の研究拠点にするために、特定の大学に予算を重点配分し、研究成果の質的向上を図る文部科学省の「21世紀COEプログラム」の選定結果が発表された。文部科学省から委託された「日本学術振興会」が各5分野(「生命科学」「化学・材料科学」「情報・電気・電子」「人文科学」「学際・複合・新領域」)の選考委員会を設置し、5分野で163大学464件の応募から、50大学113件を選定した。


教育時事 21世紀 COEプログラム公表結果 1
平成14年度 21世紀 COEプログラム  審査結果
生命科学 北海道大・帯広畜産大・東北大・秋田大・筑波大・群馬大・東京大(3)東京工業大・名古屋大(2)京都大(2)・大阪大(2)・
神戸大・奈良先端科学大・九州大・熊本大・宮崎医大・姫路工大・北里大・慶応義塾大・東海大・日本大・立命館大・近畿大
化学・材料科学 東北大(2)筑波大・東京大(2)・東京農工大・東京工業大(2)・長岡技術科学大・信州大・名古屋大(2)・名古屋工業大・
京都大(2)・大阪大(2)・九州大・青山学院大・慶応義塾大・早稲田大
情報・電気・電子 北海道大・東北大・東京大(2)・東京工大・横浜国大・名古屋大(2)・豊橋技科大・京都大(2)・大阪大・奈良先端科学大・
広島大・九州大・慶応大・中央大・早稲田大・名城大・立命館大
人文科学 北海道大・東北大・東京大(3)・東京外大・お茶水女大・名古屋大・京都大(2)・大阪大・広島大・九州大・大阪市立大・
慶応大・國學院大・法政大・早稲田大(2)・立命館大
学際・複合・新領域 北海道大・筑波大・東京大・東京外大・東京農工大・横浜国大・金沢大・岐阜大・豊橋技科大・京都大(3)・大阪大・鳥取大・
愛媛大・佐賀大・長崎大・静岡県立大・大阪府立大・慶応大・上智大・玉川大・早稲田大・愛知大

 選ばれた研究プログラムのうち、74.3%(31大学84件)が国立大学からの選定、さらに旧帝大からは43.4%(49件)に上った。公立大は3.6%(4大学4件)であり、私立大学となると22.1%(15大学25件)と、私立大学側から見ると全体的に「国高私低」という構図であった。
生命科学 化学、材料科学 情報、電気、電子 人文科学 学際、複合、新領域 合計
国立大 申請件数 66(43) 54(44) 49(41) 39(23) 75(46) 283(76)
採択件数 21(16) 18(12) 15(12) 13(10) 17(15) 84(31)
公立大 申請件数 11(11) 5(5) 6(6) 8(7) 8(8) 38(21)
採択件数 1(1) 0 0 1(1) 2(2) 4(4)
私立大 申請件数 35(26) 23(22) 23(19) 32(27) 30(24) 143(66)
採択件数 6(6) 3(3) 5(5) 6(5) 5(5) 25(15)
合計 申請件数 112(80) 82(71) 78(66) 79(57) 113(78) 464(163)
採択件数 28(23) 21(15) 20(17) 20(16) 24(22) 113(50)


 もとより、「21世紀COEプログラム」の目的は、世界のトップレベルの大学と伍して、教育・研究水準の向上や世界をリードする創造的人材を育成し、世界的な研究教育拠点作りを重点的に支援することにより、国際競争力のある世界最高水準の大学づくりの推進役になることであった。
 また、今回の選定対象は国公私立の大学の大学院(博士課程)レベルの専攻等を対象(複数の専攻等の組み合わせや附置研究所等にも配慮)とあり、今年度分、182億円の使途を限定せず配分するものである。そして、文部科学省は採択された各研究に対して、5年間にわたり年間1億から5億円の予算を配分することが決まっている。そして、2年経過後に中間評価、期間終了後に事後評価を実施するシステムである。
 


U  選定結果への反応と本質的な見方


 ところが、選定結果に対して、(このCOEへの理解の度合いにもよるが)マスコミはじめ一部大学関係者の反応は、「大学に競争原理を導入し、"科学技術創造立国"を目指す初の試みだったが、選考理由が公開されず、不透明さも残った」などとやや否定的な見方を報じられたものだった。
総じて、批判の要点をまとめると、以下の数点にまとめられるようだ。

(a)審査の時間の短さ
(b)審査の過程が不透明(非公表である)
(c)審査選定基準が不明(選定・不選定の理由・背景について情報開示が少ない)
(d)実績重視の選定結果(実績・可能性・独創性への総合評価とはなっていない)


 そして、結果として「東京大と京都大が同数で11件、早稲田大・慶応大も同数の5件で並び、既成の「序列」が反映されており、地方に拠点をおく大学がないがしろにされている」との意見もある。
 一方、私立大学では、立命館大が3件と、早稲田大・慶応大に次いで3番目に多く選定されている。
 私立大唯一の放射光装置や、伝統芸能のデジタル保存など、特色ある研究成果が選ばれているものの、関西ではこの立命館大と近畿大のみの選定となった。全体的に東京偏重との声もある。
 発表後、全国紙、地方紙問わず、社説扱いで多くの意見や提言が盛り込まれていた。
 「教育機関への研究予算にメリハリをつけ、科学技術立国の足元を底上げするという意味では、注目されるが、審査は非公開で選定基準もあいまい、選定の過程も理由も分からないでは、評価の客観性はどこにも保証されていない。こうなるのは、高等教育の全体像を国がしっかり描けていないせいだろう。信頼を獲得し、大学改革につなげよ」との意見が大勢であった。

 では、ここまで批判をうけるような、「21世紀COEプログラム」の選定結果であったのか?
 国立財務センター研究部長の天野郁夫教授は言う。「今の一般報道は偏重すぎる。発表の一断面しか見ていない。東大や京都大の数、同数であることが問題なのではない。数で語るならば、むしろ東大が19件選ばれなかった点や、九州大・北海道大が早稲田大、慶応大よりも少なかった事実もある。国立大に対して手厚く充実した施設費・科研費が充当されながらも、突出した実績が見えなかった国立大もある、という見方も出来る。むしろ、何故早稲田大・慶応大・立命館大など各私立大学が選ばれたのかに焦点を当てるべきだ。」

 また、今回は「生命科学」「化学・材料科学」「情報・電気・電子」「人文科学」「学際・複合・新領域」の5つから選定されているが、私立大の定員のボリュームゾーンである「人文科学」では20件のうち、3割にあたる6件を私立大学が占める。
 再び、天野郁夫教授は続ける。「"学際・複合・新領域"では、静岡県立大など、愛媛大、鳥取大など地方の大学が選ばれている。着実に、新領域の学問は育ってきている。それはむしろ歴史の浅い大学、地方でも着実に行われていること・・・であると言える。多面的な評価が大事。これらは、社会に対してもっと訴求されていい。」
 どうやら、大学進学者を抱える高校現場でも、複眼的な視点がますます必要になってくる。
 


V  今回の「COE選定」が意味するもの 


 2001年度の科研費1419億円のうち、日本学術振興会が配分し、その行く先を公表している約990億円の7割が国立大学であり、私立大学は2割を切る。また、「科研費の約4割は、全国の10大学に集中する」(山本真一:筑波大学教授調査)との報告もある。2002年度はさらに増額されると言われる。

 従来から、特定の大学に対して配分のあった「科研費」と、今回の「21世紀COEプログラム」と何が異なるか。実は、今回の「COE選定」も特に目新しいものではない。
 すでに、1987年度から「大学院最先端設備費」の名称で文部省の評価によって重点的な予算配分が行われていたのである。これはその後「大学院重点設備費」「教育研究拠点形成支援費」と名称を変えて続いている。例えば、2000、2001年度に行われた「教育研究拠点形成支援費」の配分状況を見ると、東京農工大、横浜国大、東京医科歯科大、千葉大、筑波大、広島大、徳島大、岡山大、奈良女子大、奈良先端科学大、北陸先端科学大などが、旧帝大クラスの大学と肩を並べて支援されている。(中井浩一著:「勝ち組」大学ランキング参照 中公新書クラレ)

 前出の国立財務センター研究部長の天野郁夫教授は「いわば、今回のCOEプログラムとは、研究費の配分過程が透明化され、研究ユニットに配分されるシステムが社会の認知を得た・・・ということになる」と言う。
 大学院研究科などの研究水準はこれまで研究者の暗黙の了解事項に留まっていた。それが今回研究計画の公募を行い、研究チームに対して第三者評価という形で判定された。タブーとなっていた研究業績や研究の可能性の評価に踏み切った意味はある。今回応募した各大学は、得意分野を打ち出す戦略作りを迫られ、専攻の枠を超えて研究チームの構成を行うなどの工夫をした。(例えば「生命科学分野」申請:帯広畜産大・弘前大・岩手大・山形大の大学院連合農学研究科 など)
 今後、「個人戦」から「団体戦」に変化するなかで、成果をあげるには人材の流動や育成が欠かせないだろう。競争的な環境が社会的認知のもとで出来つつあることは重要な意味を持つ。そして、競争的な環境にこそ、今後の優れた研究成果が期待できるのではないか。

 実際に予算も大幅に増えた結果になる。「教育研究拠点形成支援費」の2000年度は33億円、2001年度は44億円に留まっていたのだが、前述の通り2002年度は「21世紀COEプログラム」として、182億円を計上した。2003年度の概算予算請求は、さらに倍増の364億円となる。

 今後は、注目された研究ユニット、またはその学部がどうしても注目を浴びる。これにより、大学の序列が変わる可能性がある。そして、「勝っている人(抜きん出た研究組織)にますます研究資金が集まることになる」と、ある大学関係者は言う。
 例えば、「旧帝大」とひと括りに表現されるが、実は上位4大学(東京大・京都大・大阪大・東北大)と、北海道大・名古屋大・九州大は実は「旧帝大」内でも格差があるといわれる。今後、旧来の序列がどうなるか?さらに、旧帝大の下位3大学と、筑波大・広島大・一橋大・東京工業大などとの間でも、今後逆転する可能性もあるのではないか。

 今後、2003年には「ロースクール(法科大学院)」の設置認可が行われ、2004年度からの入学受入大学が判明する。現在98大学(国立大:30/公立大:3/私立大:65大学)に法科大学院構想が挙がっている。
 そのなかで、実際に法科大学院の設置認可される大学は、1/3以下であろう、と言われる。
 ここでも、大学の「序列化」が見えつつある。
 以上の観点から、今回の「COE選定」は、旧来の大学の存在価値を問い掛ける大きな意義があり、今後の一連の大学改革の試金石と見ることもできよう。
 


W  まとめ 


 「独立行政法人化」(文教速報9月20日号の記事によると閣議決定は、常識的にいえば来年2月か3月、法案成立は会期末ギリギリの6月が見込まれる)をはじめ、「21世紀COEプログラム」が行財政改革の議論から出たことへの大学関係者の不信感、疑問はしばらくは根強く残るだろう。
 「独法化」が将来の予算削減や、人員削減につながる、または「21世紀COEプログラム」が大学間の序列化を加速化させる、との危惧を抱く人は多い。

 大学進学させる側から見れば不明な点も多い。「一体何が変わるのか?」
 ただし、大学が今後「研究・教育内容で説明責任を負う」機会が増えてくるのは確実である。
 大学は「競争の課程」で評価されなければならない状況
である。

 今年7月の報道によると、経済産業省は、日本の産業競争力に対する寄与度で、大学をランキング化する計画を明らかにしている。偏差値、知名度に囚われないために、「どの大学が優れた教育や研究を行い、競争力の向上に貢献したかを明確化することで、大学間の競争を促す。2003年度は、「バイオ・IT(情報技術)」の2分野で、大学ランキングを試作し、2006年までに理学、工学の各分野で評価方法を確立する予定だ。
 論文の質などを点数化する方法も検討する模様である。
   
 一方、文部科学省は「21世紀COEプログラム」とは別に、「特色ある大学教育支援プログラム」を2003年度から開始する予定である。(概算予算請求:140億円)
 優れた教育を行っている国公私立大学・短大を選び、重点的に支援する、とある。「学生の満足度」「語学教育の充実」などのテーマごとに、教育内容の取組み改善などが審査の対象になる模様だ。
 ここでは、教育レベルの高低ではなく、優れた学部教育のシステム・取り組みに与えられるものとなりそう。
 つまり、学部教育の質保証への評価(どれだけ熱心に、具体的に取り組んでいるか)が審査されるのである。

 今後、「国立大学評価委員会」が新たに設置される。第三者による「大学評価」も具体化が進んでいる。
 様々な尺度で、大学の持つ研究・教育の成果や可能性が公表されていく時代である。
 その意味で今後大学は、「大学の自治」「学問の自由」を保持するためにも、「何をどこまで、どのようなシステムで学ばせてくれるのか」などの具体的な説明責任を負わなければならない。
 そして、「外部評価」により公開されていく研究・教育の内容に関して、高校現場や社会からは、その情報を正確に掴む視点(より価値判断できる目)が求められるだろう。
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